巧言令色(こうげんれいしょく)
「なぁ、道案内ぐらいなら、いいんじゃないか?」
「え!?」
この重い空気を感じていないシホが、そんなことを言い出す。
「なんだったら、仲間に加えてもいい気がするけどな、俺は。
ソロだけで短期間で『ランクC』なんだろ?
実力としちゃ、じゅうぶんなんじゃないか?
なんてったって、イケメンだしさ。」
「おいおい!」
こいつは、警戒心とかないのか?
イケメンというだけで仲間を増やしていたら、
女性陣が違う意味で危険な目に・・・。
いや、今は、それどころではない。
「お仲間は賛成のようだが?」
ガンランは、ニコっと笑顔を向けて、そう言ってくる。
本当に、こいつがイケメンというところは認めざるを得ない。
嫌味の無い・・・作り笑顔だ。
出会った頃の木下の作り笑顔に似ている。
「・・・。」
木下の顔色をうかがってみたが、困った表情のままだ。
すぐに拒否しないあたり・・・
さっきガンランが言っていた通り、
こいつに、何か聞きたいことがあるのかもしれない。
「いったい、何が不満なんだよ?
同郷の仲なんだろ? ちょっとぐらい・・・。」
「いいから、お前は黙ってろ!」
どうしてオレたちが、ガンランを拒否しているのか、
シホにとっては、ワケが分からないだろうな。
実際、オレも、木下の真意がよく分かっていないのだが。
ニュシェのほうは、木下の隣りに座っているためか、
木下が困っている空気を、しっかり察して、黙っている。
シホと同じくワケが分かっていないだろうに。
・・・オレたちは、理由を話し合う必要があるようだ。
「ガンラン、すまんが、こっちにも事情があってな。
馬車を降りてから、一度、
オレたちパーティーだけで話し合う必要があるようだ。
お前の道案内の件は、その話し合いが終わったあとに返事をしたい。」
「おじ様・・・。」
オレは、ガンランにそう言った。
木下からは止められることもなく、
ただ、困り顔のまま、オレを見ていた。
「あー・・・拒否じゃなくて、考えてくれるっていうなら、
俺は、それでいいよ。だいたい、俺も今すぐは動けない。
今日は、この馬車の護衛をこなさなきゃいけないからな。
あー、あんたらは、次の町で泊まる気か?
それとも、今日は、もっと先へ進む気か?」
ガンランは、そう聞いてくる。
今すぐにでも、オレたちについて来るような空気だったから、
こちらは答えを急かされている気分だったのに。
これも話術なのだろうな。
答えを急かして、相手に正常な判断をさせない方法なのだろう。
「オレたちは・・・どうするかな。」
オレは、すぐに答えず、木下たちを見る。
「・・・この馬車は、昼近くに次の町へ着くようですから、
私たちは、次の町で宿をとります。」
木下が、ひと呼吸おいてから、そう答えた。
少し冷静に考えられるようになったのかもしれない。
木下の声が、落ち着いている気がした。
「・・・分かった。では、今晩、あんたらの宿へ行く。
そこで答えを聞かせてもらうよ、ユンム。」
ガンランが、木下にそう答えると、
木下が、少し身震いしたように見えた。
ガンランの声は、たしかに、少し冷たいような、
寒気を感じさせるものがあった。
ゴトゴトゴトッ・・・ゴッ、ゴトゴトッ・・・
「・・・。」
「・・・。」
馬車は、軽快な速度で次の町へと走っている。
森林を何度か駆け抜け、今は草原の真ん中にある街道を走っている。
少しずつ海が近づいてきている。
あれから、オレたちの会話は、ぱったり止まった。
次の町へ到着するまで、根掘り葉掘り話しかけてくるかと思われた
ガンランからは、何も話しかけてこない。
涼しい顔して、馬車の進行方向を見ている。
「・・・。」
オレたちパーティーも、誰も話さない。
本当なら、ガンランのことを木下に聞きたいところだが、
本人の目の前では会話ができない。
「・・・。」
それは、シホやニュシェも同じ気持ちなのだろう。
だから、お喋りなシホですら、黙って
流れていく景色を眺めている。
「・・・。」
木下も、同様。外の景色を見たり、時々、うつむいたり。
時折、ガンランのほうをチラっと見る程度だ。
オレは、馬車に揺られながら、今後のことを考えていた。
オレたちは、一度、話し合うべきなのは間違いない。
オレと木下の、本当のことを・・・
この旅の、本当の目的を・・・。
そうしなければ、ガンランのような男が現れた時、
どう対処していいか分からないからだ。
だから、シホがお気楽に、
「イケメン大歓迎」みたいな空気で
ガンランと接してしまうのだ。
この先も、こういう者たちに、いつ出会うとも分からない。
・・・ただ、どこまで話すべきか・・・。
木下が『スパイ』であることは伏せたほうがいいのか・・・。
いや、オレたちの『特命』の内容も、
本来は部外者に漏らしてはいけないことになっているし・・・。
「・・・。」
しかし、旅を共にする仲間に言わないでおくことは難しい。
これは、お互いの信頼関係に影響することだ。
このまま、仲間をだますなら・・・
それは、パーティーとして成立しないのではないだろうか?
・・・それとも、これは騎士道とか、
そういうのを抜きにして、オレの性格が、そう思わせるだけか?
本来なら、やはり『特命』を果たすべく、最適な行動をするべきだろう。
時には必要なウソをつき、真実を語ることなく、
ただ黙々と、任務を遂行していく・・・。
それが『特命』を果たすということに繋がるのだろう。
そもそも、『ヒトカリ』に傭兵として登録したことも失敗だったのかもしれない。
傭兵の登録をしなければ・・・
巻き込まれることがなかった出来事や、出会うこともなかった縁もある。
しかし、旅の資金稼ぎや、
身分を隠すための『ヒトカリ』の会員証など、
傭兵の登録をすることは、とても利点が多かったのも事実。
・・・いや、すべては「今さら」だな。
現状と異なる仮定を考えていても、現状は変わらない。
現状で、最適である答えを探らなくては。




