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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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鼻血降りて地固まる



「も、申し訳、ありませんでした・・・。」


デーアに顔面を殴られた執事は、

鼻が大きく腫れており、鼻血を止めるために、

鼻を白い布で巻いている。

その白い布も、血が染み込んで中央に赤い斑点が出来上がっている。


聖騎士の正拳・・・かなり痛そうだ・・・。

執事の実力ならば、避けることも容易かったはずだが、

それを、あえて受けたのだから、すごい根性だ。

鼻の骨が骨折していないところをみると、

デーアも、本気で怒りながら手加減はしていたのかもしれない。


みんなは、オレと執事の会話を途中から少しだけ聞いていたようだが、

改めて、執事には今回の策略の内容と、その目的を、

洗いざらい話してもらった。


執事の計画では、オレとデーアが媚薬によって発情し、

抱き合い始めた頃に、他の女性たちが起きるように

仕組まれていたらしい。

そうして、目撃者を作ることで、

既成事実を成立させたかったようだ。


だから、フォークやスプーンに塗られた薬は

すごい即効性があったが、体に長く残るほどの

強力な薬ではなかったようだ。

それを聞いて安心した。


「うちの執事が、とんでもないことをして、

誠に、申し訳なかった・・・。

なんとお詫びしたらよいか・・・。」


デーアが、何度も頭を下げている。


「デーアさんのせいじゃないですから、

気にしないでください。」


木下が、そう言うが、

なんとなく、まだ顔が赤い気がする。


「それにしても、執事さん、すごく頭がいい人なんだな。

こんな作戦を1人で考えて、実行できるなんて。

今回使われた薬が、もし・・・毒だったら、

俺たちのパーティーは、おっさんを残して全滅してたな。」


シホは、まじめな顔で、そう言った。

まさしく、その通りだった。

一国の関係者だからと気を許していたとはいえ、オレたちは旅の途中だ。

こうして、いつ誰に命や金品を狙われるか分からないのに・・・迂闊だった。


「うーん、ニオイが分からなかった・・・。」


ニュシェが、困り顔で

スプーンを手に取って、ニオイを嗅いでいるが、

薬のニオイがしないようだ。


「すでに、舐めてしまったからでしょう。

普通は、料理に薬を混ぜることもあるようですが、

そうすると薬の分量の調整が難しくなりますし、

食材と薬の混ざったニオイでバレる可能性がございます。

しかし、フォークやスプーンは、口に入れるまで

ニオイを嗅がれる心配がないので、成功しやすいのです。」


執事が自分の鼻を抑えながら、そう言った。

たしかに、食べる前に料理のニオイを嗅ぐ奴はいるが、

フォークやスプーンのニオイを嗅ぐ奴なんていないからな。


「ジェンス、何を語っているんだ! 恥を知れ!」


「うぅ、申し訳ございません・・・。」


デーアに叱られて、執事は縮こまった。


ギュルルルル・・・


「!!」


「すまん、こんな時に悪いが、オレだけ何も食べてないのでな。

食事、させてくれないか?」


こんな状況で、腹が鳴ってしまって

とても恥ずかしかったが、


「は、はい! 只今、新しい料理をお持ちいたします!」


執事は、即座に行動に移った。

この場のピリピリしていた空気も、少し和んだ気がした。

オレたちは、とりあえず食事を再開することにした。




新しい料理が並び、みんなも食事を再開した。

ピリピリと怒っていたデーアだったが、

オレたちが怒っていない状態を見て、

食事で腹も満たされ、少しずつ怒気が消えていった。


「ご馳走様。」


オレも、料理を堪能して満腹になった。


「お粗末様でした。」


「時に、執事殿・・・。

執事殿は、これから、どう動くのだ?」


「!」


オレは、食事したことで、ひと段落した件を再開した。

さっきまでは、オレと2人で話し合っていたが、

この執事の問題は、デーアが中心なのだ。

やはり、最後は、デーアと執事、

この2人で話し合わなければ、決着がつかないだろう。


「わたくしは・・・。」


「私は、今後、ジェンスをそばに置いておくことはできない。」


「!?」


執事が答える前に、デーアが、そう言い切った。


「こんなことを仕出かす執事を、もう、そばに置いておけない。」


「・・・左様でございますか。」


冷たく言い放ったデーアの言葉に、

執事は、寂しそうに返事をする。


「・・・そうなると・・・

私を守ってくれる者がいなくなるからな。

これから私は、護衛役の騎士たちを連れて行く。

それに、この国を立て直すには、

ほかの聖騎士たちとの連携も必要だ。」


「!!」


デーアが、執事を見ずにそう言った。

執事には、そのデーアの言葉が意外だったのだろう。

目を見開いて、デーアを見ている。


つまり、デーアは単独行動をやめると言っているのだ。

これからは、他の騎士団や聖騎士たちと

行動をともにするということだ。


それが・・・執事の願っている『婿探し』とは

また違うかもしれないが、少なくとも、

これまで異性に近づくことがなかったデーアから見れば、

それは、大きな変化と言えるだろう。


「・・・今まで、お世話になりました。」


執事が、深々と頭を下げたが


「・・・世話になったのは、私のほうだ。

それに、まだ今年中は、執事でいてくれるのだろう?

これからは、わが家で執事を務めてもらうからな。」


「!・・・はい!」


少し嬉しそうな声の執事。

執事は、もう辞めさせられるつもりだったのだろうが、

デーアのほうは、そのつもりがないようだ。

一番近くでデーアを見守る役目は免除されたが、

これからも、デーアに関わっていくことは許されたようだ。


「・・・仲直り、と見て、いいのかな?」


オレがそう言ったら、


「・・・そうだ。」


と、少し恥ずかしそうにデーアが言った。

マジメで純粋なデーアだが、

近しい者には、なかなか素直になれないようだ。





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