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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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気持ちの確認



食事が終わり、デーアと執事の件も

決着がついたところで、


「そのデーアの部屋、見てみたい!」


と、好奇心旺盛なシホが言い出し、女性陣が同意して盛り上がり、

オレは止めたのだが、多勢に無勢・・・

オレの反対を聞かずして、みんなで2階の

デーアの部屋『101』へ行ってみた。


「うっはー! えっろーーーい!」


やたらとテンションが上がってるシホ。

しかし、その態度と言葉からすると、

こういう場所は初めてではないようだ。


「うわっ、うわっ、うわっ!」


「な、な、ななな、なんですか、ここは・・・!」


ニュシェは、よく分からず、

自分たちとは違う部屋を見渡して楽しそうだ。

木下は・・・明らかに、恥ずかしがっている。


「デーアは、今夜、ここで一人で寝るのか?」


ふと、聞いてみたが、


「こ、こんな破廉恥な部屋で眠れるわけがない!

ジェンスに他の部屋を用意させている!」


ちょっと慌てているデーア。

まぁ、こんな部屋では落ち着いて眠れないだろうな。


この部屋は、完全に建物の端。

木下たちの宿泊部屋からは、かなり離されている。

ここで、どんなに声を上げても・・・

だれにも気づかれなかったことだろう。

執事の計算しつくされた罠が怖い・・・。


デーアの言っていた通り、執事が荷物を運び出して、

デーアとともに、別の部屋へ移動を開始する。


「それでは、皆様、

明日は、早朝から朝食を食堂にご用意しておきますので、

お好きな時間に食堂へお越しくださいませ。

それでは、お休みなさいませ。」


執事が、丁寧にそう言った。


「明日は、朝食が済み次第、

キミたちの準備ができたら国境の村へ出発する予定だ。

今日は・・・いろいろ、すまなかった。

ゆっくり寝てくれるといい。おやすみなさい。」


デーアがそう言い残し、執事の後をついて行った。

オレたちも、「おやすみ」を言い合い、

おのおのの部屋へ行き、寝ることにした。




オレは自分の宿泊部屋へ戻り、

シャワー室があったので、そこで汗を流したあと、

ベッドで横になった。


「はぁ・・・とんでもない目に遭ったな。」


溜め息交じりに、独り言をこぼした。


執事の話によれば、オレの席のフォークやスプーンにも

媚薬が塗られていたらしいから、もし、

オレが一口でも食べていれば・・・

デーアではなく、発情した木下に、

欲情して手を出していたかもしれない・・・。

自分たちの意思とは関係なく、薬によって、

そういう気にさせられる・・・。


罠とは恐ろしいものだ・・・。


オレたちが宿舎に泊まることは初めから決まっていたのだろうか?

いったい、いつから・・・いや、きっと

オレたちが馬車へ乗るまで、執事には何も知らされていなかったはずだ。

それに、執事は「婿は誰でもいいわけじゃない」と言っていた。

ならば、馬車内のオレたちの会話を聞いてから、

この計画を立てていたということになる・・・。

あの部屋の内装も、オレたちが『ヒトカリ』へ行っている間に

用意していたとなれば・・・本当に、すごい策士だと思う。

本物の天才は、偶然の成り行きでさえも、

自分の策に取り入れて、自分の思い通りに事を運ぶと聞くが、

まさに、天才の領域だ。


執事が、敵でなくて本当によかった。

旅をしている間は、いつ強盗や山賊などに襲われるか分からない。

執事のように、狡猾な罠を仕掛けてくるやつもいるだろう。

女性を連れているとなると、女性が誘拐される危険性もじゅうぶんある。

今回は、油断し過ぎていたオレたちにも問題があったな。


オレは、荷物から一枚の写真を取り出し、

それを天に掲げるようにして、見つめた。


「・・・。」


『ソール王国』を出発する前に荷物へ入れておいた、

若かりし頃の自分と、女房と、子供たちの・・・『家族写真』。


あいつら、元気にしてるだろうか?

女房は・・・『離婚届』を、

まだ保留にしてくれているだろうか?


「結婚は、本人同士の気持ちひとつ・・・。」


デーアに偉そうに語っていたオレだが、

その結婚をしているオレは、

女房と気持ちをひとつにしているだろうか?


・・・いや、バラバラだな。

今のオレたちは、今、こうして離れている距離と同じくらい、

気持ちも遠く離れている気がする。


この写真のように、

もういっしょに笑うことが出来ないのか?


「!」


コンコンッ


ドアの外に気配が近づき、ノックされた。


「私です。」


「! ユンムか?」


来訪者は木下だった。

食堂でのこともあり、あまり2人きりになるのは

どうかと思ったが、ドアを開けて部屋へ招き入れてみると、

木下は、ひどく落ち込んでいる様子だった。


「どうした? まだ気分が優れないとか?」


薬を盛られたあと、すぐに効果はなくなって、

その後の食事でも、元気そうに食べていたが、

薬の効果が、完全に切れたかどうかは本人にしか分からない。


「いえ、もうすっかり体のほうは大丈夫なのですが・・・。」


なにか言いづらそうな木下。

こうして、2人だけで話すということは・・・

木下の『スパイ』活動に関する話だろうか?


