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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
254/501

カシズ王国へ





カシャ・・・ガチャ・・・


オレが歩くたびに、肩に担いでいる荷物の中身が金属音を立てている。

2mほどの長い荷物・・・布に巻かれた状態の『鉄の槍』の束だ。

普通の『鉄の槍』ではなく手投げ用の槍だから、

それなりに軽量化されているが、それでも鉄製なのだから、

やはり1本6~8kgぐらいはあるだろう。

それが6本・・・オレの右肩に乗っかっている。

その金属音が、長く続いているトンネル内に響いていた。


「はぁ、はぁ・・・。」


宗教国家『レスカテ』から、東の隣国『カシズ王国』への

関所のトンネルは、かなり長いとは聞いていたが、

まさか、ここまで長いとは思っていなかった。


せいぜい100mほどかと思っていたのに・・・

すでに1kmは歩いている気がする。

どうやら、大きな山の中を通っているらしい。


たびたび、トンネル内で

荷物を積んだ商人たちの馬車とすれ違うことがあったが、

残念ながら、同じ方向へ向かう馬車には会わなかった。

同じ方向の馬車ならば、乗せてもらうこともできたはずだが。


「お! 外の光が見えてきたぜ。出口だ。」


オレの目の前を、元気よく歩くシホが、そう言った。

そんなに元気ならば、オレの荷物を分けて

持たせてやりたいぐらいだが、分けるほうがめんどくさい。

『鉄の槍』6本・・・今は束ねてあるから持ちやすいが、

分けると持ちにくくなりそうだ。


「もう少しだよ、おじさん。がんばってね。」


オレの隣りを歩いているニュシェが、

そう言って、励ましてくれる。

たった一言の、ただの言葉であっても、

こうして応援されると元気が湧いてくるものだ。

ありがたい。


「お、おじ様・・・はぁ、はぁ・・・

が、がんばりましょう・・・。」


「お、お前も、がんばれ・・・はぁ。」


何も荷物を持っていない木下が、オレより歩くのが遅くて、

オレの後ろを歩きながら、気休めにしかならない言葉をかけてくる。

オレの左手には、自分の荷物と木下の荷物を持たされている。

だいたい、こいつの荷物が重すぎて持てないからって、

オレが、こいつの分まで荷物を持っているから、

ものすごく負担になっているというのに・・・。

何も持たずに、歩いているだけで疲れた顔をしているのだから、

なんとも腹立たしく感じる。

こいつは、このパーティーの中で一番体力がないようだな。


「重たい荷物を持っているおっさんは、仕方ないとして・・・

このトンネル、少し勾配があるからだろうな。

歩いているだけの俺たちも、さすがに疲れてきたよな。」


そう言いながらも、シホの息は乱れていない。

たしかに、このトンネルの道は勾配があって、緩やかな上り坂になっているようだ。


「そっか・・・逆だったらよかったのにね。

下り坂だったら・・・。」


ニュシェが、そう言うが、

下り坂は、それはそれで余計な体力を消耗するものだ。

どちらにせよ、疲れる・・・。


「・・・例のヤツ、まだ討伐されてないんだなぁ。」


「あぁ、早く討伐してもらわなきゃ、

ずっと陸路を走って運んでたら、

運賃ばかりかかっちまって商売になりゃしねぇ。

アイテムの値上げをするしかねぇのかなぁ・・・。」


「いっそ流通ルートを変えるって手も・・・。」


「?」


オレたちが進んでいる方向からやってきた商人たちが、

大きな荷物を背負って歩きながら、話している声が聞こえた。

そのまま2人で話しながら、オレたちとすれ違い、

『レスカテ』のほうへと歩いて行った。


「・・・なんか、今の話、気になるなぁ。

例のヤツとか討伐とか・・・。」


シホが、後ろを振り向きながら、そう言った。

オレも気にはなったが・・・

余計なことに首を突っ込みたくない。


「はぁ・・・オレたちには、

関係のない話だろう・・・はぁ、はぁ。」


シホの好奇心が、要らぬところへ向かわないように

それとなく釘を刺しつつ、オレたちは歩いた。


このトンネルに入った時から、トンネルを吹き抜けてくる風に

潮の香りが含まれていたが、その匂いが、

出口に近づくにつれて、どんどん強くなってきている。


「やっと、出口だ!」


オレの先を歩いているシホが嬉しそうな声をあげる。


トンネル内は、等間隔にランプが設置されていたが、

それでもじゅうぶんな明るさだったわけではない。

だから、トンネルの出口付近が、あまりにも眩しくて、

トンネルから出た瞬間に、思わず手で目を覆いたくなった。

両手が荷物で塞がっているオレは、

