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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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葬儀式




翌朝、オレたちは朝食後に

店主も連れて、みんなで、この町の病院へと向かった。


『マティーズ』のリーダー・イヴハールは、

意識を取り戻していたが、背骨の損傷と腕の骨折のほうがひどいらしい。

回復の魔法をかけても、再生に時間がかかるようだ。

しばらくは、絶対安静といった感じだ。

腕の骨折は、壁に衝突した時のものではなく、

あのアンヘルカイドに殴られた時に折れたようだ。


「元々、アンヘルカイドは武術に優れている聖騎士だったからな。

『魔物化』したことで筋力が異常に増幅されて、

あの破壊力だったのだろうが・・・、

もし、『バンパイア』の『血』が馴染んでいたら・・・

骨折どころじゃなかったかもしれないな。」


店主は、そう解説してくれた。


「あ、あれでも完全な『魔物化』じゃなかったって!?」


それを聞いて、カトリーノが驚きの声を上げた。


「まぁ、詳しくは分からないが・・・

『スヴィシェの洞窟』の奥で討伐した『バンパイア』は、

武術の心得がないように感じた。

接近戦の武術ではなく『法術』を多用していたから、な。

それでも、異常な強さだった・・・。

やつは、『バンパイア』の『血』が馴染んだ魔獣ほど

強くなるようなことを言っていたし。

もし、聖騎士で武術の達人でもあるアンヘルカイドが

完全な『バンパイア』へと変化していたら・・・

被害は、こんなものじゃなかったと思うぜ。」


店主が、包帯でグルグルに固定されて

ベッドに寝かされているイヴハールを、

険しい目で見ながら、そう言った。


オレも、そう感じた。

アンヘルカイドは、完全な『魔物化』に至っていなかったと感じる。

いわば、生まれたての『バンパイア』だった。

だから、短時間で討伐出来て、

これだけの被害で済んだのだと感じる。


それにしても、包帯グルグル状態のイヴハールを見ていると、

まさに、あの『洞窟』の奥で討伐した『バンパイア』を

思い出してしまうな・・・。

イヴハールは殴られただけだから、

『血』を体内に取り込んでいないだろうけど。


「とにかく、全員、命があってよかった。」


オレは、心底そう思った。


「・・・おっ、さん・・・。」


「ん?」


イヴハールが、つらそうな表情で、震えた声を出す。

絶対安静の状態だから、声を出すのもつらそうだ。


「す、すまねぇ・・・役に、立てなく、て。」


「!」


イヴハールが悔しそうに、そう言った。

声を出すのがつらいだけじゃなく、

戦闘において、役に立てなかったと感じて

悔しいと感じているようだ。


そばに立っているテゾーロも、カトリーノも、

イヴハールの言葉を聞いて、悔しい気持ちを思い出したようで、

同じ表情になっている。


「なに言ってんだ、お前たちが

応援の傭兵たちを呼んで来てくれたんだろう?

