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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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海獣の影響



「あんたたち、本当に、一部屋に4人泊まるのかい?」


オレたちが夕食を食べるために外出しようとしたら、

この民宿の女将がそう聞いてきた。

かなり、年季の入った女将だ。オレより年上だな。


「なにか問題でも?」


木下が、そう聞き返す。

この民宿は、部屋代だけの料金で

何人泊っても追加料金はかからないはずだが。


「いや、別にダメってわけじゃないけど・・・

あんたたちほどの若い女性が、こんなおじさんと・・・ねぇ?」


やはり、他人から見れば、異常な組み合わせで、

この組み合わせが一部屋に泊まることは、さらに異常に感じるだろう。


「あー、女将が思っているような関係ではない。

オレたちは、傭兵のパーティーで・・・。」


「おじ様は、私の親戚ですので、

やましいことは起こりません。」


オレの言い訳と木下の言い訳が同時になってしまったが、


「あ~、そういうこと・・・野暮なことを聞いて悪かったね。」


女将は、納得したようだ。


「それにしても、どこの宿屋も満室だったが、

この時期は、こういう感じなのか?」


今度はオレが女将に質問してみた。


「この時期だけじゃないさ。去年から、ずっと、こんな感じだよ。

定期的に出てた船が出せなくなってから、人も荷物も滞り気味でね。

やむを得ず、宿泊しなきゃならない商人たちが増えたんだよ。」


「なるほど・・・例の『海獣』のせいか。」


「ほかの宿屋で泊まりたいなら、

朝のうちに部屋を取りに行ったほうがいいよ。

だいたい昼を過ぎれば、どこも満室になっちまうからね。」


そう言って助言してくれた女将。

そうなると・・・夕方になって町へ着いてから宿をとるという

流れでは、宿屋に泊まれないわけか。

次の町へ昼までに着いたら、そこで宿をとらねばならないのか・・・。

これは、そうとう無駄な時間がかかってしまうな。


『伝説の海獣』か・・・誰か、どうにかしてくれないかな。




オレたちは、民宿の女将のオススメである、近くの食堂へ来た。

夕食の繁盛時、大衆食堂『マーメイ堂』には、すでに多くの客が来ていた。

どの客も商人らしき格好をしている。

食堂は、そこそこ広い店内なのに、

満席に見えるほど、賑やかだ。

あちこちの会話から、お金の話が飛び交っている。

昼間、馬車の中で出会った商人たちと同じく、

あちこちで商談が行われているようだ。


「『サオ』での武器の価格は、そんなに安くないぞ!?」


「いやいや、ここは『サオ』じゃなく『カシズ』だぞ。

ここでは、これが適正価格だ。みんなに聞いてみろ!」


「また『アッカダイ』の値段が上がってねぇか!?」


「仕方ないだろう。まだ『海獣』がいるのだから、

漁師たちも命懸けで魚を獲っているんだ。」


商人たちの話を聞いているだけで、

ここの市場の現状が分かる気がする。

しかし、あまり数字に興味がないオレとしては、

ずっと聞きたくはない。頭が痛くなりそうだ。


なんとか4人で座れる席を確保して、

オレたちは、夕食をとることにした。


「あー・・・この店にも、酒があるようだなぁ・・・。」


オレは、さりげなく独り言のように言ってみた。

木下の顔色をうかがいながら。


「いいですよ、飲んでも。

ただし、ここでも1杯だけにしてください。

おじ様は、どうやら、酔っぱらうと

他人に話しかけてしまう傾向があるようですから。」


木下に、そう釘を刺された。

今日の馬車内で、オレから商人に話しかけたのは、

昼間に飲んだ酒のせいだと思っているようだ。

あの時には、すでに酔いもさめていたと自覚しているのだが。

うっかり話しかけてしまったことは否めない。


「分かっている。

すまんな、オレだけ楽しんでしまって・・・。」


オレは、素直に木下に従っておく。

そして、このパーティーで酒が飲めるのは、

オレだけのようだが、一応、ほかのみんなにも謝っておく。

ほかの飲み物よりも、酒は少し高値だ。

『レスカテ』で、じゅうぶん稼いだとはいえ、

その酒の分だけ、多めに料金が発生してしまうのだから

申し訳なく思っているのは、本心だ。


「大変混みあっていて遅くなりました!

