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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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出発準備





長谷川さんが置いていったお金で、朝食代を支払い、

オレたちは、食堂から部屋へ戻ると、

すぐさま出発の準備をした。


「あー、ユンムさん、俺としては

そろそろ着替えを買い換えたいんだが・・・

町を出る前に、買い物をする時間はないか?」


シホが木下に、そう聞いた。

たしかに、オレのほうも、そろそろ新しい着替えを

購入しておいたほうがよさそうだ。


これまでも、宿屋へ泊った際に、

洗える時には洗って使い回していたが、

木下みたいに大量の着替えを持って来ていないから

『ソール王国』から持ってきていた着替えは、

繰り返し着たので、かなり、へたってきている。


それと、気になるのは、服に染み付いたニオイだ。

オレは気にならないが、女性というのは

ニオイに敏感な生き物だということを、女房や娘に思い知らされている。

ガサツな感じのシホだが、あぁ見えてニオイに敏感だし、

ニュシェに至っては『獣人族』だからか、

ものすごく鼻が利くようだし。

長谷川さんは、しきりに「うらやましい」と言っていたが、

女性たちがいるパーティーというのは、何かと気を使うものだ。


「たしかに、私のほうも、そろそろ新しい下着に

買い換えたいのですが・・・

買い物は次の町へ移動してからにしましょう。」


大好きな買い物の提案をされて、少し迷った木下だったが、

やはり、この町から早く離れることが最優先のようだ。

例の傭兵は、それほどの男なのか?

知り合いだが会いたくない相手とか?

まさか、あいつに命を狙われているわけではないだろな?


「ニュシェちゃん、

いっしょに『熱泉』へ入れなくて、ごめんね。

次の町にあったら、いっしょに入ろうね。」


木下が、そう言いながら、申し訳なさそうに

ニュシェの頭を撫でている。


「ううん、大丈夫だよ。

それに、ユンムさんが倒れちゃったり、

シホさんがフラフラになっちゃうほど危ないみたいだし、

あたしは入らなくてもいいかな。」


ニュシェは、そんなふうに答えながら荷物をまとめていた。

他意はないだろうが・・・


「はあうぅ・・・。」


「うぅっ・・・。」


木下とシホは、昨日の失態を思い出して

精神的なダメージを受けていた。


「ぷっ! あっはっは!」


オレは、思わず笑ってしまった。


「わ、笑い事じゃありません!

おじ様、マイナス5点!」


今ので、なぜオレの評価が下がったのだ!?


「それに、おじ様のように

変な人と仲良くなっちゃうよりマシです。」


「おいおい、変な人って・・・。」


とんだとばっちりだ。

長谷川さんのことを変人扱いとは・・・。

いや、たしかに普通ではないか。


「あ・・・!」


「ん!?」


その時、オレとニュシェが同時に声を上げた。

ずっと感じていた、気持ち悪さが急に消えたからだ。

おそらく・・・


「もう出発されたようだな・・・。」


「そっか、もうここを出て行ったんだね。

あのおじいちゃん・・・。」


オレたちが『刀』のエネルギーに反応して

体調を悪くしていることを気にかけておられたから、

早々に準備して、この宿屋を出られたのだろう。


「はぁぁぁ・・・。」


ニュシェが、開いている窓のそばに立って深呼吸している。

オレも、その隣に立って、同じことをした。

呼吸がしやすい。空気が心地いい。気持ち悪さを感じない。

体調が元に戻ったことを実感する。


「そうか、おっさんたちは

あのじいさんの武器のエネルギーが分かるから、

離れていても、そういうのが分かるんだな。」


シホがそう言った。


「そうだな。あの武器のエネルギーが

離れていったのを感じる。気持ち悪さがなくなった。

オレたちを気遣って、早々にここを立ち去られたのだろう。

なんとも律儀なお人だ。」


オレは、窓から空を見ながら、そう答えた。

不思議な巡り合わせだったな。

オレは何もできなかったが、長谷川さんの旅の無事を祈ろう・・・。




長谷川さんが早々に宿屋を出ていったから、

オレたちは、ゆっくりしていても問題ないのだが、

木下は、とにかく早くこの町を離れたいらしい。

みんなの準備が出来たので、

宿屋の受付で宿代を支払い、オレたちは、

町の中央にある大型馬車の停留場へ向かった。


オレは歩きながら、昨日『ヒトカリ』で得た

この国に出没する魔獣の情報を、木下たちに伝えた。

魔獣の名前を覚えるのが苦手なオレだが、

そこは、ニュシェに助けてもらった。

やはり、若いやつは記憶力がいいな。


「そうか・・・この国にも『ラスール』がいるのか。」


シホが、少し強張った表情になった。

シホの姉や仲間たちの命を奪った魔獣・・・。

もちろん、カタキである魔獣は、

『レスカテ』の、あの『洞窟』の奥で討伐したわけだし、

多くの同系統の魔獣をあの『洞窟』で討伐してきたわけだが、

それでも、あの魔獣の姿は、もう見たくもないのだろう。


「『レスカテ』で出会った、あの魔獣たちは、

『バンパイア』の血によって強くなっていたが、

この国の魔獣たちは、アレよりは弱いらしいからな。

もし、出会っても、オレたちなら負けない。」


オレは、シホを励ますつもりで、そう言った。


「あぁ、そうだな。次に会ったら、俺もやってやる!」


シホが、少し明るい口調で、そう答えていた。

わざと明るい声を出すことによって、

自分自身を奮い立たそうとしているようだ。


「私たちが海へ出ることは無いでしょうから、

気を付けるべきは、山のほうに出る魔獣たちですね。」


木下が、そう言った。

たしかに、そう考えれば、

遭遇しやすい魔獣の種類は、そう多くないようだ。

『ゴリラタイプ』と『イノシシタイプ』だな。




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