急襲
「お、お、おじさん! おじさん!」
「うっ!?」
突然、ゆさゆさと体を揺さぶられ、体中の痛みで起こされた。
オレは2人に抱き着かれながら、眠ってしまったらしい。
ニュシェに起こされたようだが・・・。
「ど、どうした!? うっ!?」
ゾゾゾゾゾッ!
いや、この気持ち悪い感覚は!?
「こ、この感じ、あ、あの、おじいちゃんの、だよね!?」
ニュシェが青白い顔色で、興奮気味にそう話しかけてくる。
「ど、どうしたんですか?」
オレに抱き着いて寝ていた木下も、同時に起こされてしまったようだが、
オレよりも状況が分かっていない様子だ。
「ま、間違いないな・・・この気持ち悪いエネルギー・・・。
長谷川さんの武器・・・『刀』だ・・・。」
あれから、もう夜が明けたのだろうか?
ここにいると窓がないから昼か夜かも分からない。
日付が変わったのなら、長谷川さんと別れたのは一昨日のことになるだろう。
たった数日、会わなかっただけで・・・
数日前よりも、長谷川さんの『刀』の気持ち悪さが
増している気がする・・・。
こんなに気持ち悪いエネルギーが近づいてきていたのに、
オレは、熟睡して気づかなかったのか・・・。
体中の怪我のせいで、
自然治癒力に体力が使われているのだろう。
体力が回復していないせいで、ちょっとのことでは目が覚めないようだ。
「は、長谷川さんって、あの宿屋で会った長谷川さんですか?
あの方が、ここへ来てるってことですか?」
木下は、相変わらず、この気持ち悪いエネルギーを感じ取れないらしい。
オレとニュシェが説明しないと、分からないようだ。
「そ、そうだよ、あのおじいちゃんだよ・・・。
うぅ、気持ち悪い~・・・。」
ニュシェは、今にも吐きそうなほど顔色が悪い。
オレも同じようなものだろう。
手足の錠に魔力を奪われ続け、それだけでも気持ち悪いのに、
あの『刀』の気持ち悪さが加わったのだ。
オレは、体中の痛さもあって、起き上がる気力も出ない。
「くっ・・・し、しかし、長谷川さんが、
この村に来たかどうかは、まだ分からんな・・・。
あ、あの『刀』の気持ち悪いエネルギーは、周辺に満ちるから、
こうして離れていると、どこにいるのかまでは分からん・・・。」
オレは仰向けのまま、天井を見ながら、そう言った。
宿屋の時もそうだったが、あの武器を目の前で見るまで
あの武器の場所までは分からない。
もしかしたら、長谷川さんは村の外を通過中なのかもしれないし。
ゾワワワワワワッ!!
「っ!」
「ひっ!」
「ど、どうしたんですか!?」
木下が心配そうに声をかけてくるが、
オレもニュシェも、それどころではない。
『刀』の気持ち悪いエネルギーが、急に膨れ上がったのだ。
「な、なに、これ・・・!」
「わ、分からん・・・!
急に、気持ち悪いエネルギーが強くなった・・・!」
いったい、何が起こっているんだ!?
長谷川さんの身に、何かあったのか?
ゾワワッ! ゾワワッ!
「くっ!!」
「ひぃ!!」
何度も、何度も・・・
気持ち悪いエネルギーが、増幅しては落ち着いて・・・
それを繰り返している。
「 ぁぁ・・・ 」
「 わぁぁぁ・・・ 」
かすかに聞こえてくる、外の声・・・?
「外で、いったい、何が・・・!?」
そして、
ゾワワッ! ゾワワワワッ!
「っく!」
「ぃやっ!」
幾度となく伝わってくる、あの武器の気持ち悪いエネルギー。
それが、波のように増幅を繰り返してくる。
オレとニュシェは、それを感じるたびに身震いしている。
「は、長谷川さんが、この近くに来ているのは間違いないんだが・・・
あの『刀』のエネルギーが増幅を繰り返して・・・
どんどんエネルギーが大きくなっていく・・・!」
結局、あの武器がどういう武器なのか、
長谷川さんに聞くことは出来なかった。
もしかして、あの武器を使うごとに、
あの気持ち悪いエネルギーが増大していくのだろうか?
長谷川さんの武器の気持ち悪いエネルギーの
増幅を感じ続けて、どれだけ経っただろうか。
上の方に、ぼんやりと気配が集まってきたかと思ったら、
バタァァーーーン!
「!!」
上の方から大きな音が豪快に鳴り響いた。
強い力で扉を開けたような、そんな音だ。
ザァァァァァァ・・・!
ざわざわざわざわ・・・!
外から、強い雨音と、そして大勢の声がする!
ダッダッダッダッダッ・・・
その大勢の声が、大勢の足音とともに
下へ向かって・・・こちらへ向かって階段を下りてきている!
「お、お頭たちは、とにかく地下へ!」
「あいつは俺たちがやりますから!」
「お前たちでは無理だ! 俺がやる!」
「うわっ、滑るっ!」
「いいから、お前たちは、お嬢を早く地下へ!」
「お頭でもお嬢でもねぇ! 俺は村長だっ!」
ざわざわざわざわ・・・!
大勢の声は、ほぼ男たちの声だが、
その中に、なぜか女性の声も混じっている?
ドカドカドカドカッ・・・ ダダダダダッ・・・
やがて、大勢の足音が、すぐそばまでやってきた。
薄暗い階段を大勢の男たちが降りてきたのが見え始めた。
大慌ての男たち・・・海賊たちだ。
その大勢の中に、女性が2人!?
「あ、シホさんだ!」
「シホさん!」
木下とニュシェが、すぐにシホを見つけて声をかける。
「おぅ! みんな、無事だったか!」
まだオレは、まぶたが腫れているから、よく見えないが、
シホは元気そうな笑顔で、鉄格子のそばまで駆け寄ってきた。
長髪の金髪のカツラは取られて、いつもの髪型だが、
木下たちと同じく、あの際どい『水着』の格好のままだ。
とにかく、怪我がないようで安心した。
よかった、無事で、本当によかった・・・。
「おいおい、勝手に牢屋へ近づくな!」
昨日、ここへ食事を運んでいた年老いた男も、
いっしょに降りてきていたようで、シホに向かって、そう注意した。
シホは、寂しそうな表情で、
いっしょに階段を下りてきた女性の隣りに立つ。
あの女性は、いったい?




