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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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一夜明ける




早朝、オレと長谷川さんは、同時に起きた。

昨夜、遅くまで楽しい気分で、しこたま酒を飲んでしまったが、

不思議と悪酔いをしなかったようだ。

全然、酒が体に残っておらず、すっきりした目覚めだった。

そういえば、初めて味わった酒だな。

久々に楽しい酒が飲めて、お互いに

ストレス発散になったらしい。

それとも、これは『熱泉』の効能なのだろうか?


ただし、オレのそばには、長谷川さんがいて、

長谷川さんの手元には、あの気持ち悪い『刀』が置いてある。

当然、酔いが覚めた今のオレは、全身鳥肌が立って仕方がない。


それにしても、なんなんだろう? この武器は・・・。

魔道具の一種かと思ったが、この武器からは魔力を感じない。

魔力ではない、違う『ナニか』が、この宿屋を覆うほどに辺りを包み込む感じ・・・。

気持ちの悪い霧かもやの中に、飲み込まれている気がして、鳥肌が立つ。

だからこそ、宿屋に入っただけでは、この武器の正確な位置は分からなかった・・・。

世の中は広いな。こんな武器もあるのか。


スッ・・・


「!?」


起きた途端に、長谷川さんはオレに対して正座して

お辞儀し始めた。土下座だ。


「昨夜からのご無礼、お許し願いたい。

佐藤殿が『熱泉』に来る前から、ワシは少し酔ってしまっていたから

あんな態度をとってしまったが・・・

本来ならば、ワシの刀によって、佐藤殿と

お連れの方の体調に支障をきたしているのであれば、

きちんと詫びをいれねばならぬところ・・・。

この通りじゃ。」


自分より年上の人に、こんな綺麗な土下座をされるのは初めてだ。


「あ、頭をあげてくれ! 長谷川殿!」


慌てて、長谷川さんの土下座をやめさせた。


「しかし・・・。」


顔を上げた長谷川さんは、申し訳なさそうな表情だ。

昨夜から話していて、すでに分かり切っているが、

この人もマジメな性格なのだな。


「長谷川殿にも事情があることは、分かっている。

それで、その・・・オレのパーティーに会ってくれないか?

差し支えなければ、その事情を、

オレはパーティーのみんなと聞きたい。」


オレは、そう言ってみた。

長谷川さんの事情は、きっと他人には話しづらいことだろう。

しかし、もし、話してくれるなら・・・

オレといっしょに『刀』の気持ち悪さを感じていた

ニュシェにも話してほしい。

オレだけが聞いて、オレからニュシェへ話しても同じことだが・・・

オレだけに話してくれた長谷川さんの気持ちを裏切るようで後味が悪い。

それならば、いっそのこと、ニュシェたちといっしょに

長谷川さんの話を聞いたほうがいいと感じた。


「あぁ、いいとも。

お主が昨晩、何度も、美人じゃ美人じゃと言っておったから、

ワシも会ってみたいと思うておったところじゃ。」


「えぇ!?・・・はっはっは!」


「かっかっか!」


冗談を交えながら、長谷川さんは快諾してくれた。




「おじ様! どこへ行ってたんですか! 心配したんですよ!」


オレと長谷川さんは、起きてから、

すぐに木下たちの部屋へ行かず、食堂でいっしょに朝食を食べていた。

オレたちが起きた時間が、まだ早かったから

寝起きの女性陣たちの部屋へ、長谷川さんを

連れて行くわけにはいかないと思ったからだ。

ありがたいことに、食堂は早朝から営業していたので、

そこで、ゆっくりと食べながら、

木下たちが起きてくるのを待っていたのだった。


一晩寝て、のぼせた体が回復したらしい木下たちが

食堂へやってきた。

予想通り、木下からは開口一番にお叱りの言葉が出てきた。

しかし、カンカンに怒っている感じがしない。

昨日の『熱泉』でシホといっしょに

茹であがってしまった失態があるから、

オレに強く言えないのだろう。


「すまん! そ、その・・・、

ユンムもシホも回復したようで何よりだ。」


オレは、謝りながら2人の体調を気遣ったのだが、


「うぅっ・・・ご心配をおかけしました・・・。」


案の定、木下からは気まずそうな返事が返ってきた。


「心配だったなら、俺たちを残して

部屋を離れないでほしかったなぁ。おっさん?」


珍しく、シホも少し怒っている様子だ。

おそらく、木下と一緒にのぼせて弱っていたから、

女性陣だけ一夜を明かすのは心細かったのかもしれない。


「すまなかった!

じつは、オレとニュシェの体調不良の原因が分かったんだ!」


オレは、そう答えたが、


「お、お、お、おじさん!

それ・・・それだよ、それ・・・!」


ニュシェが、オレの隣りに座っている

長谷川さんが腰に差している武器を指さしながら、

木下たちの後ろに隠れて、獣の耳を震わせていた。

そりゃ、そうだろうな。昨夜のオレと同じ反応だ。


「え? それって? それに、その方は?」


木下たちは、長谷川さんの武器に、

これだけ近づいていても、何も感じていないようだ。


ガタッ


長谷川さんが席を立ち、

木下たちに向かって深々と頭を下げた。


「お初にお目にかかる。ワシの名は、長谷川ロイヒトトゥルム。

一介の剣士だ。この刀は『妖刀・ヴィガンサ』。

昨日から、佐藤殿とそちらの女性に、

この刀のせいで、多大な迷惑をかけてしまい、

大変、申し訳なく思っておる。すまなかった!」


長谷川さんは、昨夜オレと会った時と同じように

自己紹介して、謝罪の言葉を述べた。




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