おっさんの大博打
ジャラララッ!
「ぅ、待てぇ!!! ・・・ぅッぐぅっ!」
「っ!!」
「・・・!?」
ビクッ
一触即発!
オレは見ていられなくなって、寝ころんだまま、
思いっきり、大きな声を張り上げた!
村長の動きが、ビクンと止まり、
その村長の後ろにいる男たちも、ビクンとなって止まった。
まだ魔道具を発動させていないようだ。間に合った・・・。
「ぐっ・・・! ぅっ・・・!」
ジャララララ・・・
叫んで、力んだだけで全身に痛みが走る!
その痛みをこらえながら、上体を起こす・・・!
「あ、あいつ、動けるのかよ・・・!」
ざわざわざわざわ・・・
オレが動けるとは思っていなかった男たちがざわつく。
「な、なんだ!? そこのジジィ!」
「ぐっぅ!・・・オ、オレたちは、シホが言った通り、
そこの長谷川殿とは、たまたま宿屋で、会っただけの、
偶然の出会いの仲だが・・・ぅ、それでも、オレは、
長谷川殿の、『海獣』討伐にかける熱意を、感じた・・・!
そ、村長殿も、感じたのでは、ないか!?」
「熱意だと!?
熱意があれば、なにをしても許されるとでも言うのか!?」
村長の怒りは、そう簡単に静まりそうもない。
振り上げた右手の剣を、今にも振り下ろそうとしている。
しかし、今、ここで村長を説得できねば、
オレたちも・・・長谷川さんのここまでの想いも・・・
すべて消えてしまう!
「ぉ・・・ぉお・・・さ、佐藤殿も・・・おられたか・・・。」
「・・・!」
ゾクッ
長谷川さんは、オレの声に反応して
こちらに視線を向けてきたが、その真っ赤な顔は
もはや人間のものに見えなかった。
『刀』の気持ち悪さに加えて、長谷川さんの存在自体に、
恐怖を感じてしまう・・・。
今の今まで、オレに気づかれてなかったのか。
「・・・な、何をしても許される、わけではない・・・。
しかし・・・ね、熱意なんて、生易しいモノではなく・・・
しゅ、執念というべきか・・・。
こ、この鬼気迫る、長谷川殿の執念と、恐ろしいほどの・・・
エネルギーを持った、その武器ならば・・・あるいは・・・
例の『海獣』を・・・と、討伐、できるのではないか、と。
オレは、それに賭けてみたいと思う・・・!」
口の中が痛く、唇が腫れていて、喋りにくい。
それでも、オレは自分の想いを伝えることに必死だった。
「そ、揃いも揃って、ジジィ同士が、寝ボケたこと言ってんじゃねぇぞ!
俺たちよりも強い海賊団を、数百人もいた海賊団を、
全滅させた『伝説の海獣』だぞ!?
このジジィ1人、行ったところで何も変わらない!
海の藻屑になるのがオチだ!
第一、近づくだけで俺たちまで巻き込まれちまうだろうが!
そんな茶番に、俺たちが付き合うことはねぇ!
それよりも、俺の大切な仲間を殺した報いを・・・ここで受けてもらう!」
村長の否定の言葉は、とても現実的に聞こえる。
たぶん、好戦的な村長の性格からして、本当なら討伐へ行くはずだ。
しかし、今の言葉からは、仲間を想って討伐へ行かないという決断をしたように聞こえる。
・・・仲間たちの命を守るため、そして伝承を信じているがために、
『海獣』に触れないという選択をしたのだろう。
やはり、村長を説得するのは無理か・・・。
「貴様ら、まとめて・・・!」
「それでも、お前は、海賊の頭か!!」
「・・・!!」
今にも村長が、自爆の合図を出そうとした瞬間、
オレは、一番きつい言葉を使った!
ともすれば、刺激して怒りを買い、逆効果になる言葉だ。
叫ぶごとに全身に痛みが走る・・・!
「なんだと・・・!? 貴様ぁぁぁ!!」
ブン! ガッキィィィィィィン!
案の定、村長がキレた!
右手に持っていた剣を、鉄格子に投げつけてきた!
幸い、剣は鉄格子に弾かれて、すぐそばの地面に突き刺さった。
鉄格子が、震えている音が響く。
ざわざわざわ・・・
「お、お頭・・・!」
「・・・!」
村長の周りにいる男たちも驚いている。
いや、少しビビっているように見える。
それほどまでに、怒っている村長が怖いのだろう。
「ぐっ・・・だって、そうだろう!?
い、今、まさに! お前は! 大切な仲間たちを、ここで!
こんな暗い地下牢で! 無駄死にさせるつもりなんだからな!
ぐっぅぅ・・・そ、それこそ、茶番だろうが! はぁ、はぁ・・・!」
「貴様ぁ! 言わせておけばぁ!!」
ガシャン!
いきり立った村長が、
こちらへ向かってきて鉄格子を蹴り、オレを睨んでくる。
おろおろしている男たち。
自爆の合図を待っていたから、この急展開についていけないようだ。
「お、お前の、仲間を守りたい気持ちは! そんな程度なのか!?
なぜ・・・仲間の強さを、信じてやらないんだ!?