アンヘルカイドを討ち取れたのは、傭兵たちの

加勢があってこそだぞ。お手柄じゃねぇか。」


店主が、そう言った。


「はっきり言って、オレたちだけでは

太刀打ちできない強敵だった。

一対多数の卑怯な戦法ではあったが、

あれだけの強敵を討伐するのに、卑怯も何もない。

本当に、お前たちのおかげだ。助かった。」


オレも、そう言った。


ふと気づけば、いつもうるさいシホも黙り込み、

木下も、少し悔しそうな表情になっている。

ニュシェは『獣人族』の特徴である獣の耳を隠すために

フードを深く被っていて、表情がいまいち分かりにくいが、

元気なく、うつむいているようだ。

どうやら、『マティーズ』の悔しい気持ちに

感化されて、何もできなかった自分と重ね合わせているようだ。




あまり長居しても、イヴハールの体に障るだろうから、

オレたちは、早々に退室してきた。


「これから、どうするんだろうな、『マティーズ』。」


シホが、ポツリと言った。


リーダーであるイヴハールは、しばらく入院することになる。

あとの2人は・・・どうするのか。

リーダー不在のまま、2人で傭兵としての依頼を受けるのか。

それとも・・・今後の傭兵としての活動を

どうしていくのか、話し合って決めるしかないだろうな。




カァーーーーーーーーーーーーーーン・・・


「!?」


その時、いつもより強い鐘の音がひとつ、鳴り響いた。

病院からは、教会も近いから、

たまたま大きく強く聞こえたのかと思ったが、

そうではなかった。


「あれは?」


「葬儀だな。」


店主が、教会前の大勢の人だかりを見て、そう答えた。


白い外壁の教会の前に、大勢の白い布の服を着た信徒たち。

そして、白い鎧の騎士たちも大勢並んでいる。

その中に、青白い鎧の騎士も見えた。


みんな、目を閉じて、黙って、うつむいている。

黙祷を捧げているようだ。


「聖騎士もいるみたいだな。」


シホが背伸びしながら、覗き込む。


ざわざわざわざわ・・・


「おぉ、聖騎士様が4人そろってらっしゃる。」


「なんと神々しい・・・。」


人だかりの信徒たちが、口々に、そう話している。


「え、聖騎士がそろってるって!?」


シホが気になって、さらに背伸びして

人だかりの中を覗き込もうとしている。


「おいおい、いい大人が、みっともない。

やめとけって。」


オレがそう注意しても、シホの好奇心は止まらないようだ。

いや、こいつの目的は、聖騎士ディーオか。


聖騎士が4人・・・つまり、アンヘルカイド以外の

現存する聖騎士が、そこにそろっているということだな。


「聖騎士が4人そろっているなら、間違いないな。

この葬儀は・・・。」


「あぁ。」




・・・聖騎士アンヘルカイドの葬儀式だった。




ギギギギ、ギィィィィィ・・・


やがて、教会の重厚な扉が開き、中から

真っ白で、大きめの棺桶が、騎士たちによって運び出されてきた。

アンヘルカイドの体は、討伐時に、

完全焼却したから、きっと棺桶の中身は空っぽのはずだ。

だから、運んでいる騎士たちも

どことなく軽々と持ち運んでいる気がする。


カシャン! ジャキン! カチャ! ジャキキン!!


「!!」


騎士たちが、剣を抜き、剣先を天へ向けて構えだした。

人だかりの隙間から、ちらりと中の様子が見えたが、

聖騎士たちも、同じように剣を構えている。


病院で見かけなかった聖騎士ディーオも、そこにいた。

大怪我こそしていないものの、満身創痍だっただろうに、

昨日入院していた身でありながら、早々に復帰しているとは・・・

マジメなやつだな。


聖騎士デーアの姿も見えた。

元気そうで何よりだ。


カァァァーーーーーーーン・・・


また強めの鐘の音が鳴り響き、

信徒たち、騎士たちが、何やらつぶやき始めた。


「~~~♪」

「~~~♪」

「~~~♪」


一人一人の小さな声が、多く重なり、

この場の全員での大合唱が聞こえてくる。

『国歌』というやつだろうか?

それとも、宗教の歌なのかもしれない。

やけに低い声で響いてきて・・・少し不気味な感じがする。


『魔物化』した者でも、聖騎士は聖騎士。

ちゃんと葬儀を執り行うのだな。

さぞ、この国にとって大きな損失だろう。


「さて、そろそろ昼だから、オレたちは宿へ戻ろう。」


まだ葬儀は終わらないようだが、

オレは、早々に、その場を離れたかった。

『魔物化』していたとはいえ、この国の聖騎士を倒してしまったのだ。

オレたちは異国の者・・・。

熱心な信徒たちからは、あまり良く思われていないだろう。

特に、聖騎士たちに見つかる前に、ここを立ち去りたい。


「昼飯を食べたら、荷物をまとめて出発する。」


オレが、そう言うと、ほかの3人はうなづいた。


「もう一泊していってもいいんだぜ?」


店主が、冗談っぽく言った。

本気で泊めようとは思っていないはずだ。


「ふふふ、店主の飯が食べられなくなるのは残念だが、

オレたちは旅立たねばならないからな。」


「そうだな。では、食い納めってことで、

昼飯を思いっきり堪能していってくれ。」


店主が、笑顔でそう言った。





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