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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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初の接触




この町『ハールナヴゥ』の『ヒトカリ』は、

町の中心から近い場所にあった。

ほかの町の『ヒトカリ』と変わらぬ大きさの建物。


すでに時刻は午後になっているため、

中には、数人の男女の傭兵しかいない。

・・・ちなみに、例のアーマーを着ている女性もいなかった。

やはり海側の町じゃないと、装備している女性がいないらしい。


「なにか探してるの?」


「ん!? いや、なにも・・・。」


ニュシェがそばにいることを忘れて、

オレは例のアーマーを探してしまったようだ・・・。

少し後ろめたい気持ちになった。


『依頼掲示板』には、3枚ほどの依頼書しか残っていなかった。

少し見てみたが、野盗討伐の依頼と、海の魔獣討伐の依頼、

あとは、山の草刈りの依頼だけだった。

やはり、『伝説の海獣』の討伐依頼書は出ていない。


「なんか、これ、かわいい。」


ニュシェが、

海の魔獣討伐の依頼書に載っている絵を指さして、そう言った。

ニュシェは初めて見るのかもしれないが、

オレは、どこかで、その魔獣の絵を見たことがあった。

学校の教科書だったと思うが・・・名前は・・・。


「そいつは、『軍隊ペンギン』。海の魔獣だ。」


「!」


反射的に振り向いたら、

いつの間にか、オレたちの後ろに

1人の傭兵らしき男が立っていて、そう教えてくれた。

・・・気配を消して近づいてきた?


「体長は、1mほどで、キミよりも小さい。

かわいい姿に見えるかもしれないが、クチバシが鋭く、

船の底を、貫くほどの強度を持っていて、海の中を高速で泳ぎ回る。

いつも100匹ほどの大群で行動していて、

一度、こいつらの縄張りに入ったら、最後・・・

相手が動かなくなるまで、集団で突撃してくる。

とても危険で、凶暴な魔獣だよ。」


傭兵は、まるで学校の先生のように、

淡々と、魔獣に関しての説明をしてくれた。


「その依頼、受けるつもりかい?

それは、船がないと討伐に行けない依頼だ。

頼れる船がないなら、止めておいたほうがいい。」


傭兵が、そう聞いてきたので、


「いや、ただ見ていただけだ。」


オレは、そう答えた。

そのまま、傭兵を少し観察する。


傭兵の装備は、けっこう軽装備だ。

革製の胸当てをしている。

腰に短剣を差していて、身軽そうな体型をしている。

近接戦が得意なのかもしれない。

もしくは、魔法が得意な傭兵か?

どちらにしても、気配が分かりづらかったから、

かなり手練れの傭兵だと感じる。

オレより若い顔で、かなりのイケメンだな。

サラサラの黒髪だ。


「そうだろうな。

あんたたちは、ほかの国から来たって感じがする。

地元の傭兵じゃないと、船が必要な依頼は受けにくいものだ。」


「!」


オレたちの姿を見て、よそ者であることが見抜かれるとは。

それだけ、オレたちがこの国の者たちと違う姿をしているのか?

それとも、こいつの観察力がすごいのか?


「違っていたら、失礼だが・・・

もしかして、あんた、『殺戮グマ』の佐藤健一か?」


「!!」


一気に緊張が走る!

こちらが、名乗っていないのに、どうして、こいつは!?

思わず、身構える。


「・・・!」


ぎゅっ


ニュシェが、オレの腕にしがみつき、

オレの後ろへ隠れるように、くっついてきた。

こいつの言葉に、こいつの態度に、

本能的に、不穏な空気を感じ取ったのかもしれない。


「あー・・・その顔は、当たりってことでいいのかな?