な・・・なぜ、自分自身の強さを! 信じられないんだ!?
こ、ガハッ! こんなところで! 仲間たちを、無駄死にさせるぐらいなら!
堂々と! 『伝説の海獣』に挑んでみせろ!
そ、それが、海で生きる海賊じゃないのか! はぁ・・・はぁ・・・!」
「・・・!」
「はぁ、はぁ・・・お前も、感じてるんだろ!?
は、長谷川殿の強さを! 執念を! あの武器のエネルギーを!
オレも、よくは知らないが・・・はぁはぁ・・・
この、長谷川殿は、遥か西より、たった一人で・・・歩いて、ここまで来たんだ・・・。
1000人斬った、というのも、すべては・・・『海獣』を倒すため・・・。
か、『海獣』を倒すために、ここまで、やれる男が、どこにいる!!」
「・・・。」
村長が、ぎゅっと鉄格子を握ったまま静かになった。
・・・伝わっているのかもしれない。
オレの言葉が、ちゃんと心に届いているのかもしれない。
オレからは、村長の表情がよく見えない・・・。
ジャラ、ジャララ、ジャララ・・・
「くっ・・・! ぐあぁ・・・! はぁ、はぁ・・・!」
オレは、ブルブル震えながらも立ち上がった。
全身の痛みが半端ない! 手足が痛い! 肩や腰が痛い!
しかし、立たねばならない!
まぶたが腫れているから、村長の表情がよく見えないから・・・
少しでも近づいて、目を見て、話したい。
「うぐっ!」
「おじ様!」
「おじさん!」
ジャラララ・・・ ジャラララ・・・
ふらつくオレを、木下とニュシェが両側から支えてくれた。
そのまま、少しだけ鉄格子へ近づく。
「マジかよ、あいつ、立てるのか!?」
「ありえねぇ!」
ざわざわざわ・・・
「はぁ・・・はぁ・・・!」
「・・・。」
木下とニュシェに体を支えられて、鉄格子から1m手前の位置まで近寄った。
これ以上は、オレの錠に繋がっている鎖が延びない。
村長は、鉄格子を握ったまま、オレを睨みつけていた。
怒りの表情だ・・・。でも、黙っている。
オレの言葉に、耳を傾けてくれているのか。
「はぁ、はぁ・・・!」
「・・・貴様に、俺たち海賊の何が分かる!?
知った口を利きやがって・・・!」
オレを睨みながら、村長がそう言ったが、
その声は、少し弱い・・・。迷いが出たか?
昨日、あの年老いた男が、胸を張って教えてくれていた・・・。
「海賊とは、海に生きる勇敢な男たちのこと」だと。
その、海賊たちの勇敢さに、オレは賭けたのだ。
ジャララ・・・
トン トン・・・
「!?」
オレは、自分の右拳で、自分の胸を叩いて
大声で宣言した。
「ぉ、オレは! 長谷川殿に、命を賭けるっ!
もしも、長谷川殿が、討伐失敗した時は!
長谷川殿とともに、オレを処刑しろ!!」
「・・・! き、さま・・・!」
「おじ様・・・!」
自分で胸を叩いただけでも激痛が走っているが、ぐっと耐える。
オレの宣言は、この地下牢に響き渡った。
村長だけじゃなく、この場にいる全員に聞こえたはずだ。
オレを睨んでいた村長の目が、
信じられないモノを見ているかのように、大きく見開かれた。
「はぁ、はぁ・・・! さぁ! 選べ、村長!!
海ではない、こんなカビくさい地下牢で!
仲間ともども、未来を捨てて! 無駄死にするか!
そ、それとも・・・!
強い男に! 強い仲間たちに! 命を懸けて! 未来を勝ち取るために!
『伝説の海獣』を、ぶっ倒しに行くか!
海に生きる、勇敢な海賊は、どちらを選ぶんだ!?」
「・・・っ!!!」
全身の痛みで、今にも倒れそうだ・・・。
しかし、言った! 言い切った!
これは、完全な挑発だ。
これだけ言われて、黙っているような者ではないと思ったからこそ、
あえてキツめの言葉を投げつけたのだ。
「き、さまぁ・・・!」
村長の目が、少し光った気がしたが・・・。
あれは、涙か?
歯を食いしばった表情が、一気に、強き者の表情に変わる!
「選ぶまでもねぇ!! 俺たちは海で一番勇敢なオルカ一家だぁぁぁ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「!!」
村長の強い返事に呼応するかのように、
いきなり後ろにいた男たちが雄たけびをあげ始めた!
「よくも言ってくれたなぁ! くそジジィ!!
それが挑発だってことぐらい分かっちゃいるが、
おもしれぇ! 乗ってやるよ!!」
さっきまで怒りを露わにしていた村長の目が、
今は、まるで獣の目のようにギラギラしている。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
村長の声に負けないぐらい、後ろの男たちの雄たけびがうるさい。
「長谷川とか言ったな? 貴様を船に乗せて、
『海獣』討伐に行ってやる!!
貴様が討伐失敗した時は・・・俺たちも、ただじゃ済まねぇ。
そん時は、オルカ一家の総攻撃を仕掛ける!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




