見張り台の独り言
城門は、大型馬車が余裕で通れるぐらいの
大きな門になっている。
巨大な扉は、『からくり』によって開閉できる。
大きな歯車と小さな歯車が複数重なっていて、
レバーと呼ばれる棒きれひとつで簡単に開閉するのだ。
正直、『からくり』の詳細は、オレにはよく分からない。
なにか支障があれば、
『機工士』の資格を持った『騎士』が修理にあたる。
『騎士』も色々だ。
門の左右には、城壁に登れる塔があり、
その塔の最上階が見張り台になっている。
小野寺が帰ってから、オレは城門の見張り台へと移動した。
ひゅるるる・・・ひゅうぅぅぅ・・・
春の温かい風ではあるが、地上から30メートルぐらいの
高さになれば、そこそこ強風が吹いていて、
そこそこ体温を奪ってゆく。
しかし、塔を登ってきて、じゅうぶん温まった体には
とても心地よい風だ。
ばばばばばっと、オレのマントが音を立てて
風と共にオレを運びそうになる。
とはいえ、重い鎧とオレの重量は
ビクともしないわけだが。
ずずずっ・・・
オレは金山君から受け取ったお茶をすすりながら、
見張り台から、王宮を眺めた。
いつもなら、王宮とは反対側の、外のほうを向いて
はるか遠くまで見渡せる景色を、眺めながら
お茶を飲むのが日課なのだが。
ここから少し遠く離れた王宮は、
朝日を浴びて、そそり立っている。
オレは、王宮を見ながら、例の赤い封筒を
懐から取り出した。
「人事か・・・。
普通に考えれば『異動』の話だよなぁ。
しかし、なんで『赤い封筒』なんか使ったんだ?」
オレは独り言を喋りながら、封筒を再確認する。
平和な世の中に慣れているとはいえ、
一応、城門を守る仕事を、ずっとやってきた身だ。
この『赤い封筒』が、『なにかの罠』という
可能性がないわけではない。
「・・・まぁ、本物だわな。」
中身の『招集状』には、王宮の押印がある。
間違いなく本物だ。
「はぁ・・・人事の考えることは
さっぱり分からんな。」
オレは、それ以上考えても無駄と知り、
王宮を眺めながら、もう一度、お茶をすするのだった。
「これが、不幸の手紙じゃなければいいがなぁ・・・。」
オレは自分の不安な気持ちを独り言で吐き捨てた。
夕刻、オレは昼間勤務の隊員たちに早退を告げ、王宮へ向かった。
早退の理由を隊員たちへ、どう言おうか迷っていたのだが、
オレの早退の理由は、すでにみんな知っているようで、
何も告げなくても、隊員たちは神妙な顔で
「お疲れ様です!行ってらっしゃいませ!」
と、送り出してくれた。
金山君、やっぱり何も分かってなかったな・・・。