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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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敵か味方か


オレたちは昼飯を食べた後、

宿泊部屋へ戻り、木下の話を聞くことになった。

宿泊部屋には、小さいテーブルを挟むようにベッドが2台ある。

木下たちは、それぞれテーブルを囲むようにベッドに座り、

オレは、イスに座った。


「馬車で出会ったガンラン先輩は、大学の時の先輩です。

学校では、挨拶程度の会話しかしていません。

当時、学校の男子の中でも成績優秀でイケメンだった先輩なので、

その・・・好きという気持ちを初めて知ったというか・・・

一方的に、密かに片思いしてました。

でも、それが、単なる憧れだったのか、初恋だったのかは、

私には分かりません・・・。」


そう語りだした、木下。

あくまでも、普通の学校での先輩後輩の仲であると

シホやニュシェに話し始めた。

自分が『スパイ』の学校を卒業していることは、やはり

この2人には隠し通すつもりらしい。

初恋のくだりは・・・本当の話のように聞こえる。


「大学卒業後、お互いに接点はありませんが、

先輩は、その・・・やり手と言いますか・・・

イケメンなので、言い寄ってくる女性が後を絶たないのでしょう。

女癖が悪いとか、二股ふたまたどころか、

三股、四股は当たり前という、乱れたウワサを後で聞いたので、

私の中で、初恋は終わった・・・というわけです。」


・・・なんとも、生々しい話だな。

これもウソなのか、本当なのかは分からないが、

本当の話のような気がする。


「あの・・・女癖ってなに? ミマタ?」


「え・・・。」


ニュシェが、そう聞いてきた。

やはり子供には難しかったのか、

それとも、閉鎖された村で育ったからか、

ニュシェには、その手の話が通じていないようだ。

まだ早い? いや、そろそろ覚えてもいい年頃か。


「あー・・・それは、あとで説明しますね。」


木下が、答えに困り、そう返事していた。

教えるにしても、女性たちで話したほうが

分かりやすいだろうから、その手の知識の教育は

木下たちに任せよう・・・。


「とにかく、ガンラン先輩に言い寄られるのは、

私としては、もう不快でしかないのです。

それと・・・ガンラン先輩は、今は傭兵らしいですが、

過去には・・・その・・・危険な裏の仕事をしていたという話です。」


木下は言葉を選びながら、そう言っている気がした。


「裏の仕事?」


当然ながら、シホがそう聞き返した。オレも聞きたい。

その言葉からは、どんな職業なのか思い浮かばない。


「私も、直接聞いた話ではないので、本当かは分かりませんが、

信頼できる人から聞いた話なので、信憑性はあります。

人から依頼されて相手を殺すという・・・暗殺という仕事だとか。」


「暗殺・・・。」


これも、今は本当かどうか分からない話だ。

しかし、あながちウソでもない気がする。

ガンランと出会った時の、

木下の青ざめた表情は、本当に恐怖を感じている顔だった。

そして、やつのあの気配の消し方・・・

対象者に気づかれないうちに殺してしまうぐらい、

簡単にやってのけそうだ。


「なるほどな・・・。

初対面だったおっさんなら、分かってないのも無理はないが、

あのイケメンと久々に会ったユンムさんが、

どこか否定的な態度だったのは、そういうことだったんだな。」


木下の話を、そのまま受け入れているシホ。

ニュシェは黙って聞いている。

暗殺という言葉が分かっていないのかもしれないが、

「人を殺す」という、物騒な言葉を木下が使っているから、

それは分かっているだろう。


「なるほど・・・ユンムがやつに対して

素っ気ない態度だったのは、そういうわけがあったのか。」


オレは、あえて、そう言った。

まるで初めて聞いたかのように。

もちろん、初めて聞いたわけだが・・・

オレが、こう言うことによって、

木下の言った言葉に真実味が増すと思ったからだ。


「んで、どうするんだ? あのイケメンへの返事は?」


シホが、そう言った。


「え・・・断るんじゃないの?」


ニュシェが驚く。

ニュシェも、あのガンランは恐怖の対象として、

断るのが当たり前だと思ったのだろう。


「昔は悪いやつだったかもだけど、今は傭兵なんだから、

断る理由にはならないんじゃないか?

