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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
280/502

エンカウント




オレたちが雑談しているうちに、馬車では

次の町へ行くための荷物の積み込みが始まった。

幸い、次の町へ行く乗客は、オレたちと商人の男1人だけだった。

商人は、荷物が少ないようで、積み込み作業は、すぐに終わった。


荷物を積み終わっても、広い馬車内。

荷物が少ないと、広々と感じるな。

オレたちは並んで座った。対面には、商人の男1人が座る。


「?」


そう言えば・・・この馬車が、ここへ到着してから、

護衛役の傭兵を見かけないな?


「どうかしましたか? おじ様?」


オレがキョロキョロしていたので、

隣りにいた木下が不思議そうに聞いてくる。


「いや、この馬車には

護衛役の傭兵がいないのかと思ってな。」


「そう言えば・・・。」


オレの返事を聞いて、木下も気になったようだ。

オレといっしょにキョロキョロと見渡す。

しかし、やはり、この馬車には、

オレたち以外は、目の前の商人しか乗っていない。

馬車の周りにも人影は見られない・・・。


「おじさん! そっちからあの人のニオイがする!」


「!!」


「え!?」


木下の隣りに座っていたニュシェが、いきなり

馬車内の前側、荷物が積んであるほうの

端っこを指さした!


馬車内は、ほろがあるせいで薄暗い。

それでも、人間1人を認識できないほど暗いわけではない。

意識しないと見えないということは・・・


「・・・あぁ、そうか。

そこの彼女は『獣人族』だったな。

鼻が利く『獣人族』には、気配を消していても

バレやすいんだった・・・さすがだな。」


「っ!!」


そこに、男が座っていた!

この町の『ヒトカリ』で出会った、あの傭兵だ!

気配を消して、初めから、そこに座っていたようだ!

まるで気づかなかった!

積み込んである荷物の一部かと勘違いするほどに!


ザッ


「!!」


オレは思わず立ち上がり、身構えてしまった。


「ひっ!」


対面に座っていた商人が、

オレの緊張した空気を察して怯えている。


「おっとっと! まぁ、待ってくれよ。

昨日と言い、あんたは警戒心が強いな。

まぁ、元・傭兵たちに命を狙われるかもって

忠告しておいたわけだから、そう警戒する気持ちも分かるけどな。

でも、俺は元・傭兵じゃないぜ。現役の傭兵だ。

だから、身構えないでくれるか? この通りだ。」


傭兵は、そう言うと座ったまま、

昨日と同じで、両手を軽く上げた。降伏の姿勢だ。


まだ座ったままの木下を、ちらりと見たが

完全に顔が青ざめていた。

恐怖を感じている表情・・・。


気配を消していたことと、木下の表情からして、

この傭兵の言葉を鵜呑みにはできない。

オレは、警戒を解いてはいけない気がした。

これは長年のカンというやつだ。


「・・・困ったなぁ。あんたが座ってくれないと、

この馬車は安全を確認して出発できないぜ?」


傭兵は、少し溜め息まじりに、そう言う。


「・・・桐生・・・先輩・・・。」


「え?」


木下が、震えた声で、傭兵の名前をつぶやいた。

いや、なにか最後に、おかしなことを言ったような・・・。


「久しぶりだな。マイカ・・・。

いや、今はユンムだったか? 元気そうだな。」


「!?」


傭兵からも、おかしな言葉が飛び出てきた。

なんだ? 今、木下のことを『マイカ』って呼んだようだが?

「今はユンム」って・・・え?


「・・・。」


「ど、どういうことだ? ユンムさん?」


「知り合いなの?」


オレと同様に、シホもニュシェも混乱している。

気づけば、オレは混乱して、警戒することを忘れた。

気が抜けたというか・・・。

オレは席に座って、傭兵と木下の顔を交互に見た。


「どういうことなんだ?」


「・・・。」


オレの問いに対しても、木下は無言だった。

ただただ、傭兵の顔を見て、青ざめている。


「ふぅ・・・。あんたが座ってくれて助かったよ。

ようやく、馬車が出せる。

こっちは準備できた! 馬車を出してくれ!」


傭兵は、そう言って、御者へ合図を送り、

御者は馬を操縦し始めた。


ピシッ パッカ、パッカ、パッカ・・・


ゴトゴトゴトゴト・・・


「・・・。」


・・・この異様な空気の中、馬車が走り出してしまった。

発車する前に、降りてしまえば・・・と思ったが、

たとえ、この馬車を降りても、この傭兵が

護衛役として、この馬車にずっと乗っているなら、

結局、次の馬車でも同じことだろう。

馬車に乗らない限り、次の町へは行けず、

この町にいる限り、この傭兵に会う確率が高い。


怯えている商人の男は、車内の隅のほうで縮こまっている。

この車内の一番の被害者は、商人だろうな。


無言のまま、涼しそうな表情の傭兵の男・・・。

対して、木下も無言のままだが青ざめたままだ。


先ほどのオレの問いが聞こえなかったわけではないだろうが、

木下は、オレの問いに答えてくれない。

どういうことなのか・・・どういう関係なのか・・・

この傭兵の前では、答えられないのか?


