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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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先輩と後輩の舌戦




・・・そういえば、『ソール王国』で

一番最初に木下と酒を飲んだ時、木下は一口で酔っ払い、

自ら『スパイ』であることを明かしてしまった。

父親が『ハージェス公国』の大臣で、

母親が『スパイ学校』の校長で・・・。

そして、その時、どうでもいい情報だと感じて聞き流していたが、

たしか・・・その学校に通っていた先輩が初恋の相手だと

喋っていた気がする・・・。


それが、この傭兵だというのか・・・!?


「・・・。」


木下は、顔色こそ元に戻ったが、困惑した表情だ。

昔のことを掘り返されて困っている・・・だけではなさそうだが。


「そう怖い顔をするなよ。キミの思っているようなことを

しにきたわけじゃないと言っているだろ?

それとも・・・そうしたほうがいいのか?」


「・・・!」


オレたちには、何の話をしているのか、

依然として分からない。

しかし、この傭兵の言葉ひとつで、木下の表情がまた変わる。

今の傭兵の言葉は、何やら脅迫めいた言葉に聞こえなくもない。

木下の顔色が、また青ざめている気がする。


・・・木下を守ってやりたい。


しかし、事情がさっぱり分からないから、

どう動いていいか、分からなくて

オレを始め、シホもニュシェも、戸惑っている。

・・・なんとも、歯がゆい。


しかし、黙っていては何も変わらない。

相手に主導権を握られたままだ。

ならば・・・


「あー、お前の名は、ギンナンだったか?」


「!?」


「・・・ガンランだ。」


「あぁ、そうそう、ガンラン。

昨日は、初対面だったから警戒していたが、

ユンムの知人であるなら、オレからも挨拶させてもらおう。

オレは、ユンムの叔父で、傭兵の佐藤健一だ。

こんなところで、同郷の者に、偶然出会えるとは思わなかった。」


「!」


オレは、木下と決めていたウソの設定のまま、

傭兵に自己紹介した。

木下は、驚いた顔でオレを見ている。

傭兵は・・・


「ふっ・・・。」


少し笑ったと思ったが、また涼しい顔になった。


「あー、佐藤さんは、ユンムの叔父さんだったか。

ユンムとは先輩後輩の仲で、学年が違うため、

学校でもあまり話したことが無かったから、

ユンムの親戚に、こんなに強い叔父さんがいるとは知らなかった。」


ガンランは、こちらのウソに気づいているはずだが、

そのウソの設定に乗ってきた・・・。

ここで、オレのウソを暴いて、

オレたちのパーティーを解散に追いやることもできただろうに。

いや、そうすれば、

自分自身もここで『スパイ』だとバレてしまうから、

ここでは、お互いにウソを暴くことは得策ではないと判断したか。


「・・・オレとユンムは、遠い親戚でな。

オレのほうこそ、こんなイケメンの恋人がいるとは知らなかった。」


「お、おじ様、だから、それは昔のことで!」


「あー、佐藤さん、俺はユンムと付き合ったことはないよ。

ユンムの初恋の相手が自分だと知ったのは、卒業後、

ほかの女から聞いた話で。」


傭兵は、すらすらと答えてくれる。

恋人として付き合っていたわけではないのか・・・。

そういえば、以前、木下はその手のことはまだ体験していないと

口を滑らせていたような・・・。

ならば、木下の片思いだったわけか・・・しかし・・・

それが真実なのか、それとも、ただ、オレの話に合わせているのか。

オレには判断がつかない。


「・・・。」


オレのほうは、会話が続かない。

木下たちのような『スパイ』ではないから、

ウソをつくために、頭の中でウソの言葉を作らないと

うまく喋れない。


「あー、ところで、あんたらは

ずっと旅しているようだが、どこへ向かっているんだ?

最近、隣国の『レスカテ』で名を挙げていたはずだが、

もう、この国に来てるってことは、東へ向かっているのか?

もしかして、『ハージェス公国』へ帰る途中か?」


そんなオレに対して、傭兵は・・・

ガンランは、ペラペラと話しかけてくる。

こちらが言葉を選んでいる、沈黙の間に、

話しかけられるから、こちらは

ウソを考えていた思考を中断させられる。


「あぁ・・・そうだ。」


だから、言葉足らずの返答しかできない。

また自分の言葉を考えなければ、会話が続かない。


「あー、だったら、俺も帰ろうかな。

あんたらの旅についていけば、安全に帰れそうだ。」


「!?」


「なっに!?」


ダメだ・・・オレでは『喋りの戦い』には勝てない!

この場の空気を変えるために、オレから仕掛けた会話だったが、

ずっと、ガンランに主導権を握られたままだ。


こいつ・・・オレたちのパーティーへ入ろうとしている!?