そう、怖い顔をしないでくれ。

あんたに睨まれたら、怖くて鳥肌が立ってしまう。」


傭兵は、少しふざけるような口調で、そう言って、

軽く両手を挙げ始めた。降伏の姿勢だ。


「警戒させて申し訳なかった。この通りだ。

俺は、傭兵『ランクC』の、桐生きりゅうガンランだ。

ガンランと呼んでくれたらいい。

あんたの噂は、『ヒトカリ』で知ったんだ。」


傭兵は、そう名乗って笑顔を見せた。

噂で知ったというのか・・・。

たしかに『レスカテ』の『プロペティア』の町では、

あっという間に噂が広まって、どこへ行くにも指をさされたものだが、

同じ『レスカテ』でも他の町へ行ったら、

だれにも見向きされてなかったはずだ。

つまり、噂だけでは、オレたちの姿までは分からないはずだが・・・。


「そんなに噂になっているのか? オレたちは。」


「あぁ、なんて言ったって、

『ランク外』から一気に『ランクA』に駆け上がった傭兵だからな。

あんたらの知名度も、一気に上がってるよ。」


オレの質問に、淡々と答える傭兵。

ガンランとか言ったか。


「オレたちは、まぐれというか、成り行きで、そうなっただけで、

経験値は、あんたたちのほうが上だ。

オレたちのことは、たいしたことないと思ってくれたらいい。」


オレは、そう言っておいた。

これ以上、噂が勝手に大きくなっても困る。

あちこちで注目を浴びてしまうのは、

『特命』の旅としては、まずい状況だ。

それに・・・

たしか『レスカテ』のデーアが言っていた。

元・傭兵のならず者たちが、高ランクの傭兵を狩るという話を。

目の前の、こいつは、こうして『ヒトカリ』に出入りしているから

元・傭兵とは違うようだが、こいつが裏で

そういうやつらと関わっていないとは言い切れない。

警戒しておかねば。


「そうなのか?

でも、こうして直接会ってみると、

なんとなく肌で感じるよ、あんたの強さを。

たしか、3人のパーティーだと聞いていたが・・・

ほかの仲間は?」


3人・・・そうか、『ヒトカリ』には、シホだけ加入を申告していたな。


「いや、その・・・。」


オレは口が達者なほうではない。

警戒しながら、うまく嘘をつけないから黙ることしかできない。

木下たちの情報を、軽々しく話してはいけない気がして、

なんとも不自然な沈黙の間ができてしまった。


「あー・・・いきなり話しかけてすまなかった。

本当なら、どうやって、

そんな急なランクアップができたのか、秘訣とか経緯なんかを

聞いてみたかったが、どうやら警戒されているみたいだから、

俺は、このへんで・・・。

それと、あんたたちのような高ランクの傭兵を狙う

『高ランク狩り』という非道なゲームが、

元・傭兵のお尋ね者たちの間で流行っているという噂も聞いてるから、

じゅうぶん注意してくれ。じゃぁな。」


そう言って、最後にまたニコっと笑って、

オレたちの前から颯爽と去っていく、ガンラン・・・。

そのまま『ヒトカリ』の出入り口から出ていった。


本当に、ただ、オレたちの噂を知って、

オレたちに話しかけてきただけだったのかもしれない。

だとしたら・・・

相手が名乗ってくれたのに、こちらは名乗りもせず

警戒して黙っていただけの態度をとってしまった・・・。

とても失礼な態度をとってしまった。


しかし、気軽に名乗って、要らぬことまで話したり、

心を許してしまうのも困るし。


「はぁぁぁー・・・。」


オレは、傭兵が去ってから、溜め息をついた。

考え過ぎて、緊張していたから、

その緊張が解けた気がする。


「なんかビックリしちゃって、失礼な態度とっちゃったけど、

案外、いい人だったのかもね。」


オレの後ろに隠れていたニュシェが、

オレの腕を離して、そう言った。


「あぁ、そうだったのかもしれない。

オレも礼儀を欠いてしまったが、

今、あいつが言ってくれた通り、

オレたちは命を狙われる可能性があるからな。

用心に越したことはない。それは、忠告してくれた

あいつが、よく分かってくれているだろう。」


ニュシェにそう言いながら、

そうであってほしいと願った。


「気を取り直して・・・

窓口で、この国の魔獣の情報を聞いてみるか。」


「うん。」


オレとニュシェは、窓口へ向かった。




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