「その・・・今回は迂闊でした。

まさか、執事の方が、こんなことをするとは思ってなくて・・・。

いつもなら警戒して、みんなが食べ始めるまでは

自分が食べることはなかったのに・・・。」


木下の口調からして、どうやら

今回の食堂での件で『スパイ』としての失態を

反省しているようだ。


「そういえば、お前は、いつも

オレが食べてから、食事をしていたな。」


「はい・・・。」


思い返せば、パーティーの仲間が増える前、

木下は、オレが食べ始めるまで、自分は食べなかった。

自分から食べ始めたことがなかった。

それは、つねに警戒して、オレに毒見役をさせていたからだ。


「今回は、オレもうっかりしていた。

お互い、油断していたなぁ・・・。」


さっきまで一人で反省していたところだが、

反省している木下を見ていると、

自分もまた改めて反省しなくては、と思う。


「はい・・・国の宿舎というだけで

信頼しきってしまいました・・・。

私が、しっかりしなければと思っていたのに・・・

みんなを危険な目に遭わせてしまい、申し訳ないです。」


こいつは、マジメなやつだな。


「それは、本来、パーティーのリーダーである

オレがしっかりしなければならなかったところだ。

ユンムが、そう気に病む必要はないだろう。」


「いえ、おじ様がしっかりしていないのは

普段から見れば、分かり切っていたことですから。

ここは、やはり、裏のリーダーである私が

しっかりしていなければならなかったわけです・・・。

今は、すごく反省しております。」


んん?

なんだ、その『裏のリーダー』って!?

今、それとなく失礼なことを言われている気がするが?


「おじ様は、あまり経験がないと思いますが、

国の重臣であっても、悪だくみする者はいます。

私は、昔から、どんな食事会であっても、

みんなが食事を始めてから5分か10分は、何も口にしないようにと

お母様から教わっていました。

気づいた時には、奴隷として売り飛ばされる場合もあると、

いつも聞かされていたのですが・・・。」


「そ、そうなのか!?」


そんなことを娘に教育する母親もどうかと思うが・・・。

あぁ、しかし、木下の母親は『スパイ養成学校』の校長だったか。

親父が大臣で、国の重臣たちとの食事会も

木下にとっては、よくあることだったのだろう。

幼い頃から、汚い大人がいることを教えられるとは・・・

お金持ちの子供は、なかなか不憫だな。


それに、国の重臣たる者が、

そんな悪だくみをするようでは、

その国は終わっているな・・・。

それとも・・・オレが知らないだけで、国の中枢にいる者の中では、

そういうことが日常茶飯事だったりするのだろうか・・・。


「私は・・・やっぱりダメですね。

最近は、特に、おじ様に頼りっきりで・・・。

気が抜けていたと反省しております。」


「いや、頼ってくれることは嬉しいことだがな。

オレも、だいぶ気が抜けていたと反省していたところだ。

そういう危険も、世の中にはあるということだな。

教えてくれて、ありがとう。」


お互い、ここまでの旅で、

少しずつ信頼関係が築き上げられてきたと感じるが、

「信頼する」のと「気を抜く」のは違うものだ。

今回の執事の件は、本当にこれだけで済んでよかった。


「お互い、命を預けあうくらい信頼できたかどうかは、

まだ分からないが・・・そう思い合えるように、

オレも気を引き締めて、今後、気を付けることにする。

今回は・・・すまなかった・・・。

お前たちを、危険な目に遭わせてしまって・・・。」


オレは、素直に謝った。


「いえ、私のほうこそ、頼り切って、

気が抜けていたと反省しているので・・・。

それよりも、その・・・。」


そこまで、落ち込んだ表情で話していた木下が、

急に、モジモジし始めた?


「なんだ?」


「あの・・・そのぉ・・・私・・・

媚薬を盛られていたんですよね・・・?」


少し顔を赤らめる木下。

食堂で見た、発情した状態の木下を思い出してしまう。

今、この2人きりの状況で、そういう顔をされると困るのだが。


「そ、そうだな・・・。

自分でも覚えているんだろ?」


「えっと・・・はい・・・そのぉ・・・

私のほうから、おじ様に迫ってしまって・・・。」


「あぁ・・・しかし、あの状況は、

薬のせいだから、仕方ないじゃないか。」


「え、えぇ、そうなんですけど・・・。」


なんだろう? ものすごく言いづらいことなのか?

「迫ってしまってごめんなさい」って話ではないのか?


「その、私から迫って・・・

おじ様はイヤじゃなかったかな?と・・・。」


「え、・・・イヤとか、そういう話じゃないからな。

あの状況では・・・。」


食事中に、みんなの様子がおかしくなっていく状況下で、

薬でおかしくなった木下に迫られて、

イヤとか、そういう感情にはならないものだ。


「・・・イヤではなかったんですよね?」


なんで、そこをしつこく聞くんだ、こいつは・・・。


「いや、だから、イヤとかそういう感情は・・・。」


「・・・では、なぜ・・・おじ様は、私を抱かなかったのでしょうか?」






「・・・・・・はい?」




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― 新着の感想 ―
[良い点] はい?でブフッとなりました(^ ^)*\(^o^)/* [一言] ちょっと木下さんのデレが予想より早かったw 使われないお部屋がかわいそう… 女性陣だけで女子会やればいいのに(あんな部屋…
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