ニュシェの傭兵登録
この町『シュバリ』の『ヒトカリ』も、
ほかの町と同じく、案内の看板はなくて、
そこそこ大きな建物のわりには、
ぜんぜん目立たない場所に建っていた。
いわゆる、裏路地みたいな場所。
ここでも、やはり、この国から抑圧されているのだろう。
中は、大勢の傭兵たちで賑わっていた。
『依頼掲示板』には、ほとんど依頼書が張られておらず、
傭兵たちは、二つある窓口に並んでいて、大行列になっていた。
よく見ると並んでいる傭兵たちの手には依頼書が・・・
ちょうど依頼達成の報告のために並んでいる行列なのだろう。
そんな中、オレたちは依頼書も持たずに、列に並んだ。
やたらと、みんなにジロジロ見られている?
「いやぁ、俺たちもすっかり有名人だな。」
と、シホが言ったが、
どうやら、そうではないようだ。
「聖騎士デーア様だ。」
「なんて美しい・・・。」
「あいつら、なんでデーア様と・・・。」
よくよく考えれば、今のオレたちは
聖騎士デーアに付き添われていたのだった。
「なんだか、ここまで付き合わせてしまって悪いな。」
オレが、そう言ったが
「ぜんぜん気にすることはないよ。
私が、興味本位で勝手についてきただけだから。」
デーアは周りをキョロキョロして、そう答えた。
おそらく、ここの『ヒトカリ』の中へ
入るのは初めてなのだろう。
オレたちの番になり、窓口の女性に事情を説明したら、
オレたちが傭兵の登録をした時と同じく、
ニュシェに、『登録書』1枚と、
小冊子と同じくらいの厚みがある『契約書』を渡された。
当然、ニュシェもたくさんの文字を読むのは苦手なようで、
『契約書』の内容確認を省き、
さっさと『登録書』に自分の名前をサインしていた。
登録料を木下が支払い、窓口の女性から
ニュシェへ『会員証』が支給された。
「これで晴れて、傭兵の仲間入りだな、ニュシェ。」
オレが、そう言うと
「えへへ・・・。」
ニュシェは照れながら、もらったばかりの『会員証』を何度も見ていた。
あまり騒ぎにならないように、ニュシェには
頭からフードを被ってもらって、獣の耳を隠してもらっているが、
その耳がピクピク動いているのが分かる。
嬉しそうだ。
「続いて、ニュシェちゃんを
私たちのパーティーに加入していることを
申請したいのですが・・・。」
木下が、そう窓口の女性に告げると
「現在、請け負っている依頼はありますか?」
と、窓口の女性から逆に質問された。
「いえ、今は請け負っていません。」
「でしたら、パーティー加入の申請は、
新たな依頼を請け負う際に、必要な書類に記入していただければ
けっこうですよ。」
窓口の女性の説明を聞いて、オレたちは納得した。
なるほど、『サセルドッテ』の依頼の時は、
請け負っている途中で、シホが加入してきたから
申請が必要だったのだな。
時刻は夕暮れだったし、『依頼掲示板』にも
ほとんど依頼が残っていなかったため、
今回は、ニュシェの傭兵登録だけ済ませて、
オレたちは、『ヒトカリ』を後にした。
オレたちがパーティー名を明かさなければ、
どうやら、オレたちのことは
みんなに分からないらしい。
窓口の女性の対応や、
その他の傭兵たちの態度を見ていたら、そう感じた。
『プロペティア』では、あちこちでみんなに見られたし、
シホがウワサを広めていたから、町中のみんなに
知られていた感じだったが、町が違えば、
そんなに注目を浴びることはないようだ。
「私たちの容姿までは、ウワサになっていないようですね。」
『ヒトカリ』を出たから、木下が、そう言った。
オレと同じことを感じていたらしい。
「そうみたいだな。
俺たちの注目度も、まだまだかぁ。」
シホが残念そうな感じで言った。
こいつ、有名になりたいのか。
シホの場合は、注目を浴びることが好きらしいな。
オレたちの旅は、目立っては困るのだが。
「そうだろうか?
みんな、私たちのことを見ていた気がするが?」
デーアが、そんなことを言ったので
「みんなは、オレたちじゃなく、
デーアを見ていたんだよ。
この国の聖騎士だから目立つんだろうな。」
オレがそう説明した。
「そ、そうだったのか。
目立ってしまって申し訳ない・・・。」
デーアは、急に恥ずかしくなったようで、
顔を少し赤らめた。
あまり目立ちたくない性格なのか。
シホとは正反対だな。
「では、すまないが、一晩、世話になる。
この国の宿舎へ案内してもらえるか?」
オレは、そうデーアに促した。
「あぁ、そうだな。では、ついてきてくれ。」
デーアは気を取り直して、オレたちより
一歩前を歩き出した。