眩しさから逃れるように顔を横へ背けた。


ヒュウゥゥゥ・・・


ひと際、強い向かい風が吹き、

潮の香りが、オレたちを歓迎する。


『カシズ王国』の西の国境の村『レンダ』。

『フジ山脈』の中腹にある村のようだ。

関所からの大きな道がまっすぐ、緩やかな下り坂になって伸びており、

その両脇に、木造の建物が建ち並んでいる。

道の先は、遥か下のほう・・・深い森へと続いているようだ。

そして、その森の先に・・・


「わぁ~! なに、あれ! すっごく輝いてる!」


「はぁ、はぁ、あれは、海の水平線、ですね・・・はぁ、はぁ。」


森の向こう側に広大な海が広がっている。

その遥か彼方の水平線の輝きを、嬉しそうに見ているニュシェ。

オレは2度目の海だが、ニュシェはおそらく初めて見たのだろう。

シホも初めてではないようだが、目を輝かせて水平線を見ている。


「許可証を拝見する。」


関所の出口、両脇に、この国の騎士らしき男たちが立っていて、

『通行許可証』の提示を求めてきた。

鎧は銀色だが、マントの色は青緑色。

男のオレでも目をひくぐらい、キレイなマントの色だ。

オレたちは、おのおの『ヒトカリ』の『会員証』を提示する。

続いて、軽く荷物を見られたが、問題がなかった。


「ようこそ、『カシズ王国』へ。」


騎士らしき男に、そう言われて、

関所を通過しようとした時に、


「おい、お前たち。」


関所の騎士らしき男に呼び止められた!

ドキっとした!

そんな怪しい素振りはなかったはずだが。

しかし、


「お前たちは、慣れていて気づいてないかもしれないが、

お前たちの服装から『反邪香はんじゃこう』の

ニオイがプンプンする。

悪いことは言わんから、そこの売店で

『臭い消しの粉』を購入することをオススメするぞ。」


そんな取るに足らない忠告を受けただけだった。

とりあえず、ホッとした。

騎士にお辞儀してからオレたちは歩き出した。


「はぁ、はぁ・・・

そういえば、『レスカテ』へ入国した時は

気になっていた『お香』のニオイだが、

いつの間にか、慣れてしまっていたな。」


オレがそう言ったら


「はぁ、はぁ、私も、慣れていましたが・・・

スンスン・・・はぁ、確かに服に

『反邪香』の匂いが染みついてますね。」


木下が、自分の服の袖を掴んで

ニオイを嗅いでいる。


「俺は、いつまでも慣れなかったなぁ。

だから、あの騎士の言う通り、

そこの売店で『臭い消しの粉』を買わせてもらうぜ。」


シホは、そう言って、

関所の騎士が指さした、すぐ近くの『道具屋』へ向かう。


「あー、オレたちの分も頼む。」


「へーい。」


オレたちは、シホに『臭い消しの粉』を任せて、

『道具屋』の前で、荷物を降ろし、みんなで一休みする。


ガシャッ


「はぁ、はぁ・・・はぁぁぁー、つらかったぁ・・・。」


オレは、重たい『鉄の槍』の束を肩から降ろすと

深い溜め息をついた。


「お疲れ様、おじさん。」


そう言って、ニュシェが水筒を

オレに差し出してきた。よく気が利く子だな。

自分の水筒は持っているのだが、

その気遣いを無碍むげにしたくなくて、

オレは、それを受け取り、のどを潤す。


水筒を返すと、今度はニュシェが

その水筒で、のどを潤す。


「あ・・・間接・・・。」


木下が、何かつぶやいて

不機嫌な表情になったようだが、よく聞こえなかった。


ヒュルゥゥゥゥ・・・


気温は、初夏のような暑さを感じる。

この土地の気候がそうなのか。

しかし、そろそろ季節は初夏になる頃だ。

クソ重い荷物を持って、傾斜のある長いトンネルを歩いてきたから、

鎧の中は汗まみれだ。

森のほうから吹き抜けてくる風が心地いい。


「はぁ・・・ここから馬車に乗って、どこへ向かうんだ?」


オレは、息を整えながら

木下にそう話しかけると、木下も息を整えながら

腰の布袋から地図を取り出す。


「はぁ、はぁ、ちょっと待ってくださいね。

えっと・・・今、国境の村『レンダ』ですから・・・はぁ、

ここから、馬車に乗って、港町『ペレンブラ』へ向かいます。」


「港町『ペレンブラ』か・・・。」


いよいよ、その先は船旅か。

年甲斐もなく、少しワクワクする。




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― 新着の感想 ―
[良い点] お、いよいよ再開ですね。 トンネルを出た眩しさ、輝く水平線、思わず目を細めたくなりました。コントラストに眩惑しそうです。 [気になる点] 木下さん、思ったよりポンコツだったw ヤキモチ…
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