表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
240/502

執事の杞憂



馬車内で、女性たちが、

ひとしきり泣いた後、木下が腰の布袋から

小さな化粧品を取り出して、女性たちで化粧をし始めた。

いや、化粧は、元々していたのか?

だから化粧直しといったところか。

ニュシェだけは、化粧に慣れていないようで、

さっそく女性3人が、ニュシェへ化粧の仕方を教え始めた。


「うすいピンクが似合うね、ニュシェは。」


「そ、そうかな。」


「あ、そんなに付けたらダメですからね。

化粧のニオイをプンプンさせたら、安全に旅ができないって

おじ様に口うるさく言われているので。」


口うるさいは、余計だ。


木下には、旅の最初から

化粧をするなとは言わないが、ニオイはさせるなと

きつく言ってある。特に香水は使用禁止にさせた。

危険を伴う旅において、ニオイに敏感な敵を

おびき寄せてしまうことになりかねないからだ。


さっきまで泣いていたのがウソのように、

楽しそうに話し合い、化粧をしている女性たち。

この気持ちの切り替えの良さは、

女性ならでは、といったところか・・・。


その化粧をしている女性たちを、

ジロジロ見るのは失礼にあたると思い、

オレは、ずっと窓から、流れていく風景を見ていた。




日が傾き、夕暮れとなった時間に、

オレたちが乗った馬車は、

この国の東の町『シュバリ』へ到着した。


町の入り口から、この町の中央に位置する場所に

教会があるらしく、そちらへ向けて、

町の中の大通りを馬車は走っていく。


町の造りは、今まで見てきた町と変わらない。

ただ、長く滞在していた町『プロペティア』と違い、

ここでは魔獣の襲来が、そこまで無いのだろう。

壊された建物や道は、どこにもなさそうだ。


「ここは、どの聖騎士の管轄とか決まっているのか?」


少し興味本位で、デーアにそう聞いてみたが


「決まっていないよ。

ここに限らず、本来は、聖騎士の管轄の町などは

特別に決まってないんだ。

私たちは、中央の町『オラクルマディス』近辺に住んでいて、

大司教様のご指示で、国中の町や村へ出向くんだ。」


「そうなのか。しかし、『プロペティア』は?」


『プロペティア』には、聖騎士ディーオが

ずっと滞在して、仕切っていたようだったが。


「あぁ、『プロペティア』だけが、ここ数年の間、

魔獣の襲撃がひどかったから、聖騎士ディーオが

自ら志願して、ずっと守ってくれていたんだよ。

んー、でも、たしかに、その前も・・・

ディーオのお父さんがあの町に滞在していたようだな。

その理由は、私には聞かされていないが。」


デーアが、少し首を傾げたが


「あぁ、分かった。ありがとう。」


オレは、すぐにお礼を言って、

この話を終わらせた。

あの町には、宿屋『エグザイル』があったから・・・

『洞窟』の魔獣からの襲撃よりも前から、

宿屋の店主と関係があったディーオの親父さんが、

宿屋がある町を、守っていたのだろう。

魔獣からだけじゃなく、聖騎士たちから、

守り続けていたのだろうな。




ほどなくして、どこの町でも見かけた

見覚えのある建物が見えてきた。

白い外壁で、高い位置に鐘が設置してある、教会だ。

馬車は、そこで止まった。

ここから『ヒトカリ』までは歩くらしい。


オレが馬車から荷物を降ろそうとしていると、

御者である執事の男が、オレを呼びとめた。


「失礼ながら、馬車内でのお嬢様と貴殿の会話は、

すべて聞こえておりました。」


白髪の頭を下げながら、執事がそう言った。

デーアだけに言った言葉だったので、

木下たちに聞かれたのと同じくらい、なんとも恥ずかしい・・・。


「あ、いや、こちらこそ・・・

この国の聖騎士殿への余計な発言だった。

年寄りの老婆心から出た言葉なので、

どうか気を悪くしないでくれたらいいが・・・。」


実際、この国は他国の者に対して

あまり歓迎していないようなので、

そんな他国から来たオレが、デーアに

余計な言葉をかけること自体、良く思わない者もいるだろう。


「いえいえ・・・失意の中のお嬢様に、

わたくしも、どう、お声をかければよいかと

思案していたところでした。

佐藤殿の言葉に、お嬢様は勇気と希望を見出したのだと感じます。

本当に、ありがとうございます。」


そう言って、執事は、また頭を下げた。

オレの言葉を、良いように受け取ってくれているようだ。