申し訳ありません! では、ご注文、おうかがいします!」


元気で若い女性の店員が、注文をとりにきてくれた。

みんなで食べ物と飲み物を注文した。

食べ物は作るのに時間がかかっているようだが、

飲み物は、すぐに出てきた。


「ごきゅ、ごきゅ・・・くぅぅぅーーーぅ!」


「おじ様、変な声を自重してください。恥ずかしいです。」


また木下に、たしなめられる。

しかし、久々の酒なのだ。どうしても嬉しい声が漏れてしまう。

1杯しか飲めないというのに、ついつい一気に飲んでしまう。

ここの酒は、『レッサー王国』で飲んだことがある、

少し茶色がかっていて、少し苦みがある酒だった。

次々に運ばれてくる魚料理も、おいしい。

肉料理に合う酒だと感じていたが、魚料理にも合うようだ。うまい。


「あたしも、お酒、飲めたらいいんだけど・・・。」


オレがおいしそうに飲んでいたからか、

ニュシェが興味ありそうな顔で、そう言った。


「ニュシェちゃんは飲まなくてもいいのよ。あれは毒薬だから。」


「おいおい、ウソを教えるな。」


木下が、とんでもないことを教える。

度が過ぎれば体に毒ではあるが、それは酒に限らない。

わが母国の『ソール王国』では、未成年の飲酒は法律で禁止されていたが、

この国の法律ではどうなのだろうか?

それは分からないが、酒に溺れることになっても困るから、

まだニュシェには早いと感じる。


「いつか、いっしょに飲めたらいいな。」


オレは、そう言ってみた。

ニュシェは、少し笑顔でうなづいていた。


「それにしても、シホが飲めないのは意外だったな。」


ふと気になっていたことを、オレは言ってみた。

たしか、昼間、オレが1人で飲んでいても

いっしょに飲もうとしなかったのは、飲めないということだと

勝手に解釈したのだが、シホの真相が気になった。


「お、俺は飲めないわけじゃない。

ただ・・・飲むと記憶を失うんだよ。

酒を見るたびに、昔の失敗を思い出すんだ。」


シホからは簡単に真相が聞けた。苦々しい表情だ。

なるほど、木下と同じく弱いわけだな。

勧めなくて正解だった。


「昔、飲んだ時に、そうなって・・・

気づいたら、姉さんの恋人と裸で寝ててさ。

あれは気まずかったなぁ。」


「ぶはっ!!!」


「きゃっ! おじ様、汚いです!」


シホが聞いてもいない赤裸々な失敗談を話し始めたので、

思わず、酒を吹きだしてしまった!


「がはっ! ごほっ! いや、すまん!

シ、シホ、そこまで聞いてないから言わなくていい!

