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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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スパイとおっさん






「・・・っは!?」


木下が眠ってから1時間くらい経った頃、

木下が、とつぜん、ムクっと起き出した。

上半身を起こすだけの動作だが、

なかなかの素早さだ。

スパイというだけあって

身体能力もなかなかあるかもしれない。


「おっ、起きたか。身体の調子はどうだ?

頭は痛くないか?気持ち悪かったりしないか?」


木下と目が合ったので、とりあえず

体調の具合を尋ねてみた。


「えぇ・・・まぁ・・・。」


木下は、歯切れの悪い返事をする。

作り笑顔をとりつくろうとしているが、

かなりぎこちない。

体調が本調子ではないのか、

それとも、今の現状に至るまでを思い出せないのか。


「いたっ・・・!」


「大丈夫か?頭が痛いのか?

それとも手錠がきつすぎたか?」


木下が頭を触ろうとして手を動かした時、

ジャラララ!という金属音が、この薄暗い部屋に響いた。


「えっ?手錠!?」


オレの言葉で気づいたのか、手を動かして気づいたのか、

木下は、自分の手首に、鎖で繋がっている

手錠がかけられていることに気づいた。


「こ、これは!これは、なんのマネですか!?

ここは、いったい・・・くっ!!」


うろたえながらも、また自分の頭を触ろうとする木下。

どうやら、手首ではなく頭が痛いらしい。

いつもの笑顔が作れないようで、

苦悶の表情になっている。


「オレを信じて、聞いてほしい。

ここは、ソール王国の城門にある特別審査室だ。

わけがあって、眠っているお前をここへ運んできた。」


木下が眠ってから、オレは木下を担いで城門まで歩いた。

街の人たちの視線が、ものすごく痛々しかったが、

オレが騎士の鎧を着ているので、特別に怪しむ人はいなかった。

城門に着いてから、部下たちに

王室での『説明会』の顛末を話してから、


「打ち合わせしながら食事をしていたら

木下秘書の気分が悪くなってしまったので、

ここで休ませてほしい。」


と説明して、この部屋に入った。

この部屋は、城門のすぐそばに設置されている部屋で、

不審物を持ちこんだ通行人を、この部屋で取り調べるための部屋だ。

あんまり不審物を持ち込む人物がいなかったため、

部屋の半分ぐらいが、要らない物を放り込んでおく物置と化している。

仮眠室へ運ぶことも考えていたが、

今は、木下から目を離すことが出来ない。

ベッドがある部屋で、木下が目覚めるまで

2人きりで籠っていたら、他の隊員にどう思われるやら。


この部屋へ入ったときに、

小野寺にだけ、木下との食事中の会話を話した。

真面目な小野寺は、最初


「正式に捕縛して拷問にかけるべきです!」


と言い出したが、オレの説得に応じて

捕縛だけで許してもらった。

拷問をかけるも何も、酔っている間に

ほぼすべて話してくれたのだから、

酔っていない時に拷問したら、何も情報を得られないだけじゃなく

舌を噛み切って、自害してしまう恐れがある。


まだ王宮へは報告していない。

だから、オレと小野寺だけが

木下の素性を知っていることになる。

口が軽い金山君は、ほかの部下たちに話した内容だけを

王宮の関係者たちに話してしまうだろう。


小野寺には、木下が初めてここへ来た頃の

『通行許可帳』を調べてもらっている。

その帳面には、今まで城門を通った人たちの名前、

許可証などの内容が載っている。

木下と同じスパイが

ほかにも潜伏していないか、

木下からの情報を、連絡係の誰かが

国外へ持ち出していないか・・・。

帳面だけでそれらを完璧に見つけることは不可能だが、

異常に何度もこの城門を通っている者や

定期的にここを通っている者がいれば

とりあえず容疑者としてチェックできる。


「どうして、このようなことを!!」


木下がすこし怒りを含む声を出す。

もしかしたら、食事中の記憶が無いのかもしれない。


「木下、お前、

オレと昼飯を食べていた時のこと、覚えているか?」


「それとこれがどういう・・・あっ!」


木下が、何かを思い出したかのような表情になった。

そして、うつむき、黙り込んでしまった。


「どうやら、覚えているようだな。

オレとどんな会話をしたのか・・・。」


木下が、顔をあげて


「私は、これからどうなるのですか?」


と尋ねてきた。

若干、絶望しているような表情だ。

スパイの末路は、だいたい

拷問の末に処刑されるものだ。

木下は、それを知っているのだろう。


「安心しろ、取って食うわけじゃない。

お前を故郷へ帰してやる。」


「えっ!?」


木下が信じられないという表情になる。


「ただし、条件がある。

なぁに、そんなに難しい条件ではない。

お前が、本当のことを話してくれれば、それでいい。

