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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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うまい話





「スパイだと分かった以上、

この『特命』に、木下秘書を連れて行くことは

難しいと思われます!」


小野寺は、もっともなことを言う。


「そうだな、長旅になるわけだから、

信頼できなければ、お互いに

安心して旅などできないだろう。」


「・・・。」


木下も小野寺も、オレの客観的な意見を黙って聞いている。

2人とも、同じ意見であるということだろう。


「だが、小野寺・・・

ほとんど洗いざらい喋ってしまったスパイに

これ以上の隠し事があると思うか?」


「うぐっ!」


木下が痛いところを突かれて

うつむいた。


「それは・・・そうですが・・・。

寝首をかかれることも十分、有り得ます!」


「木下は、ソール王国と敵対することは無いと言った。

スパイである彼女が、何を言おうと信じられないかもしれないが、

その言葉を信じるならば、木下がオレを殺す利点がない。

オレを殺してしまえば、国同士の争いに発展する可能性がある。

その可能性がある限り、木下はオレを殺すことは無いと

オレは、確信してる。」


「たしかに、そうですが・・・うー。」


小野寺は、それ以上、何も言えなくなった。

会話が途切れたのを見て、

今度は木下が話しかけてくる。


「しかし、私は・・・

佐藤隊長を利用して、祖国に帰還するつもりでいます。」


「あぁ、それでいいんじゃないか。

もともとオレは一人旅の予定だったからな。

女を連れて旅するのは、性に合わない。

ハージェスに着いたら、なんか適当に、

そのまま里帰りしたとかなんとか言って

理由を作って、帰還すればいいんじゃないか?」


「は、はい・・・そう言っていただけると

ありがたいのですが・・・」


木下が歯切れの悪い返事をする。


「まだ、なにか疑問があるのか?」


「・・・。」


小野寺が木下の代弁をするように


「佐藤隊長は、なぜ木下秘書を

そこまで信じているのですか?」


たしかに。

スパイに対して、信じ切っているような

言動にとられているのだろうな。

木下も、思い通りに計画が進みそうで、

逆になにかウラがあるのでは?と

疑っているのだろう。


「いや、はっきり言って、

今までの話だけで、完全に信じ切れるわけじゃない。

それは、木下も同じ気持ちだろう。」


木下がうなづく。


「オレも同じだ。

疑心暗鬼にはなっていないが、半信半疑だ。

スパイの目的が、単なる情報収集だけで

あとは帰還するだけ。敵対したいわけじゃないから

危害を加えるつもりはない・・・。

と言われても、木下がスパイであることに変わりはないし、

お互いに、旅の途中で消息を絶たれても

目撃者がいない限り、いくらでも

事故として見せかけることができる。

スパイなら偽装工作はお手の物だろうし。」


あえて『お互い』という言葉を使ってみた。

やられる側であり、やる側でもある。

いわば、実力や立場は

対等であるということを伝えたかった。

本当の実力差は、まだ分からないが。


「オレを利用するというより、

木下は、帰還するために『特命』を利用する。

オレは、気ままな一人旅が良かったのだが、

そこそこ腕がたつ同伴者がいれば

危険な『特命』の旅から、無事に帰れる確率が高くなる。

木下が王室で言っていた通り、ハージェス公国が持っている

『未開の大地』の情報がすこしでも聞ければ

早く『特命』を果たせる確率も高くなる。

だから、お互いの利害が一致している。」


「しかし・・・!」


小野寺が口を挟もうとしたが、

オレはそのまま話を続けた。


「そう、ただし!

お互いの利害が一致していても、

お互いが協力的な関係でないと

お互いに目的を達成できない!」


すこし声を強めた。

ここが重要なところだからだ。

旅の間、木下が協力的な対応をしてくれるかどうか。

2人旅の成功は、そこにかかっている。


「先に、オレの意志を言わせてもらおう。

木下には、旅のサポート役として、

ハージェス公国までついてきてほしい。

その間、オレは・・・まぁ、要らないかもしれんが

木下の護衛役だと思ってほしい。

そんな感じで、明日、

出発したいのだが、どうだろう?」


「・・・。」


木下は即答しない。

にわかには信じられないような、

『うまい話』に聴こえているんだろう。

木下はしばらく黙っていたが、


「もし、私が断った場合、

どうするおつもりですか?」


木下からは返事ではなく、質問が出てきた。

間髪入れず、小野寺が

オレの代わりに答えようとする。


「そんなことは決まってる!