だいたい・・・子供の前では、話さないでくれ・・・。」


「あぁ・・・すまん。

俺も話すつもりなかったのに、つい・・・。」


シホは苦笑いしている。

ニュシェは、不思議そうな顔をしているが、

説明を求められなくて助かった・・・。


シホは男のような喋り方で、今まで女性扱いされてこなかったため、

てっきり、その手に関しては経験が少ないと思っていたが・・・。

そういえば、素顔は美人だし、誰に対しても親しく話しかけるし、

案外、そういう男女関係になりやすいから、

そっちの経験も多いのかもしれない。

恥ずかしげもなく赤裸々な話をしてしまうあたり、

慣れている感じがする。


ふと、木下を見れば、少し顔が赤い。

やはり、この手の話には

興味こそあれ、慣れていないようだな。


「ここらで、情報収集をしてみたいが、

商人だらけだな、ここは・・・。」


オレたちは食事しながら、周りの客たちの会話を聞いていた。

情報収集のために話しかけてもいいのだが、

客は、どいつもこいつも商人ばかりだ。

いちいち商談の話になるのが、めんどくさい。

シホに頼んでも良さそうだが、あいにく、

シホはオレと同じで頭が良さそうに感じない・・・。

お喋りは得意かもしれないが、商談の話になったら

いつの間にか高価な物を買わされてそうな気がする。


「そうですね・・・商談の話しか聞こえてきませんね。

手の空いた店員か、商人じゃない客に

少し話しかけてきましょうか。」


木下の言う通り、やはり商人たちの会話は、

お金の話ばかりで、あまりいい情報が聞こえてこなかった。

盗み聞きだけで必要な情報を得るのは無理だと判断し、

仕方なく、注文がてら店員に聞いたり、

傭兵っぽい客を見つけて、情報を聞き出すことにした。

主に、木下に任せたが、やはり情報収集は得意らしい。


木下が集めた情報によれば、やはり例の『海獣』のせいで、

定期船による海路は絶望的だそうだ。

例の『海獣』が出没する時間帯は、朝から夕方まで。

つまり陽が昇っている間は、とてもじゃないが船は出せないらしい。

そして、夜になると潮の流れが変わってしまい、

手練れの操舵手であっても、岩礁がんしょう

乗り上げてしまうぐらい危険な海になってしまうとか。

だから、夜に1隻、船が出せるかどうか、

それぐらいの頻度でしか船が出ていないそうだ。

その1隻の船は、すでに予約いっぱいで、

今からでは、とてもじゃないが乗れない。

よほど船じゃないと運べない荷物があるなら予約して待つしかないが、

そうじゃないなら、陸路の馬車で移動したほうが早いわけだ。


しかし、昼間の馬車で聞いた通り、

現在は、移動する客たちが定期の馬車に集中しており、

物流を最優先しているため、積み荷が多い時には

乗せてもらえない場合もあるそうだ。

ゆえに、今はどっちにしても、この国を移動するのに

ものすごく時間がかかってしまうということが分かった・・・。


「加えて、陸路の馬車を狙う、野盗騒ぎ、か・・・。」


どうやら、この国の海では海賊たちがよく出没していたらしい。

それが船が出なくなったため、海賊たちも廃業?したとか。

その海賊たちの残党が、野盗や山賊に転職したのではないか・・・

というのが、この店で飲んでいた傭兵たちの情報と憶測だった。

なるほど、たしかに・・・昼間に出くわした野盗たちは、

戦い慣れている感じだったが、あまり統一性や戦略性のようなものを感じなかった。

陸の上での戦い方を知らなかったということか。


「ごきゅ、んーーー。ふぅ・・・さて、今夜はこんなものかな。」


オレは酒を飲み干して、食事と情報収集を終わらせようと思った。


「あれ、おじ様? さっきから何を飲んでるんですか?」


「え? ・・・あれ?」


木下に言われて気づいたが、オレは酒1杯を・・・

最初に飲み干していたはずだが・・・あれ?


「言われてみれば・・・なんだか飲み過ぎているな。」


自分でも、何を何杯飲んだか、覚えていない。


「え? おじさんは、店員さんに話しかけて

自分でおかわりしてたと思うけど。」


ニュシェが、そんなことを言う。

しまった。つい店員に「同じものを」と注文していた。

・・・オレは、酒を何杯も飲んだことになる。


「私が目を離した隙に・・・。

おじ様、約束を破りましたね。マイナス100点。」


ニュシェの報告を受けて、そんなことを言い出す木下。

なんだか、久々に自分の評価が下がった気がする。


「す、すまん・・・。」


もはや、オレは酒のせいで頭が回りにくくなっていて、

言い訳を考えるのも面倒くさくて、

謝るだけになっていた・・・。




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