おっさんは心の中で悔し涙を流す
ピチョン・・・ ピチョン・・・
カツン・・・カツン・・・カツン・・・
・・・遠くから、何か・・・聞こえてくる・・・。
ガチャン! ガチャガチャ!
・・・金属音が、やけにうるさい・・・。
キィィィィ・・・
「昼飯じゃ。」
カシャ カタン・・・
「なんじゃ。その男は、まだ寝とるんか。
まー、魔獣用の魔道具と麻酔を使われたのじゃから無理もないか。
それとも、殴られ過ぎて意識が戻らんか。
このまま意識が戻らねば、それはそれで・・・。」
「シホさんは・・・無事ですか?」
キィィィィ・・・ガチャン
「心配せんでも、生贄様は「まだ」無事じゃ。
お務めを果たす、その日まで・・・の。」
ガチャガチャ
カツン・・・カツン・・・カツン・・・
「・・・。」
静かになった・・・。
「うぅ・・・。」
オレは、猛烈な喉の渇きを感じ、起き上がろうとしたが
ガシャッ ガチャ
手足に錠を付けられているようだ・・・
いや、それ以前に、体中が痛くて・・・
ところどころ、しびれている感覚だ。うまく体を動かせない。
頭も痛い・・・。痛くて、目が開けられない・・・。
寝転がっている状態で、顔に冷たくて固い地面の感触を感じる。
「おじ様!」
「おじさん!」
ジャラララ・・・
この声は・・・木下とニュシェか。
「ふ・・・ふたッ・・・ゴホッ!ガハッ!」
喋ろうとして、むせてしまった。
口の中に、鉄のような味が広がる。
体中のしびれが・・・少しずつ消えていくのと同時に、
体中に、痛みが広がっていく・・・。
顔面が痛い・・・ズキズキする。
咳き込むだけでも、顔面から体中に痛みが走る。
鼻がつまっていて呼吸もしづらい。
ジャラララ・・・ ジャラララ・・・
「おじ様・・・。」
この独特の金属音・・・
鎖の音が鳴り響き、木下の声が近くで聞こえた。
そのまま、頭を抱きかかえられて・・・
ジャラララ・・・
「いっ・・・!」
痛い・・・!
どうやら、木下が、オレの上体を起こしてくれたようだ。
「おじさん、お水だよ?」
「うぐっ!」
急に、口に冷たい感覚があって驚いた。
ニュシェが、コップの水を飲ませてくれているようだ。
言われるがまま、されるがままに、水を飲む。
喉は潤うが・・・しみる! 口の中が痛い!
顔面の痛みもあるし、どうやらオレは、かなり顔面を殴られたようだ。
鼻がつまっているのは、鼻血がそのまま固まってしまったのだろう。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「おじさん、大丈夫・・・?」
「おじ様・・・。」
2人の心配そうな声が聞こえる。
背中をさすってくれている、温かい手を感じる。木下か。
「ふ、2人とも、無事だったか?」
喉は潤ったが、口の中が痛くて喋りづらい。
「私たちは無傷です。それより、おじ様が・・・。」
「あいつら、意識がないおじさんをたくさん殴って・・・ふぇ・・・ぇ・・・。」
木下とニュシェが涙声で、そう伝えてくれる。
そうか・・・無事で何よりだ・・・。
痛みによって、頭の中も、すこしずつ冴えてきている。
そうか・・・オレたちは捕まったのか・・・。
命があっただけでも、よかったと思うべきか・・・。
体中の痛みは、やつらに殴られたからか・・・。
「す、すまなかった・・・。」
「え・・・?」
「お、お前たちを、守って、やれなかった・・・。」
ジャラララ・・・
鎖の音を響かせて、2人がオレの体に抱き着いてきた。
ちょっと痛い・・・。
「おじさぁぁぁん! ふぇぇぇぇ・・・!」
「おじさまぁ! うぅぅぅ・・・!」
2人の悲痛な泣き声が耳元で聞こえる。
・・・2人に、怖い思いをさせてしまった・・・。
悔しい・・・情けない・・・。
悔しくて、2人につられて泣いてしまいそうだが、
オレが泣いている場合ではない。
口の中が切れていて痛むが、オレは、ぐっと歯を食いしばって、
抱き着かれたまま2人の泣き声を、しばらく聞いていた・・・。




