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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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九死に一生





2人がひとしきり泣いた後、状況を説明してもらった。


あの後、2人は野盗たちに追いつかれ、囲まれた。

オレとシホが捕まったことを告げられ、

「抵抗しなければ何もしない」という野盗たちに黙って従うことになったようだ。

野盗たちは意外にも、本当に、2人には何もしなかったらしい。


その野盗たちに、ここへ・・・

どこかの建物の地下牢に連れてこられた2人。

そこでは、すでに捕まっていた、意識のないオレが鎖で吊るされていて、

野盗たちに、殴る蹴るの暴行を受けていたそうだ。


オレは捕まる前に、やつらの仲間を数人、殺したわけだから、

意識がないうちに殺されても仕方ないことなのだが・・・

生かされているのは、何か意図があるのだろうか?


オレたちが捕まったのは、昨夜の話だ。

一夜明けて、今は、もうお昼らしい。

オレが起きる直前に、食事が運ばれてきたようだ。

2人の話を聞きながら、小さなパンを3人で分け合って食べた。

オレ一人では食べられない状態なので、

申し訳ないが2人に食べさせてもらった。

かなり足りないが・・・今、オレたちは気持ち悪い状態で食欲もない・・・。

オレは口の中が痛くて、食べることも難しい。


シホも捕まっているらしいが、

ここへ来てから一度も姿を見ていないらしい。

2人が野盗たちから聞いた話によれば、


「シホさんを、『例の海獣』の生贄いけにえにするそうです・・・。」


この国に古くから伝わっている、2つの伝承か・・・。

たしか、若い女性を生贄にするのは、『海竜』の伝承のほうか。

港町『ペレンブラ』の食堂で漁師たちに聞いた話では、

生贄を捧げようとした、じいさんばあさんどもがいたとか。

しかし、オレたちを捕まえに来たのは、

明らかに、オレよりも若そうな野盗たちだったが?

