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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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胸を張って関所を通ろう




「なるほど。

ニュシェさんがパーティーに加わったんだね。」


話の流れで、つい、デーアに

ニュシェがパーティーに加わったことを話してしまった。

話したあとで、軽率な発言だったことに

気づいたが、もう遅かった。


「それでは、ニュシェさんも

キミたちといっしょに、この国を出て行ってしまうんだね・・・。」


すぐに、デーアが気づいてしまった。

まだ戒律が改正されていないうちに、

国境の関所へ行けば、ニュシェが捕まってしまう。

それを避けるために、関所を通らず

隣国へ行く予定だが、

店主たちが知っている抜け道の話は、

デーアに知られたら、まずいだろう。


「そ、そうだ・・・。」


オレは、デーアと話しながらも、

店主を始め、周りの怖い視線を感じて、

冷や汗が出てきそうだった。

今、「どうやって関所を?」とデーアに

質問されたら、どう答えていいか分からない・・・。


「では、私の馬車で関所まで乗せて行こうか?」


「えっ!?」


オレは驚きの声をあげたが、

驚いたのは、オレだけじゃなく、

その場にいた全員、オレと同じ表情になっていた。


「そ、それは、ありがたい話だが・・・

えーっと・・・ニュシェは関所を通れるのかな?」


オレは、恐る恐る気になっていることを聞いてみた。


「あぁ、通れるよ。

そうか、そうだね。それが気になっていたんだね?

戒律の改正は、少しずつ協議されて決定されるだろうけど、

もう『獣人族』は『バンパイア』ではないと

この国中の民たちが思い知ったからね。

わざわざ戒律が改正されるのを待つことはないよ。

ニュシェさんには何の罪もない。」


そう言うと、デーアは自分の右手を胸に当てて

誓うような仕草をする。


「私が保証しよう!

ニュシェさんは、もう隠れて歩かなくてもいいんだ!

胸を張って、関所を通ってくれていい!

・・・ニュシェさんに危害を加える輩は、私が斬って捨てる!

たとえ・・・父上であっても・・・!!」


「!」


頼もしい言葉を聞けたが、最後の言葉は・・・

ちょっと私怨が入っているように感じた。

どうやら、親子喧嘩は密かに継続中なのか。

一応の理解は得られたが、お互いに意地を張っているのか、

それとも、デーアのほうが根に持っているのか。


「そ、それは、ありがたいな・・・。」


一瞬、鋭い目つきになったデーアは、

あの日、あの『洞窟』で出会った時のように、

今にも剣を抜きそうな空気を醸し出した。


それも、一瞬のことだったが。


親の意地、娘の意地・・・か。

オレとしては、ついつい父親の目線で見てしまう。

デーアは、マジメで、純粋な娘だと感じる。

親としては・・・急に、戒律に反する言動と行動をされれば、

心配して当然であり・・・

娘の言うことを全て受け入れることも難しい。

娘の言うことが理解できない場合もあるが、

だいたい理解できても、素直に受け入れられない時があるものだ。

それが、一国の王ならば、なおのことだ。

娘の意見で、ころころと

自分の意見と国の法を変えるような王に誰が従うものか。

民衆から愛される王というのは、

ただただ他人の意見を受け入れるだけではダメなのだ。


デーアも、父親の立場を分かっていると思うが・・・

マジメで正義感が強いから、

間違ったことをすぐに認めない父親が許せないのだろう。


「あ、あの・・・。」


木下が、言いづらそうに

デーアに話しかける。


「ニュシェちゃんが『獣人族』でも関所を通れるとして・・・

じつは、ニュシェちゃんの出国許可証や身分証明書がないので、

一度、どこかの『ヒトカリ』に寄っていただきたいのですが?」


木下が、そう言った。


そういえば、そうだった。

すっかり・・・店主たちの知る裏のルートで

関所を避けて行くつもりだったから、

ニュシェの身分証明するものを用意することを忘れていた。


「俺たちの仲間になったわけだから、

『ヒトカリ』に、ちゃんと申告しとかなきゃな。

また申告漏れがどうとか言われたら、たまらないもんな。」


シホが、そう言った。

たしかに『サセルドッテ』の『ヒトカリ』での一件と

同じ目に遭わないように、仲間が増えたら、

すぐに申告しておいたほうがいいだろう。


「あぁ、『ヒトカリ』で傭兵として登録すれば、

身分を証明できる会員証がもらえるんだったね。

分かったよ。」


デーアが、そう答える。

傭兵ではないデーアでも、

『ヒトカリ』の会員証のことは分かっているようだ。


「そうなると・・・

今から、一直線に関所がある国境の村へ向かえば、

今日中に隣国へ行ける予定だったけど・・・。」


「そ、そうなのか!?」


デーアの予定を聞いたオレは驚いてしまった。

まだ国を抜けるのに、2日くらいかかると思っていたが。

でも、普通に考えれば、それもそうか。

定期便の馬車と違って、自分の馬車があれば

ほかの町や村で乗り継いで行く必要がないから、

ここから直接、国境の村へと向かえるのだな。


「あぁ、中央の町を通り抜けていけば、

夜には国境まで行けると思っていたけど・・・。

でも、『ヒトカリ』に寄るとなると・・・

あー、中央の町には『ヒトカリ』がないから、

中央の町を避けて行くことになるね。」


デーアが天井を見上げながら、そう言った。

頭の中で、この国の地図を思い浮かべていたのだろう。


「では、中央よりも東の町『シュバリ』へ直行しよう。

あそこなら、『ヒトカリ』もあるし、国境の村まで近いし。

ただ・・・そこへ寄ると、今日中に

他国へ行くのは時間的に無理かもしれないな。

『シュバリ』で一泊することになりそうだね。」


デーアが、そう言った。


結局のところ、

当初の予定通りの町へ向かうことになるのだな。

そして、残念ながら、

今日中には隣国『カシズ王国』へは行けないのか。

関所は24時間開いているだろうが、

宿屋は、時間になれば閉店時間を過ぎて

泊まれなくなってしまう。

オレ以外、女性だからな。野宿は避けるべきだろう。


「『ヒトカリ』へ寄らねば関所へ行けないからな。

この国に、もう一泊させてもらうさ。

デーア、そのルートで頼む。」


オレは、デーアに頭を下げる。

とにかく、乗り継ぎなしで、

その町まで行けるのは、ありがたいことだ。


「いやいや、これは私が申し出たこと。

健一さんが頭を下げる必要はないよ。

では・・・よし、任された!

この聖騎士デーアが、キミたちを無事に隣国へ送り出す!」


デーアは、席を立ち、

大きく胸を張って、そう宣言した。

どこか嬉しそうだ。

日頃から誰かの役に立ちたいと思っているのだろう。

もしくは、少しでも・・・

『獣人族』に対しての罪滅ぼしになればいいと

思っているのかもしれない。


オレは、ちらりと店主のほうを見た。

目が合った店主は、小さくうなづいていた。


ここで、デーアの申し出を

わざわざ断る理由はない。

ニュシェと無事に隣国へ行けるのならば、

どちらでもいいのだ。

店主も、それは分かっているのだろう。


こうして、店主と店員に頼らず、

デーアに頼って、この国を出ることが決まった。




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