「だ、ダメです!」


ここで、すかさず木下が反論してくれた。

木下の意思さえ分かれば、オレも動きやすい。

相手を拒否したところを見れば、やはり、こいつは敵なのだな。


「んー? なぜだ? 見たところ、

男手が不足しているようだから、

俺がユンムたちのパーティーへ加入することで

バランスがよくなると思うが?」


ガンランも、すかさず食い下がる。


「・・・!」


「なにが、ダメ、なんだ? ユンム?」


ユンムに対して威圧的なものを、こいつの声から感じる。

まるで、町のチンピラみたいな態度に見えるな。

先輩風を吹かせて後輩をいじめるような、そんな感じか。

その威圧に負けて、木下のほうは、すぐに反論できない。


「おいおい、話を勝手に2人で進めるな。

こっちのパーティーのリーダーはオレだ。」


すぐにオレが助け舟を出す。

口では勝てないが、それでも口を出さずにはいられない。

こんな男、パーティーに加入させてなるものか。


オレが、ガンランとユンムの間に入ったことで、

ガンランの眉がピクリと動いた。


「そうだったな、佐藤さん。

これは失礼を・・・。では、佐藤さんが決めてくれるのか?

俺が加入していいか、どうか・・・。」


「あぁ、そうだな。

答えは、ユンムと同じだ。お断りする。」


「おじ様・・・!」


オレは、即答してやった。

ウソをつこうと思えば、熟考してしまい、

言葉がすぐに出ないものだが、

木下の意思をはっきり聞いているから、

ウソをつくまでもないし、考えるまでもない。


「あー、なぜダメなのか、理由を聞いても?」


「それは・・・。」


しかし、やっぱり相手の返しがうまい。

ユンムが嫌がってるから・・・と言いたいところだが、

それを言ってしまえば、

「ユンムさえ説得できれば加入を承諾する」という

返事をするのと同じ意味になってしまう。

そして、おそらく木下は、

こいつの言うことを拒否しがたい『何か』があるのだろう。

先輩だからか? それとも、後で報復されるのか?

まさか・・・初恋の相手だからってわけじゃないだろうな。


「それは! 先輩の傭兵ランクが『C』だからです!

私たちは、『Aランク』の傭兵で編成されたパーティーですから、

いくら先輩の頼みでも、パーティーへの加入は認めません・・・!」


「!」


木下が、はっきりと断言した。

少し青ざめた表情で・・・

ヒザの上に置いている拳が少し震えている。

恐怖を感じながらも、勇気を振り絞ったのだと感じる。


木下の言った言葉に、ウソが含まれているからだろう。

ニュシェは傭兵に成りたてで『ランク外』の傭兵だし、

オレたちのパーティー加入に『ランクA以上』なんて条件は無い。


「そういうことだ。」


オレは、気の利いたことが言えず、そう言うのが精一杯だった。

果たして、木下のウソは、こいつに通じるか・・・。


「・・・ふぅー・・・。」


「!?」


ガンランが突然、溜め息をついた。

口では勝てないと思っていたが、木下の返しがうまかったのだろう。

さっきまでと違って、明らかに落胆した表情になった。


しかし、ガンランは諦めていなかった。


「あー、それなら、この国にいる間だけでも、

道案内役として、ついていっていいか?

決して、あんたらの邪魔はしないから。

あんたらよりは、この国の事情に詳しいし、

ユンムとは久々に会えたわけだから・・・

いろいろ聞きたいことがあるんだ。

ユンムのほうも、俺に聞きたいこと、あるんじゃないか?」


「・・・。」


よくもまぁ、次から次へと言葉が出てくるものだ。

少し苦しい言い訳にも聞こえるが、筋は通っている。

まるで、しつこいナンパのようだ。

なんとしてでも、オレたちについて行きたいようだ。

・・・何が目的なんだ?

やはり、木下の反応からすると、木下に用事があるのか。


木下はまた黙ってしまった。「ダメ」と言わない。

このままでは肯定していると思われて

やつは、ついて来てしまうだろう。

いや、ここまで諦めずに、しつこく言い寄ってくるってことは、

ここで拒否しても、勝手に後をつけられてしまう可能性が高いな。

木下も、それに気づいていて、返答に困っているのかもしれない。


ヘタに気配を消されて、ついて来られても困るし、

いっそのこと、堂々とついて来てもらったほうが安心か?






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― 新着の感想 ―
[良い点] おっさんなんか色々負け始めてるぞ。 もっと頑張れ。 [気になる点] ニュシェも反対だろうけど、もう一人、シホはどうかな? [一言] ユンムが告白してたらどうなっていただろうか…
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