「んー・・・そちらの態度を見るからに、

ユンムからは、何も聞いていないようだな?」


「・・・。」


傭兵の問いに、誰も答えられない。

答えないということは、傭兵の言っていることを

肯定しているのと同義なのだが、

どう答えればいいのか分からなかった。


こういう時、いつもなら木下が

とっさの機転と上手なウソで切り返してくれるのだが・・・


「・・・。」


木下は、一言も声を発しなかった。


「あー、驚かせてすまない。

初めて会った人もいるから、改めて自己紹介させてくれ。

俺は、傭兵『ランクC』の、桐生ガンラン。

俺は『ハージェス公国』出身で、

そこのユンムとは、同じ学校の卒業生でね・・・。

ユンムは、俺のかわいい後輩なんだ。」


「なにっ!?」


「えぇ!?」


傭兵からの突然の事実に、オレたちは驚く。

シホやニュシェは、ただ傭兵とオレたちが同郷の仲であることに

驚いているだけだろうが、オレは違う意味で驚いている。


木下と同じ出身国・・・しかも、同じ学校の卒業生・・・

つまり、それは・・・『スパイ学校』の卒業生ということか。

この傭兵は、木下と同じ『スパイ』!?


オレは、木下の顔を見たが、オレの問いの時と変わらず、

青ざめたまま、傭兵を見ている。

表情が変わらないから、傭兵の言っていることが

真実かどうかも分からない。

傭兵が『スパイ』であるなら、木下と同じく、

ウソをつくことは朝飯前だろうから・・・。


「な? ユンム?」


傭兵は、木下に気軽に話しかけている。

まるで昔から仲が良かったかのように。


「・・・。」


しかし、木下の青ざめている顔を見ていると、

とても、そう感じられない。

仲が良い者と再会できたという顔ではない。

まるで・・・会いたくなかった者と出会ってしまったような顔だ。


「あんたらパーティーのウワサは、『ヒトカリ』で

よく聞いてたんだが、その中に知った名前があったから、

もしかしてって思ってたんだ。

まさか、本当に、後輩のユンムだったとは思わなかったよ。

こうして『偶然』会えてよかった。」


木下の態度がおかしいから、こちらは

誰一人として、傭兵の言うことを信じてはいない。

少なくとも、オレは信じられない。

それでも、木下が一言も喋らない以上、

傭兵の言葉が、真実のように思えてくる。

傭兵は、こちらの反応がないことを

意にも介さず、自分の言いたいことを喋りかけてくる。


「・・・。」


木下は喋らない。

まるで、いつもの木下じゃないようだ。

木下が何も話さない以上、オレたちは声を発することが出来ない。

傭兵の言っていることが、ウソか真か・・・

こいつは、敵なのか? 味方なのか?

その判断ができない。


ゴトゴトゴト、ゴトゴト・・・


馬車は町を出て、どんどん町から離れていく。

山の傾斜から見える広大な海・・・。

景色は最高で、風も心地いいのだが、車内の空気は重い・・・。


「あー・・・ユンム、もしかして勘違いしてるんだろ?」


「?」


「俺が、ここに居合わせたのは単なる偶然だ。

キミが思っているようなことはしない。」


「!?」


「・・・。」


傭兵の言葉の意味が、さっぱり分からないが、

木下には通じているのだろうか?

傭兵が、どんなに言葉を投げかけても、木下の表情は変わらない。

青ざめたまま・・・ただ黙って、傭兵を見ている。


「それとも、アレか?

初恋の相手に偶然出会ったから、運命を感じちゃったか?」


「なにっ!?」


「え、ウソ!? そうなのか!?」


「・・・!」


傭兵の爆弾発言によって、オレやシホが驚きの声をあげた。

爆弾発言の威力が大きかったようで、

ここで、ついに木下の表情にも変化が表れた。

青から赤へ・・・少し赤面している。


「む、昔のことです!」


やっと木下が言葉を発した。

しかし、その言葉は、否定のようで否定ではなかった。

目の前の傭兵が・・・こいつが、木下の初恋の相手!?





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― 新着の感想 ―
[良い点] 木下さん、感情出すぎw スバイ学校では及第点ギリギリとみた。 これは、あれかな抜け忍と追手みたいな関係? [気になる点] だけどそこがんいいんだ木ノ下さん。 [一言] 今は違うんだから堂…
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