道具屋で聞き込み
『道具屋』へ入ったまま、シホがなかなか戻ってこない。
目当ての物が見つからないのか、
はたまた、余計なことに巻き込まれていないか、少し心配になる。
辺りに、『質屋』が見つからないし、
『道具屋』ならば、もしかしたら
この『鉄の槍』を買い取ってくれるかもしれないと思い、
シホを呼びに行くついでに、オレだけ店へと入ってみた。
店自体は大きくないが、
店内は、様々な雑貨やアイテムが
ところ狭しと並んでいて、『魔道具』なども売られていた。
「あ、おっさん、すまねぇ!
つい、店主と話し込んじまって。」
シホは、店主の男と楽しく話し込んでいたらしい。
やはり心配無用だったか。
シホは謝っているが、悪びれた素振りはない。
「目当ての物は買えたのか?」
オレはそう聞きながら、店主の前へ進んだ。
「あぁ、買えたよ。」
「お、お客さん、
あんまり、その、長い物を持ち込まれると困るんだが。」
シホがオレの問いに答えている横から、店主に注意される。
オレが、長い荷物を店内まで持ち込んだために、
ほかの商品にぶつけられないか、店主は心配しているようだ。
「おぉ、すまん。
じつは、この武器を売りたいのだが・・・。」
「あー、いや、ここは『道具屋』だから、
武器は取り扱ってないんだ。すまないな。」
店主は、オレの荷物の中身を見ることなく、
あっさりと断ってきた。
やはり、ダメだったか。
さっさと、この重い荷物から解放されたかったのだが。
「それよりも、おっさん!
この先の海に『魔物』が出るらしいぜ!」
「まぁ、そりゃあれだけの広さだから、
『魔物』くらい出るだろうな。」
「いや、ちょっとぐらいの小物の『魔物』じゃないらしいんだよ!」
シホが、やけに興奮気味に話しかけてくる。
どうやら、その情報は
今、知ったばかりで、シホは早く誰かに話したいらしい。
「『伝説の海獣』と呼ばれている『魔物』が
1年前から出るようになっちまってな。」
「あー! 俺が言うつもりだったのにー!」
店主が気を利かせて、先に教えてくれたようだが、
シホが不機嫌な目になった。
「す、すまない! どうせ聞かれると思ったから。」
「俺が話すからいいんだよ!
それで、その『伝説の海獣』がヤバいらしいんだよ!」
とにかく自分が喋りたいシホ。
話によれば、この国は、東と西の陸地の間に、
大きな海峡『ファレナ海峡』があり、その海峡は『南の大海』へと続いているらしい。
人や物を運ぶために、その海峡を渡る船が
定期的に出ていたらしいが、その内の一隻の船が、
1年前に現れた『伝説の海獣』に沈められてしまったようだ。
それ以降、『伝説の海獣』は決まった時間帯に
海峡に現れるようになり、船はそれ以外の決まった時間にしか出せず、
物流がほとんど途絶えているらしい。
ゆえに、1年前からは
東、北、西の陸地を行き来する馬車が
主な物流の流れになっているそうだ。
「え、陸路だと1週間かかるのか?」
「最低でも、それぐらいだ。
今はかなり落ち着いてきているが、
荷物の運搬が最優先だから、荷物のせいで
人を乗せられないっていう場合もある。
そうなると、またそれだけ日数が延びるわけさ。」
「俺が答えるって言ってるのに!」
結局、シホだけでは説明が足りず、
ところどころ店主が補足の説明をしてくれたのに、
シホは、ご不満の様子だ。
「それで、その『伝説の海獣』っていうのは、
討伐できないのか?」
「そんな簡単なやつじゃないんだ。
なにしろ・・・『人魚』だからな。」
「え! 『人魚』なのか!?」
シホも、まだ聞いていなかった情報らしい。
オレよりも先に驚きの声を上げた。
『人魚』・・・たしか、『ドラゴン』と同じくらい
遥か昔から、その存在は語られているが、
教科書や物語の本に出てくるぐらいで、
実際に見たやつは、ほぼいないとされていたのに!
