妖刀を持つジジィの願い
【※残酷なシーンが描かれています。】
「ゴラァァァァ!!」
「!」
村長が大男2人に止められている横から、
ほかの若い男1人が、長谷川さんに向かって駆けていく!
手には、黒い縄!?
もしかして、オレを捕えた時の魔道具か!?
「やめろぉ!」
ほかの男たちが叫んだが、もう遅かった。
ザンッ
「ぎゃぁっ!!」
長谷川さんの目の前まで行った瞬間、
若い男が持っていた縄が、腕ごと斬り飛ばされ、
男の胸から血飛沫が飛ぶ!
あの黒い縄も切れているのに・・・魔道具が発動しない!?
ブシュゥゥゥ・・・
長谷川さんを見ると、左手に持っている『刀』で
若い男を斬り上げたようだ。
そして、
ズドン!
「がふっ!」
「!!」
長谷川さんが右手で持っている、あの長い『刀』・・・
倒れている男に刺さっていた、あの長い『刀』を
目の前の男の胸に突き刺した!
また・・・鞘から『刀』を抜かないまま・・・!
ゾワワワワワッ!
「くっ・・・!」
そして、また、あの長い『刀』の鞘の表面がドクドクと蠢き、
気持ち悪いエネルギーが増幅する!
吐き気がするほど、気持ち悪い・・・!
ドサッ
長谷川さんが右手の『刀』を
男の体から引き抜くと、男はその場に倒れた。
・・・気配がない。死んでいる。
そして、若い男の体から引き抜かれた、あの気持ち悪い『刀』の鞘に
べっとりと付いた血が・・・消えていく。
まるで、血が鞘に吸収されていくように・・・!
「・・・!」
この場にいる全員が息をのむ。
声を発すれば、今の男のように斬られそうな、
そんな空気を長谷川さんから感じ取っている。
「おのれ・・・! おのれぇ・・・!」
激高している村長の怒気が、さらに膨れ上がった。
声にならない小さな声で、男2人の羽交い絞めに抵抗している。
「・・・。」
オレは、長谷川さんの姿を見ていた。
全身、返り血を浴びて真っ赤になっている・・・。
いや、返り血だけではないようだ。
長谷川さんといえども、やはり無傷というわけではなく、
腕や足のところどころに傷を負っているようだ。
服装も、あちこち破れている。
それと、あの気持ち悪い武器・・・。
右手に持っている長い『刀』・・・ずっと鞘に収まったままだ。
あれで敵を斬っていたわけではないのか?
それとも、あれが『刀』という武器の本来の使い方なのか?
しかし、左手に持っている方も『刀』ならば、
やはり鞘から抜いて使うのが本来の使い方ではないのか?
呼びかけたいが・・・
今は、長谷川さんの名前を言わないほうが良さそうだ。
オレたちが仲間だと思われて・・・。
「おい、あの時のじいさんじゃないか!?」
「あ・・・。」
村長たちがもめている横で、
シホが、普通に長谷川さんに話しかけてしまった・・・。
忘れていた・・・。
この状況で、黙っているという選択を
考えつかないやつがいたのだった・・・。
長谷川さんが、ぴくりと動いた。
「・・・ぉお、その声は・・・あの時の、び、美人さん・・・か?」
「・・・!」
出会った時も、低い唸り声に驚いたが、
今の声は、あの時よりも、さらに低く・・・
柔らかさも、温かさも感じさせない、冷たい声に聞こえる。
声をかけたシホも、あまりにも冷たい声に驚いて、言葉を失っている。
「シ、シホ! まさか、お前の仲間か!?」
村長が怒鳴りながら、シホに聞く。
怒りの矛先が、こちらへ向けられそうになっている。
オレたちが、長谷川さんをこの村へ招いたのではないかと
疑われているのだ。
「いや、仲間・・・ではないなぁ。
数日前に『熱泉』がある宿屋で、たまたま会ったことがあるだけだ。」
「・・・たまたま、か。」
少し疑問を持っているようだが、
村長は、シホの言葉に一応は納得したのだろう。
おそらく、昨日のうちにシホと接していて、
ウソがつけるやつではないと分かっているのかもしれない。
視線を長谷川さんに向けた。
シホの言葉で、村長の怒りが削がれたようだ。
大男2人が離れても暴れないようになった。
冷静な態度で、長谷川さんを見ている。
「・・・そこのジジィ!
ここは、海賊・オルカ一家の村『ハッバール』だ。
分かっていて、ここへ押し入ったんだろうな?」
怒気を含ませて、村長が長谷川さんに聞く。
「わ・・・分かって、おる・・・。ぉ、オルカ一家・・・じゃな。
・・・ぉ・・・お初に、お目にかかる・・・。
ワシの名は・・・長谷川・・・ロイヒトトゥルム、じゃ。
一介の剣士、じゃが・・・お主が、ここのリーダーで、間違いないか?」
長谷川さんは、うつむき気味にしているため、
表情が読みづらい。
なぜか、声がかすれているような・・・
発音しづらいような、そんな声に聞こえる。
「・・・お嬢、いつでも。」
村長の後ろに、こそっと寄り添った
あの年老いた男が、小声で、そう言った。
村長は声に出さず、うなづく。
あの危なそうな魔道具の木箱の山は、
村長の後ろに、ズラリと集まっている男たちの体に隠れて、
長谷川さんからは、まず見えない。
おそらく、村長の合図ひとつで
男たちに隠れている魔道具が爆発するのだろう・・・。
長谷川さんに知らせたいが・・・この状況では無理だ。
「そうだ、俺が、オルカ一家の頭、オルカ・シャンディーだ。
このオルカ一家に戦いを挑むとは、たいした度胸だな。
すでに話し合いの余地はねぇと思うが、なにを話に来たんだ?」
村長が怒鳴るような声で、そう聞いた。
今にも合図を出して、魔道具を爆発させそうな勢いだ・・・。
「・・・。」
いつもは余計なことを口走ってしまうシホも、
さすがに、この緊迫した空気を察して、何も言うことが出来ない。
村長の、少し後ろ横に立たせられている。
「た・・・頼みたい、ことが、ある・・・。」
ガシャ・・・
「!?」
かすれた声で、そう言い出した長谷川さんは、
その場で、座り込み・・・頭を下げ始めた。
両手に武器を持ったまま、拳を地面に突き立てて。
土下座だ。
そして、絞り出すような声で言った。
「こ、この通りじゃ・・・!
・・・ふ・・・船を、出してくれ・・・!」
「!?」




