裏ルートの打ち合わせ
東へ向けて、出発すると言ったものの・・・
まだ、この国の戒律は改正されていない。
ニュシェを仲間にしない場合ならば、
当初の予定通り、国境の関所を目指して、
そこを通ればいいだけだったが、ニュシェは、もうオレたちの仲間だ。
いっしょにこの国を出たい。
戒律が改正されるのを待っていたら、
何年かかるかも分からない。
よって・・・
「お前たちを、東の『フジ』山脈から隣国へと送る。」
店主がそう言った。
病院から宿屋へ戻ったオレたちは、
この宿屋での最後の食事を終えて、
店主に改めて、この国から出る方法を相談した。
昔から『獣人族』を他国へ逃がしていた
店主だけが知る、関所を通らない裏ルート。
それを教えてもらう。
「昔は、宿屋を休んでまで俺が送っていったものだが、
最近では、このカルブに頼んでる。
カルブ、行ってくれるか?」
店主が、そう言って、店員の肩をポンと叩く。
「清春さんの頼みじゃぁ断れませんよ。」
店員がそう返事する。
悪態をついているようにも見えるが、
それで通じ合えるくらい、2人の絆は強いと感じた。
木下が、食堂のテーブルに地図を広げて
ルートを確認し始めた。
「では、カルブさんも同伴で
ここから馬車に乗って、小さな村『サキエ』へ向かい、
そこから、東の町『シュバリ』へ行きましょう。
本来なら、そこから先は国境の村『フジノク』へ向かうのですが、
その町からは山脈が近いので、
カルブさんの指示に従って移動します。」
そう説明してくれた木下。
その『シュバリ』という町までは、予定通りのようだ。
「この『シュバリ』から、『ヤフロブ』という小さい村を目指し、
ここの村から、山脈への道を徒歩で行きます。」
木下の広げた地図を指さしながら、
店員が、そう説明してくれた。
本当に小さい村のようで、
地図上でも文字が小さくて分かりづらい。
「山脈を・・・歩いて越えるのか?」
シホが、真剣な表情でそう聞いた。
話だけ聞いていると、そう聞こえる。
改めて地図に記されている山を確認したが、
とんでもない大きさだ。標高何千mあるのやら。
オレも徒歩で山を越えると聞いただけで・・・
少し溜め息が出そうになる。
「いや、この山奥に『スヴィシェの洞窟』のような
今では使われていない『洞窟』がある。
そこを通り抜ければ、隣国へ出れる。」
店員が、そう答えてくれた。
それを聞いて、とりあえず、ホッとした。
勾配がきつい山道を歩かなくて済むなら助かる。
「隣りの国って、なんて名前?」
ニュシェが、そう聞いてきた。
「この国の東隣りは、『カシズ王国』だ。
あんたらがさっき食べた『アッカダイ』という
真っ赤な魚が採れる、海に面した国だ。」
「ほう!」
店主が答えてくれたが、それを聞いて
オレは思わず声が出た。
海か・・・。
『ソール王国』は海に面していなかったし、
本物の海を見たのは、たしか、
娘が嫁いでいった国で見たのが最初で最後だったなぁ。
「国土はそこまで大きくないのですが、
国の中心に大きな海峡がある国です。
海峡を挟んで、国が二つに分かれているような形をしてまして、
海峡を迂回して地を行くよりも、船で海峡を渡ったほうが
早く東へ行けますね。」
木下が、地図を見て、そう説明してくれた。
木下自身は数年前に『ソール王国』へ来た時、
そうして、その国を通ってきたのだろう。
「なるほど、船か。
乗ったことがないから、少し楽しみだな。」
オレは、だれに同意を求めるでもなく、
そう言ったのだが、
「うん!」
オレの言葉に反応して、ニュシェが嬉しそうに返事をした。
「あー・・・いや、船は・・・どうだろうな。」
店主が、少し困り顔で言い出した。
「なんだ? なにかあるのか?」
「んー、いつだったかな。
数か月前ぐらいか、『カシズ王国』の定期船が、
何隻か沈没したとかで、商品の運搬が大変になったって
商人たちから聞いたことがあったんだ。」
店主が、思い出しながら、そう言った。
「あぁ、俺、覚えてますよ、清春さん。
もう1年くらい前の話ですよ、それ。
その沈没事件以来、定期船は決まった数しか
出てないって話でしたよ。」
店員が思い出したように言った。
「あぁ、そうだったか。もうそんなに経ったか。」
店主も思い出したようだ。
オレも店主も同じくらいの年齢だから、分かる。
つい最近の出来事が、いつの間にか、
ものすごい過去の出来事になっているという。
時間の感覚のズレというか。
「その沈没した原因って、船の故障か?」
オレは気になって聞いてみた。
店主たちの話は、他人事ではない。
オレたちが乗った船が、沈没する可能性もあるわけだ。
「いや、どうだったかな。
他国の情報は入ってくるが、
そんな自分に関係のない事件を、詳しくは調べないからなぁ。」
店主も店員も、そこまでは知らないらしい。
「まぁ、でも、数が制限されてても
今も船には乗れるって話だろ?
じゃぁ、大丈夫じゃないかな。」
楽観的な考えのシホが、そう言う。
しかし、一理ある。
ここで心配していても始まらないか。
「行ってみれば、分かることだな。
では、カルブ。
短い間ではあるが、よろしく頼む。」
行き先が決まり、オレは改めて
店員に頭を下げたのだが、
「!」
オレと店主と店員、3人が気づいた。
宿屋の外に、近づいてくる気配を感じた。
宿屋へ近づいてくるということは、客なのだろう。
そう思っていたのだが、
宿屋へ入ってきたのは、意外な人物だった。
「こんにちは、みなさん。
よかった。まだ出発されてなかったんですね。」
「!!」
宿屋の出入り口に、笑顔で現れたのは、
青白い鎧の聖騎士デーアだった。
ゆったりとした口調と、その外見からして、
優雅さを感じさせる挨拶だ。
以前、会った時よりも顔色がいい気がする。