「実在したのか・・・すごいな。」
「実際に見たって証言はあるんだが、
これが、どれも曖昧でな。」
「どういうことだ?」
「襲われた船は、すべて沈没。
乗務員は、みんな帰らないわけだから、
ちゃんとした目撃証言がないんだ。
実際に見たってやつらは、だいたい陸から見て
遠くから目撃したやつらばかりでなぁ。
キレイな女性の姿で、美しい歌声が聴こえていたというやつもいれば、
体長50m超えの巨体だったってやつもいる。
どれもこれも証拠がないから信憑性がないんだよな。」
体長50m・・・船がどれほどの大きさか分からないが、
同じくらい大きい生き物に襲われれば、
簡単に沈んでしまうだろうな・・・恐ろしい。
「それで、『ヒトカリ』に
討伐依頼を出している商人たちもいるが、
討伐できてないんだよ。
そもそもこの国では『伝説の海獣』に手を出すことが、
バチ当たりだって伝承が残っていてな。
この土地の者たちは協力したがらないんだ。」
そう言って、困った顔の店主。
『伝説の海獣』と呼ばれているほどだから、
この土地では、古くから何かしら言い伝えがあるんだろう。
「この国に騎士団はいるんだろ?」
「あぁ、いるけれど、王様が
伝承のほうを信じてしまっていて、
討伐命令が出されていないからなぁ。
騎士団は動かないんだ。
物流が遅延してしまっていて、
とても生活しづらい状況ではあるが・・・
俺も、この土地の者として、あんまり
『伝説の海獣』には手を出してほしくないってのが本音だね。」
オレの問いに答えながら、
土地の者らしい意見が返ってきた。
この店主は、この土地の者だったか。
「伝承ってなんなんだ?
『伝説の海獣』に手を出すと、不幸になるとか?」
「あぁ、不幸になるどころか、国が滅んでしまうって話さ。
その伝承っていうのも、大昔から語り継がれているから、
いろんな伝承に分かれてて、今ではどれが本当の伝承か分からないんだ。
『伝説の海獣』っていうのも、『人魚』が最も有力な伝承だけど、
『シードラゴン』っていう伝承もある。」
「!!! ド、『ドラゴン』だとっ!!!」
まさか、ここに来て『ドラゴン』の話が出るとは思っていなかったため、
つい、前のめりになって驚いてしまった。
『シードラゴン』・・・『海竜』か!
「お、おっさん、興奮しすぎだよ!」
「お、おぉ、すまん・・・。」
気づけば、オレと店主の間にいたシホに密着してしまっていた。
オレは少し距離をとる。
「ま、おっさんは『竜騎士』だからな。
『ドラゴン』って聞けば、穏やかでいられるわけねぇか。」
「へぇ、初めて聞く業種だな。
普通の騎士とは違うのかい?」
「あ、あぁ、まぁ・・・資格だけの
『なんちゃって騎士』なんだ・・・。」
隠しておきたいのに・・・言わないでほしいのだが、
シホには口止めできないか・・・。
オレが、言いづらそうに答えると、
店主の顔が明らかに、興味がなくなった表情になった。
「資格だけの騎士か」と言いたそうな顔だ。
・・・恥ずかしくなる。
「いや、おっさんは、そんじょそこらの
騎士とは格が違うんだぜ!?
おっさんはなぁ!・・・もがっ!」
「や、やめておけ、シホ!」
ここぞとばかりに、
オレの武勇伝を話し始めそうになるシホの口をなんとか片手で抑えた。
話が進まない上に、オレがさらに恥ずかしい思いをする。
「えっと・・・まぁ、それで、
有力な伝承によれば、『伝説の海獣』に手を出せば、
海が荒れて、巨大な津波が起こり、この国を飲み込むらしい。
さらに、その後、この海で魚が獲れなくなるって話だ。」
気まずそうな表情のまま、店主は
この国に伝わる伝承の話を最後まで伝えてくれた。
「それは、また・・・怖いな。」
津波・・・聞いたことはある。
自然災害のひとつで、陸のあらゆる物を海が飲み込んでしまうという現象だったはず。
巨大な津波に襲われれば生き残れるはずもないが、
その後の食生活にも悪影響が出るとは・・・。
たしかに、この土地の者ならば、伝承のほうが怖いだろうな。
「でも、船で移動できれば、
1日で東側の陸まで行けるのに。
やっぱり討伐したほうがいいんじゃないか?」
シホが簡単に、そんなことを言う。
「そんな簡単な話ではないって、
今、聞いたばかりだろうが。」
オレが注意するが、
「いや、だって、おっさんなら楽勝だろ!?
なんてったって『竜騎・・・ふがっ!」
シホは、すぐにオレの話をしたがる。
シホの口を後ろから片手で抑えながら、
「いろいろ教えてくれて、ありがとう!」
「もが!ふが!」
オレは、早口で礼を言い、片手で
シホの口を塞いだまま羽交い絞めにして、店を出る。
買い物は済んでいるのだから、長居は無用だ。
「あぁ・・・毎度あり~。」
背中から、やや疲れたような店主の声が聞こえた。