人を殺したことがあるっていうだけで断るなら・・・

おっさんも、その条件にひっかかるわけだし。」


「あ・・・。」


シホが、そう答えた。

ニュシェは、そう言われて、はたと気づいた感じだ。

シホの言うことは正論だ。

人を殺したことがあるという理由だけでは、

ガンランを拒否する理由にはならない。

裏の仕事であろうと、それは仕事でしたこと。


「俺も・・・過去に、

ほかの国で、野盗討伐の依頼を達成したことがある。

ほとんど姉さんたちの補助をしてただけだったけど、

それでも、人殺しには変わりない。おっさんといっしょさ。

でも、このパーティーの仲間になってる。

あのイケメンの女癖にしても、

俺たちが気を付けていればいい話だし。

だから・・・あのイケメンへの返事は、どうするんだ?」


「・・・。」


シホも、人の命を奪った経験をしていたのか。

なんとなく、そんな気がしていた。

長く傭兵稼業をしていれば、そういう依頼を

受けることもあるだろうと予想していたから。

木下もいっしょだ・・・『レッサー王国』で経験済みだ。

だからこそ、今のシホの質問に、即答せず、

黙って、考え込んでいるように見える。


「・・・断ろうと思います。」


しかし、木下の答えは、予想どおりだった。

それは、過去の仕事がどうとか、

女にだらしないとか、それだけの理由ではないだろう。

きっと、ここでは言えない、

ほかの理由が木下にはあるように感じる。


「・・・分かったよ、ユンムさん。

じゃぁ、やっぱり、あいつは俺たちの敵だ。」


「うんうん!」


シホは、ガンランを敵だと認識し、

ニュシェは、大きくうなづいた。


シホは、木下の言っていることをそのまま受け容れ、

それ以上のことを聞こうとはしなかった。

もしかしたら・・・木下には、まだ隠している理由があると

気づきつつ、あえて聞かないようにしているのかもしれない。

それは、シホが木下を

「それでも信頼できる仲間だ」と認めている証拠だろう。


「ところで、あのイケメンは、どうやって

俺たちの宿屋へ来るつもりなんだ?」


シホが、ふと気づいたことを言う。


「どうやってって、馬車でこの町へ来てから

歩いて、この宿屋へ・・・ん?」


オレは、当たり前のことを答えようとしたが、

根本的なことに気づいた。


「言われてみれば、そうだな・・・。」


「だろ? 俺たちがこの宿屋に泊まることを、

誰も、あのイケメンに教えてないだろ?」


シホが首をひねりながら、そう言った。

そのとおりだった。

ガンランは、「今夜、宿屋へ行く」としか言ってなかった。

どこの宿屋だとか、そういう指定がなかったし、

オレたちが泊まる予定の宿屋の名を聞いてくることもなかった。

会う約束をするのに、

会う場所の確認をしないなんてことがあるだろうか?

やつは、どうやって、オレたちの居場所を知るのだ?

この広い町の中を、一軒一軒、探すのか?

それとも、『サーチ』の魔法でもかけるのか?

そんなことをすれば、多くの者たちを警戒させることになる。


「・・・。」


ちらっと木下を見たが、若干、目が泳いだような気がした。

こいつは、何か隠しているな?


「あの・・・これは予想ですが、

ガンラン先輩は、裏稼業の人たちと繋がっている可能性が高いので、

おそらく、そういう人たちから私たちの居場所の情報を

得ているのではないでしょうか?

だからこそ、『ヒトカリ』でも把握されていなかった、

私たちの容姿の特徴を知っていたのではないかと・・・。」


少し間を開けて、木下が自信なさげに、そう言った。

本当に予想しただけなのかもしれないし、ウソかもしれない。


「そっか、そうかもしれないな。

おっさんのことを知ってたのも、裏の仕事繋がりで

知ったってことか・・・。うーん、困ったな。」


シホが木下の言うことを、まともに信じて、

困った表情になる。


「困るというのは・・・ガンランの申し出を断った後のことか?」


「あぁ、それもあるけどさ。

イケメンが敵だって分かってるんなら、

律儀に、ここで待ってることはないって思ってね。」


オレの問いに対して、そう答えるシホ。


「・・・なるほど、やつが来る夜になる前に、

ここを離れようってことか。」


オレは、すぐにシホの考えていることを理解した。

しかし、


「そうそう。でもさ、ここを離れても、

俺たちの居場所が、いつの間にか、裏の仕事人たちに

知られて、あのイケメンに情報が流れちゃうなら、

こっそり行っても、どこへ行っても、バレちゃうってことだよなぁ。」


シホが困り顔で、天を仰ぐ。

たしかに、シホの言う通りだ。

ガンランに会う前に、ここを離れるにしても、

ガンランと会って、申し出を断るにしても、

オレたちの情報が、いつの間にかガンランに流れてしまうなら、

結局、どこへ行っても、やつから逃げられないということになる。

裏の仕事人というのも1人や2人ではないのだろう。

オレが気づいていないだけかもしれないが、

オレたちをつけてくる気配は感じられない。

ならば、裏の仕事人たちというのは、町の至る所に潜んでいて、

目撃情報などを流しているのだろう。

オレの母国でも『情報屋』と呼ばれる者がいると聞いたことがある。

そういうやつから情報を買って、逃亡中の犯人を捕まえることもあると、

場内警備隊の鈴木が言っていたはず。

そういうやつが、世界各国、各町にいるんだろうな。


「・・・。」


ニュシェは、話についていけているのか、

よく分からないが、難しそうな表情で黙っている。

ニュシェなりに、打開策を考えているのだろうか。


「そうですね・・・逃げ場がないですね・・・。」


木下の表情が暗い。

木下は、ガンランに出会った時点で、

もう逃げることが出来ないことを悟っていたように感じる。

だからこそ、あんなに顔が青ざめていたのだろう。


「変装でもしない限り・・・。」


「え!?」


「んん?」


木下が、ぼそりと言った言葉に

シホとニュシェが、反応した。


「それだ!」


「それだよ、ユンムさん!」


シホとニュシェが立ち上がって、木下に飛びつく。


「え? え? どれ?」


テンションが上がった2人に抱き着かれ、

2人が言っている「それ」が「どれ」なのか分からない木下。


「ちょうど、この町で着替えを買い替えるって話だったしな!」


「いいね、いいね!」


シホとニュシェは、お互いの考えが合致しているらしい。

2人で嬉しそうに木下に抱き着きながら、話を進めている。


「お、おい・・・なんの話だ?」


きょとんとした表情の木下。

オレも同じ表情をしていることだろう。

2人の言っていることが、よく分からない。


「そうと決まれば、早く行こうぜ、みんな!」


テンションが上がりすぎて、勢いがついたシホが止まらない。


「どこへ!?」


木下が焦りながら聞いた。


「ユンムさんが好きな、洋服屋だぜ!」


シホが親指を立てて、そう宣言した。


洋服屋って・・・まさか・・・?




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