オレのことを信じて、食事中に話したことを

もう一度、確認させてくれたら、

お前の策略にのってやる。」


「・・・そう言って、私を油断させて

洗いざらい吐かせるつもりですか?」


木下が、今まで見たことない、厳しい表情を見せる。

疑っているな。まぁ、無理もない。


「洗いざらい吐かすも何も、お前は

すでにすべて話してくれただろ?」


「っく!」


悔しそうな、それでいて後悔しているような表情の木下。

オレが、ずっと表情を観察しているのは、

木下が、舌を噛み切らないかを警戒しているのだ。

主への忠誠心が高いほど、そしてマジメなヤツほど、

敵の言いなりにはならないものだ。


「もう一度、言う。

オレを信じてくれ。」


「この状況で、あなたを信じることはできませんよ。」


木下は、そう答えながら、

手錠にかけられた手を、すこし上げた。

ジャランっと金属音がする。


「そうだよな、それはすまないと思っている。

それは、酔いが醒めたあと、お前が

どういう行動に出るか分からないから、

自分の身を守るために、そうさせてもらった。

じつは、オレ自身も、まだお前を完全に信じていない。

まだ半信半疑というところなんだ。」


相手に信じてもらうには、オレ自身も同様に

嘘、偽りなく、本音を話さねばならない。


「だって、そうだろう?

どこの世界に、酔っぱらっただけで

すべて暴露しちゃうスパイがいるんだ?」


あえて、オレは、茶化す口調で話す。


「くぅーーーー!」


木下が悔しそうな声をあげながら、

顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。

効果があったようだ。

恥じらってる顔もかわいいものだな。


「酒、初めてだったんだな。

断ってくれてもよかったんだが。」


「・・・あなたが強引すぎたんですよ。」


「あー・・・それは、すまなかった。

そこまでゴリ押ししたつもりはなかったんだが、

酒のチカラを借りねば、頭のいいお前と

本音の話し合いができないと思っていたのでな。」


「・・・。」


木下は、まだうつむいたままだ。

口の動きに注意していないと、舌を噛み切るかもしれない。

オレは、イスに座っている木下の前でひざまづき、

木下の顔を覗き込む。


「今から、お前の手錠を外す。

頼むから、暴れないでほしい。

お前のことは、一部の部下には話したが、

まだ王宮に連絡していない。」


頭のいい木下なら、すべて話さずとも

オレの言っている意味が通じると思う。

木下が抵抗すれば、騒ぎが王宮に知れてしまうわけだ。

ある意味、オレが言っていることは

木下にとって脅迫でもある。


「・・・はぁーーー。」


すこしの沈黙のあと、木下は長い溜め息をついた。

表情からすると、観念してくれたらしい。


「・・・もともと私に拒否権はないですからね。

分かりました。ただし、こちらにも条件があります。」


「どうぞ。」


「その扉の前にいる人をどうにかしてください。」


「なんだ、気づいていたのか。さすがスパイだな。」


この部屋の扉の前には、小野寺が待機している。

こちらの会話はほぼ聞こえていないだろうが、

なにか話していることは伝わっているだろう。

オレが暴力的な言動や行動をしたり、

木下が暴れたりすれば、小野寺に伝わるようになっている。


分厚い扉で小窓もない。

なのに小野寺の存在に気付けるとは、

木下の索敵能力は、なかなか高性能だな。

オレが、扉にノックすると、

小野寺が部屋へ入ってきた。


「オレはまだお前を信じ切れていないし、

お前もオレをまだ信じれないだろう。

だから、というのもなんだが、

第三者に立ち会ってもらう。

お前からしたら、信用できないオレの部下だから

公平な立場の第三者とは言えないが、

オレが拷問するようなマネをすれば、

この小野寺が止めてくれる。お前の身の安全を保障するための男だ。

逆に、お前が暴れたら、それを止める役でもある。

オレの身の安全を保障するためでもある、というわけだ。」


・・・2人がかりで拷問する可能性もあるわけだが、

そこはあえて言わなくても、木下なら

その可能性に気づいているだろう。

信じてもらえるかどうか、難しいところだが。


「・・・分かりました。それでいいです。」


木下は、半信半疑といったところか。

とりあえず納得してくれたようだ。


カシャンという音が響き、

木下の手錠が小野寺によってはずされた。

はずした途端に暴れる可能性もあったが、

その素振りはない。


「やれ、どっこらしょっと・・・。」


オレは、あえて臨戦態勢になりにくい

あぐらをかいて、木下の前に座った。

剣は、もともと部屋の入口に立てかけてあって、手元にない。

自由の身になってイスに座っている木下が暴れれば、

顔面に蹴りを食らう位置だ。

オレが木下を信じていることを態度で示すためだ。


「では、居酒屋での続きをしようか。」




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