村長と初対面
ガヤガヤガヤガヤ・・・
ザワザワザワザワ・・・
鉄格子の前は、一気に騒がしくなった。
海賊たちは、約20人ぐらいいるだろうか?
むさ苦しい男たちが、集まっている。
今も、階段を登って行く者、降りて来る者、
慌ただしく、男どもが入れ替わり、立ち替わり。
数人が、ランプを持って降りてきたため、
この地下の全貌がよく見えるようになった。
階段より奥の方にも数か所、鉄格子が見える。
他にも牢屋があったんだな。
それなりに広い場所だったようだが、
これだけの人数が一気に降りてきたら、狭く感じる。
バタン・・・
ぞろぞろ・・・ ぞろぞろ・・・
「うぅ、こわいよぉ・・・。」
「情けない声出さないで。大丈夫だから。」
「!?」
少し経ってから、また上の方で扉が開くような音がしたと思ったら、
若い男たちに誘導されて、
女性が20人ほど、そして10人ほどの子供たちが階段を下りてきた。
年寄りから子供までいるが、みんな普通の服装だ。
何も装備をしていない。つまり、戦えない女性たちなのだろう。
「お嬢・・・。」
年老いた女性が、階段の下で
偉そうに立っている女性に話しかけた。
「あぁ、心配ないよ、イルばぁ・・・。」
偉そうな女性はずっと険しい表情だったが、
年老いた女性と会話した時だけ優しそうな表情になり、
年老いた女性のほうは、その言葉を聞いて少し安心した様子だった。
その大勢の女子供たちは、奥の方の牢へ入っていったが、
扉は閉められていない。
とりあえず、ここへ避難させられてきたのだろう。
ぞろぞろと階段の下に集まっている男たち。
むさ苦しい男たちの中にいる女性は、2人だけ。
1人はシホだが・・・もう1人の偉そうな女性は、
頭に黒いバンダナを巻いていて、少し赤みのある長い髪はちぢれている。
褐色の肌で、あちこちに傷跡も見えるし、
筋肉もそこそこついているように見える。
軽装備で、黒い上着をマントのように肩に掛け、
革の腰巻の下に長くて赤いスカートを履いていて、
右手には、剣が握られている。
あとで避難してきた女性たちとは、明らかに違う。
その女性だけが、男たちとともに戦いに参加している感じだ。
「ちっ、仕方ねぇな。お前たち!
そんなに俺を守りたいなら、さっさとやつを仕留めろ!
魔道具は、いくら使ってもかまわん!
外の情報を、さっさと報告しろ!」
「へい!」
さきほどまでは、自分から外へ出て行こうとしていた女性だが、
周りの男たちに説得させられたようだ。
あの女性がこの中で一番偉いのか?
まさか、あれがリーダーなのか?
女性は凛々しく、威勢よく、男たちに命令して、
命令された若い男たちが数人、階段を駆け上がっていく。
「ん?」
その女性と、ふと目が合う。
「おい、生贄の男が死にかけてるぞ?
ジョゼとシェルクの代わりに、こいつを生贄にすると言ってただろ?」
「お、お頭、そいつは・・・。」
パシィッ!
「げふっ!」
女性が、自分より大きな体の男のほほを引っ叩いた。
「そ、村長、そいつは、仲間をたくさん殺したんで、
死なない程度に制裁を加えてやったまでです・・・。
死にはしません・・・。」
涙目で、大きな体の男がそう報告した。
周りの男たちの態度、そして、今の会話のやり取り・・・間違いない。
この女性が、この村の村長であり、海賊団のリーダー・・・お頭なのだろう。
年齢的には、木下やシホと変わらないように見える。
その村長が、オレを見ながら、
「みんなで半殺しにしてやったのか!?」
「はい・・・。」
「死なない程度にか!?」
「はい・・・。」
「なら、良し!」
大男と話していた。
・・・なにが良しなのか分からないが、
オレの命さえ取らなければ、何をしてもいいという風に聞こえる。
「・・・そういうわけだ、そこの男。
今、詳しく話している暇はないが、
お前たちは、『シラナミ』様の生贄だ。
俺たちは、女には優しいが男には容赦しねぇ。
それに、お前は俺たちの仲間を殺し過ぎた。
それぐらいの制裁は仕方ないと思え。」
「・・・。」
あの、食事を運んでいた年老いた男と同じことを言う女性。
実際、オレはこいつらの仲間を殺してしまっているから反論の余地もない。
だいたい、異議申し立てが通じる相手でもないからな。
「お、お前が、この村の長か?」
「えっ!? その状態で喋れるのか!?」
オレが寝転がった状態で話しかけると、女性は驚いて、
少し鉄格子から後ずさった。
その状態というのは・・・全身打撲のアザだらけで、顔面も腫れあがっている状態だ。
普通ならば、虫の息で喋ることもできないかもしれない。
実際、全身痛くて起き上がることすらままならないのだが。
この状態でも喋れるのは『ソール王国』出身者の身体能力だからこそか。
「なるほどな。ギルじぃの言う通り、タフなジジィのようだ。
そうだ。俺が、この村の村長、オルカ・シャンディーだ。
本当なら、雨が止んでから、このシホを連れて
ここへ別れの挨拶をさせに来る予定だったんだがな。
それどころではなくなった。」
女性は大きな胸を張り、腕組みして、そう言った。
「おっさん・・・。」
その女性の隣りで、シホは申し訳なさそうな顔で、オレを見ていた。
オレたちが捕まってしまった原因は自分であると思っているのか。
村長が、若い女性ということに少し驚いたが、
ハキハキと喋り、男たちにキビキビと命令を出している姿は、
なんとも、様になっている。
男たちも従順になっていて、誰も逆らう素振りがない。
統制がとれている。
ゾワワワッ・・・ ゾワワワッ・・・
「っ!」
「うぅ・・・!」
村長と話している間にも、長谷川さんの武器のエネルギーは、
増幅を繰り返し、どんどん大きくなっている。
そのたびに、オレとニュシェは身震いする。
ドタドタドタ・・・
階段を上り下りしている男たち。
慌ただしく、騒然としている地下牢。
「状況を報告しろ!」
「す、すでに村の西側を守っていた部隊が全滅!
今は、弓使いの部隊が足止めしています!」
「ジジィ1人に、何やってんだ!」
村長が海賊たちに怒鳴っている。
海賊たちも、かなり戦い慣れている男たちのはずだ。
しかし、今の報告を聞く限りでは、相手はたったの1人なのに
苦戦しているらしい。
相手がそれだけ強いということだ。
ゾワワワッ・・・
「くっ・・・!」
もう間違いない。
今、海賊たちと戦っているのは、あの長谷川さんなのだろう。
たった1人で、この海賊の村へ乗り込んできたのか!?
なんという強さだ!
ゾワワッ・・・ ゾゾゾゾゾッ・・・
長谷川さんの目的は、なんだ?
オレたちが捕まっていることを知っているのか?
いや、たぶん、知らないはずだ。
ならば、長谷川さんが、ここへ乗り込んできた理由は・・・?