即刻、その身柄を拘束し、王宮へ・・・!」


「いやいや、待て待て!

はやるな、小野寺!」


慌てて、オレは小野寺をなだめた。


「本日中なら、まだオレが隊長だよな?

オレが決める!」


「そ、そのとおりですが・・・しかし!」


「木下、お前が断った場合は・・・

明日はオレ一人で出発する。

危険な旅だ。信用できない者をつれて旅するなんて

そんなめんどくさくて、疲れるような旅は御免だ。

でも、お前のことは、王宮には突き出さない。

あとは好きにしろ。」


呆気にとられたような表情の木下。

小野寺は、怖い表情になった。


「そんな!佐藤隊長!

こんなスパイを野放しに出来ませんよ!」


今すぐにでも捕まえたいような勢いで話す、小野寺。


「待て、小野寺。よく考えてみろ。

木下がスパイであることは、

現時点で、木下の証言だけで立証されている。

物的証拠は何も無いのだ。

ハージェス公国へ送ったという書状とか

そういう証拠がない限り、王宮で取り調べても

木下がウソをつけば、スパイだと立証できない。」


酔っぱらっていた時なら

まだしも、木下は、酔いが醒めた後でも

素直に話してくれた。

頭のいい木下なら、ウソをつき通そうと思えば、

いくらでもできたはずだ。

・・・多少はウソも混じっているかもしれないが。


「ここでもウソをつこうと思えば、

いくらでも出来ただろうが、木下は

居酒屋で話した通りに、ここでも話してくれた。

オレは、それを木下の誠意として感じている。

その誠意に応じれないのは、不義理に感じる。」


『なんちゃって騎士』ではあるが、

一応、『騎士』として

誠意には誠意で応えたいと思うものだ。


「・・・。」


木下は、ずっと黙って、こちらを観察している。

オレと小野寺の会話を聞きながら、

オレの思惑を探っているように見える。

頭のいいヤツは、疑り深いものだ。

利点だけを聞かされれば、不利な点を探したがる。

そうして、それら材料を天秤にかけ、

それでも利点が上ならば、ようやく納得して

相手の話に乗るのだ。


「とはいえ、木下の自白を

誠意だの義理だの感じているのはオレだけだ。

小野寺は、そう感じていないだろう。

そして、オレがこの場で指揮をとれるのは今日までだ。

・・・あとのことは知らん。

小野寺の好きにするといい。」


「!・・・はい!」


小野寺は理解したようだ。

明日には、木下を捕縛しにかかるだろう。

しかし・・・


「と、言っても、木下もスパイだからな。

あとは帰還するだけらしいし、正体がバレているのに、

いつまでもこの国にいるとは思えん。

今夜中にこの国から出て行ってしまうだろうけどな。」


「あ・・・。」


小野寺は気づいていなかったらしい。

ずいぶん間抜けな声をあげた。

自分の今後の行動を言い当てられた木下は、

ニヤリと笑っている。


「その通りですね。

佐藤隊長の言うことが本当ならば、

今日までは身の安全が保障されているということですから、

今日中にここから立ち去るのが賢明でしょうね。」


「そういうことだ。」


話は、そこで止まった。

しばらく3人の間に沈黙が続く。

木下の返事待ちだ。


部屋の中にいると、外の明るさが分かりづらいが、

一つしかない窓からは、まだ温かい光が射しこんでいて

その光が、すこし傾いてきたように感じる。

そろそろ夕刻になるのだろう。

このまま小野寺を巻き込んで

話を続けていると、ほかの隊員たちに

『異変』を感じさせるかもしれない。

そろそろ、この会話を締めくくらねばなるまい。




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