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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
253/502

一路平安





何もない草原を抜け、少し鬱蒼うっそうとした林を抜け、

馬車は、少し勾配がある山道らしき道を走り始める。


『シュバリ』の町から、小一時間ほど経っただろうか。

山道の、その先に村が見え始めた。


国境の村『フジノク』。

村の造りはどこもいっしょだが、

ここは山の傾斜があり、それを利用した田畑が広がっている。


馬車は、村の入り口で止まった。

村の中の道が狭いため、定期の大型馬車の出入りもあるので、

一般の自家用馬車は、村の中までは入りづらいようだ。


御者をしていた執事が、荷物を降ろしてくれる。

そして、


「わたくしは、ここで失礼させていただきます。」


オレに荷物を渡しながら、執事がそう言った。


「世話になった、執事殿・・・。

結局は、執事殿の計画通りに事が進んだように感じるが・・・

こうなることは最初から予測済みだったのではないか?」


オレは、荷物を受け取りながら、そう言ってみた。

頭のキレる執事なら、こうなる結果まで

見越していたのではないだろうか、と。

つまり・・・本気でオレとデーアを

くっつけさせるつもりがなかったのではないだろうか。


「それは、買いかぶり過ぎです。

この結果は・・・わたくしが、無い頭で考え、

命を捧げるつもりで動いた結果・・・

もしくは、『オラクルマディス神』様のお導きの結果です。」


「謙虚だな。

命を捧げるつもりが、鼻血程度で済んだわけだな。」


「はははっ、それは佐藤殿が広いお心で、わたくしを許してくれた結果です。

やはり、わたくしの目に狂いはなかったと、

計画が失敗した今でも思っております。」


オレより年上だろうに、やんわりとオレを持ち上げる言葉使い。

最初から最後まで、物腰柔らかく、謙虚な姿勢。

頭の良さをひけらかさない、その意思の強さ。

昨夜のことで迷惑をかけられたが、

それでも、尊敬に値する男だと感じる。


「デーア様の背中を押していただき、ありがとうございました。

佐藤殿たちの旅に、神の配慮があらんことを。」


「ありがとうございます。」


お互いに、深々とお辞儀をして別れた。


「さぁ、関所へ行こう。

すぐそこだが、私が案内する。」


そう言ったデーアのあとに続いて、

オレたちは歩き出した。


村の入り口から、ほんの100mほど歩いたところに関所がある。

近づくにつれて、ほんの少し魔力を感じる時がある。

関所の検問官が『法術』の『サーチ』を使っているのだろう。

関所の造りも、どこも変わらない。

石造りの大きな門のようなトンネルの入り口になっていて、

壁には、『レスカテ』の旗が掲げられているのが、見えている。


そこまでの通りには、あちこちに小さな石像と例の『お香』がある。

この風景も、ここで見納めだ。


「キミたち、お疲れ様。」


「あ、デーア様!」


デーアとともに関所へ近づくと、白い布の服の男たち2人と

騎士の格好をした男たち2人が、慌ててデーアに挨拶している。


「この国を救ってくれた傭兵のパーティーが

隣国『カシズ王国』へ向かうので、私は、その見送りに来ただけだ。

私に構わず、仕事を続けてくれ。」


「は、はい!」


デーアが、そう言うと、

男たちはチラチラとオレたちを見てきた。


「で、では、許可証を見せてください。」


白い布の服を着た男たちが、オレたちに許可証を求めてきた。

オレたちは、おのおのが持ってる『ヒトカリ』の『会員証』を取り出して見せる。


その時、ニュシェが、頭から被っていたフードをはずすと、

少しビクっとした男たち・・・。

今まで常識と思っていた『バンパイア』の姿・・・だもんな。

驚いてしまうのは、仕方ないが、しっかり見てほしい。

ニュシェの、この姿を。

『獣人族』の姿を、しっかり見て、覚えてほしい。


その後、例の『法術・サーチ』を荷物にかけられたが、

それも問題なく終わった。


いよいよ、関所を通るだけとなった。


そこへ、2人の騎士が


「デーア様、デーア様宛てに

『プロペティア』からここへ届けられていた物がありますが・・・。」


そう言って、少し重そうな、

2mほどの長い包みを2人で持ってきた。


「あぁ、そうだった! 忘れるところだった! ありがとう!」


2人の騎士が荷物を慎重に地面へ置くと、

デーアは喜んで、その荷物の片方を持ち上げつつ、


「こ、これ、健一さんのだろ?

『スヴィシェの洞窟』の入り口付近に、落ちていた槍だ。」


「えぇ!?」


2mほどの長さの荷物は、デーア1人では持ち上げきれないようだった。

オレは慌てて、デーアが片方だけ持ち上げた荷物の部分を支えた。

荷物の片方が地面についていても、ズシっとくる重さ・・・。

布に包まれているが、この柄の感触は間違いない・・・

あの『洞窟』の入り口に置きっぱなしにしてきた『鉄の槍』だ。

中身を確認していないが、この分だと

未使用だった槍6本、すべて回収してくれて、

ここへ届けてくれていたようだ。


・・・正直、重くて長くて荷物にしかならないから、

置き忘れたままでよかったのだが・・・。


「あ、ありがとう。」


オレはデーアにお礼を言った。


「本当に世話になったな、キミたち。

特に、健一さん・・・キミには本当に感謝している。

またいつか、この国へ訪れた時には、

その・・・お礼をさせてくれ・・・。」


そう言って、少し恥ずかしそうな表情になるデーア。

・・・いい女の顔だ。


トスッ


「うっ」


オレが、デーアの顔に見とれていたところを、

横にいた木下がオレの脇腹にヒジを入れてきた。

思わず、情けない声が出た。

また油断してしまったな。


「お礼なら、すでにたくさん受けたよ。

その気持ちだけで、もうじゅうぶんだ。

でも、今度ここへ来た時には、またみんなといっしょに

食事が出来たらいいな。」


オレは、そう答えた。


「こちらこそ、お世話になりました、デーアさん。」


木下がお礼を言うと、続いてシホも


「ありがとな、デーアさん。」


そのあとに続いて、ニュシェも・・・


「あ・・・あの、ありがと・・・。」


少し恥ずかしそうにお礼を言っていた。


「あぁ! では、キミたちの旅に神の配慮があらんことを!」


そう言って、デーアは祈りを捧げるような仕草をした。

オレたちは、デーアのその言葉を合図に

デーアに背を向けて、関所のトンネルのほうへと歩き出した。


ガシャ・・・ガチャ・・・


オレの歩行に合わせて、肩に担いだ荷物が小さい音を鳴らす。

重い荷物が増えてしまったが、あまり使えない武器だから

あちらの国で質屋を見つけて、売り払ってしまおう・・・。


ここの国境のトンネルは、少々、長いトンネルだと聞いていた。

10mほどの幅広いトンネルに、ランプが等間隔で設置してあり、

それが、かなり奥まで続いている。

その先にあるであろう、隣国『カシズ王国』を目指して、

オレたちは、長いトンネルを歩いて行った。


『レスカテ』の国中に漂っていた、例の『お香』の香りは、

すでに薄れていて、トンネルの奥から吹き抜けてくる風には

ほんのり潮の香りが含まれていた・・・。






第三章『聖騎士とバンパイア』 完

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― 新着の感想 ―
[良い点] パチパチパチパチ お疲れさまでしたー! やっと無事、出発ですね、感慨深いです(*´▽`*) いろんな出会い、想いがありました。 [気になる点] 最初の十行位で、目の前に景色が広がるよう…
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