少しホッとした。

そして、この執事も、

デーアの幸せを心底願っている者だと感じた。

やはり、デーアは幸せ者だな。


「ところで、失礼ですが、貴殿は

ご結婚されていらっしゃいますか?」


「え? まぁ、一応・・・。」


突然、前触れもなく、執事に

そんな質問をされたので、オレは驚きながら答えた。

「一応」という言葉が、つい出てしまったのは・・・

旅立つ前に、女房に渡した『離婚届』が、

提出されていないかどうか分からないからだ。


「そ、そうでしたか・・・。

余計なことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした。

ご無礼をお許しください。

お嬢様は、まだ独身でいらっしゃるので・・・

どうしたものかと・・・。」


また頭を下げながら、執事は、そう言った。

どことなく、元気がなくなった気がしたが・・・

というか、何気に変なことを言われている気がする。


「いや、あのー、オレが結婚してなかったとしても、

こんな年寄りでは、あいつと・・・

いや、聖騎士殿と歳が離れすぎているし、

とんでもなく不釣り合いだと思うのだが・・・。」


執事なりの老婆心なのだろうが、

オレをデーアの結婚相手として見るのは、

いかがなものかと思う。

それほど、切羽詰まっているのだろうか?


「佐藤殿のお国では、そうなのかもしれませんが、

この国では、歳の差がある者たちの結婚は、

そんなに珍しいことではありませんし、

わたくしは、結婚に年齢差など関係ないと思っております。

お嬢様は、何と言いますか・・・奥手な方でして・・・。

わたくしがお嬢様に仕えさせてもらって以来、

この馬車に、大司教様以外の男性を乗せたのは、

貴殿が初めてだったので、つい・・・。」


よく分からないが、デーアが異性と行動をすることが

かなり珍しいらしい。

だからって・・・。


「あー・・・まぁ、執事殿の心配する気持ちは分かるが、

聖騎士殿は、もう立派な大人の女性であるから・・・

周りが気を回さずとも、そのうち良いご縁に巡り合うと思うが。」


「・・・そう言って、婚期を逃す女性を、よく見てきたもので・・・。

特に、お嬢様は、この国『レスカテ』の大事な跡取りを

本気で探さねばならないのに、

ご本人は、まったくその自覚がないようでして・・・。」


そうか・・・デーアは一人っ子なのか。

嫁に行くのではなく、婿を迎え入れなければならないのか。

それはそれで、結婚の条件が厳しそうだな。

宗教について理解ある男じゃないとダメそうだ。

そうならば、信徒の中から探したほうが早い気がするが・・・。


「こんなことを、貴殿に話してしまって

重ね重ね、申し訳ありませんでした。」


そう言って、執事はオレから離れていった。

執事の年齢は分からないが、デーアのことは

娘か孫のように、大切に思っているのだろうな。


「大きな荷物は、宿舎に運ばせるから、

必要な荷物だけおろせばいいと思うよ。」


女性陣に混ざっているデーアが、

オレにそう言ってきた。


「宿舎? あー、そういえば、

まだオレたちは、今夜泊まる宿屋を探してないんだが・・・。」


オレが、そう答えると、


「ここから、そう離れていない場所に、

わが国の宿舎があるんだ。

そこは、私が客人を招いたときに利用する宿舎で、

ぜひ、キミたちに使ってほしい。」


デーアは、そう言ったが・・・

客人というのは、他国の要人などが

利用する国の宿舎なのではないだろうか?


「いや、そんなわけには・・・。」


「ぜひ、泊まりたいです!」


「おぉ、なんかすごそう!」


オレが返事をするよりも早く、

デーアの言葉に女性陣が盛り上がって

返事をしてしまった。


「いや、馬車で運んでもらっただけでも

じゅうぶんだから、これ以上は・・・。」


オレが、そう言っている間に、


「ありがとう、デーアさん。」


ニュシェが丁寧にお辞儀してしまったので・・・


「あー・・・よろしく頼む・・・。」


オレは、そう言うしかなくなってしまった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 聖騎士に良い相手いなさそう、なれば竜騎士どうかな? 佐藤氏の同僚に、いたハズw 身分、文化、宗教、違いすぎるか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