木下が言うには、今、この地下牢へ食事を運びに来る男は、

かなりお年寄りだとか。野盗にも年寄りがいる・・・。

だとすれば、その年寄りが野盗どものリーダーかもしれない。


ピチョン・・・ ピチョン・・・


ずっと水滴の音がする。

天井から、水滴がポタポタと落ちてきているようだ。

この地下牢のそばに水脈でもあるのかと思っていたが・・・


「昨日から、ずっと雨が続いているそうです。

この雨が止んだら、船を出せるので・・・

雨が止めば、生贄を捧げると言ってました。」


心配そうな表情で、木下は、そう教えてくれた。

この地下牢に落ちてきている水滴が、雨によるものならば、

この水滴が止まった時・・・シホが危険な状態になるということだ。


ジャラララ・・・


しかし、今のこの状態では、シホを助けるどころか、

自分たちの命すら危ない・・・。

ちょっと動いただけで、

手足にかけられた錠に繋がっている鎖の音が鳴る。


この手錠の感覚・・・魔道具の手錠だ。


オレは使ったことは無いが、『ソール王国』でも

罪人を閉じ込めておく、王城の地下牢で、この手錠は使用されている。

この手錠をしている者の魔力を奪い続ける、特殊な手錠だ。

魔法を使って逃亡できないように。

だから、今のオレたちは、

つねに魔力が枯渇している状態で、気持ちが悪い・・・。

チカラが抜けていくような感覚だ。




「げ、現状は分かったが・・・打つ手、無し・・・だな。」


ジャラ、ジャララ・・・


オレは上体を起こしているだけでも、体中が痛いので横になった。

地面がひんやりしていて、痛みが和らぐ感じがして心地よい。


2人の報告を聞いている間に、水で濡らした服の袖で、目をこすり、

まぶたに固まって張り付いていた血を取り除いて、

なんとか目を開けられるようになった。

まぶたが腫れているらしいから、しばらくは見えにくい。


薄暗い地下牢だ。


周りは岩肌の壁と地面。

水が滴っている部分には、びっしり苔が張り付き、窓一つない。

一面に大きな鉄格子。鉄が、ところどころ錆びついている。

その鉄格子の外の壁にランプが一つ。

その小さな明かりだけが、この地下牢を照らしている。

鉄格子の外、奥のほうに、階段らしきものが見えるが、

暗くて、よく見えない。


気配を探ってみると、この地下にはオレたちの他に誰もいないようだ。

ここより上の方に、なんとなく気配を感じる程度だが、人がいるらしい。

地上からどれほど離れているのかは分からないが、

おそらく、見張り役の者が上にいるのだろう。


ついでに服の袖で鼻血も拭き取ったので、少し呼吸がしやすくなった。

木下には、汚いものを見るような目で見られたが今は仕方ない。

鼻で呼吸できるようになってから気づいたが、

この地下牢は、かなりカビ臭い。

そして、他にも独特な・・・アンモニアの臭い・・・

地下牢の一角に小さな穴が・・・あれはトイレか・・・見ないようにしよう。


オレの手足に錠がかかっていて、その錠に繋がる鎖は、

後ろの壁に固定されている。錠や鎖は、鉄格子のように錆びておらず、

ちょっとやそっとでは壊せそうもない。

オレのほうの鎖の長さは、トイレへ行ける程度か。

鉄格子の扉へは、届きそうにない。

木下とニュシェは、足だけに錠がかけられていた。

2人は鉄格子の扉の前までは行けるらしい。

女性だから特別扱いか。

女性の腕力では、抵抗できないと思われているのだろう。


それにしても・・・2人とも、あの『水着』のままだ。

よく、あの野盗たちに乱暴されなかったものだな。

意識がないオレを袋叩きにするほどの乱暴な連中が、

こんな美女2人に指一本触れてないなんて・・・。

あの野盗たちは、なんなんだ? ホモなのか?

それとも男性の機能が不能なのか?

とにかく、2人が無事でいてくれてよかったけど。


この2人の扱いからして、シホも同じ扱いであると思う。

・・・そうであって欲しいと願う。


「・・・ふぅぅぅぅー・・・。」


オレは寝転がりながら、体中の痛みを感じつつ、溜め息をつく。

まぶただけではなく、唇も腫れているから、口も開けづらいのだと気づく。


そして、ふと、昨夜の戦闘を思い返してみる・・・。


今まで、斬りかかってくる敵とは、たくさん出会ってきたし、

学校の実戦訓練でも、そういう敵を想定して訓練してきたが、

捕まえに来る敵には出会ったことがなかった。

あの変則的な動き・・・かなり手慣れた感じだった。

真っ暗な状況で、真っ黒いロープを使ってくるとは・・・。

あれに気づくのが遅かった・・・。

悔しいが、敵ながら天晴あっぱれだ。


それにしても、あの魔道具・・・。

魔法に疎いし、魔道具にも疎いから、初めて見た道具だ。

あんな魔道具もあるのか。

まだ体中の骨がきしむ感じがする。

全身が骨折して、肺が潰されるかと思ったぐらい苦しかった。

あんな魔道具があるなら、ちょっとした魔獣を討伐する際に便利そうだな。


ピチョン・・・ ポチョン・・・


規則正しい水滴の音を聞いていると、

少し気分が落ち着いてくるようだ。

落ち着いている場合ではないが・・・。


「・・・。」


雨が降っている内に、ここを脱出して、

シホを助けたいが・・・どうしたものか・・・。


当然ながら、手元には武器がない。

腰の布袋も没収されている。

武器になりそうなものも落ちていない。

テントの荷物も、やつらに盗られただろうな。


おまけに、体を自由に動かせないほどの満身創痍・・・。

回復用の薬でもあれば、すぐに治るだろうが、

薬に頼らず治すとなれば、全治一週間以上、かかるかもしれない。


九死に一生を得たが、万事休すか・・・。





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