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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
231/501

新たな装備を求めて




午後からは、騎士たちが

宿屋『エグザイル』に出入りして、

店主や店員、そしてオレたちに、それぞれ事情聴取が行われた。


聖騎士キカートリックスは来なかった。

この周辺の処理が終わってから、

急いで、この国の中心の町『オラクルマディス』へ向かったらしい。

聖騎士ディーオの父親ヴォルフが

大聖堂で拘束されているらしいから、

その冤罪えんざいを解くために向かったのだろう。


この国の大司教の、聖騎士デーアに対する見方も、

キカートリックスの報告で、大きく変わると思われる。

もしかしたら、そのまま戒律改正の話も

すんなり進むかもしれない。


あとで店主に聞いた話によれば、

この国の聖騎士は、人数に制限があるわけではないが、

現在は、5人いるらしい。

デーア、ディーオ、アンヘルカイド、キカートリックス・・・

そして、もう一人いるらしいが、そいつは

今回の騒動に関して「我関せず」を貫いているらしい。

きっと、そいつはとても冷静で慎重な性格なのだろう。

つまり『大司教派』でもなく『デーア派』でもない立ち位置。

ならば、アンヘルカイドが亡くなった今は、

キカートリックスが『デーア派』に・・・というか、

『バンパイア』の真相を知ったわけだから、

意見が分かれてしまった親子の溝を・・・派閥の溝を無くして、

間違いを正し、またひとつの宗教国家として、

より良い国へとまとまってくれることを願おう。




カーーーン・・・


カーーーン・・・


教会から、ゆったりとした、静かな鐘の音が聞こえてきた。

各々の事情聴取が終わったころには、夕方になっていた。


衣類と鎧を焼却してしまった、オレは

衣類の替えを持っていたが、予備の鎧は持っていない。

木下に交渉したら、すんなり

新品の鎧を買っていいことになった。


ニュシェとシホに留守番を頼み、

『ゴールドカード』を換金するべく、

木下と銀行へ向かった。


閉店間際だったようだが、間に合った。

仰々しい店員たちが、奥の間へと通してくれて、

そこで換金の対応をしてくれた。


オレは知らなかったが、『ゴールドカード』には、

10分割に切れ目が入っていて、

普通に持ち歩いていても簡単には折れないが、

銀行が持っている特殊な『魔道具』で分割が出来るらしい。

魔力が関係しているとか難しいことを説明されたが、

オレにはよく分からなかった。


『ゴールドカード』をすべて換金するわけではなく、

一分割分だけ切り離して、換金する。

一分割分は、金貨1000枚分。

やたら高い鎧を買わない限りは、

鎧ひとつ買っても、じゅうぶん余る金額だ。

オレたちは、それを受け取り、銀行をあとにする。




新しく鎧を買うべく、例の武器屋『パッロコ』へ行ってみた。

こちらも、もう閉店間際らしく、客が少ない。

それとも、今日は祭りだから武器を買う客が少ないのか。


「おぉ! 『森のくまちゃん』様っ!」


店主らしき男が、オレたちを見て、目を輝かせた。

最初に、この店へ訪れた時と明らかに態度が違う。


驚いたことに、『鉄の槍』が

先日より大量に置いてあって、そこに・・・


「『ギガントベア』も一撃! 『森のくまちゃん』御用達!」


という張り紙が貼ってあるではないか!

『御用達』って・・・。

しかし、ここで『鉄の槍』を買ったのは事実だし、

その『鉄の槍』が、大いに役立ったのは間違いではない。


チラリと武器屋の店主のほうを見たら、目が合って、


「ダンナのおかげで、飛ぶように売れてます!

『殺戮ぐま』様様ですぁ!」


と、ゴマをすられる始末・・・。

へたに再入荷を促してしまって、悪い気がしていたが、

あの時、木下が言っていた通り、

余分に入荷しても、きっちり売り上げに繋げるとは、

さすが商人魂と言ったところか。


「そ、そうか、それは良かったな。

今日は、鎧を買いに来たのだが・・・。」


オレがそう言うと

武器屋の店主の目が一段と輝きだした!


「それならば! これなんか、どうですか!?」


武器屋の店主が薦めだしたのは

この店で一番、目をひく装備品!

金ピカに輝いている『ゴールドメイル』!

値札には、「金1万枚→金5000枚!」と書かれている。

半額とは太っ腹だな・・・と思ったが、

半額でも、金貨5000枚もするではないか。

それに、全身が金ピカの装備なんて、

とてもじゃないが、町を歩けない。

目立ちすぎるし、「盗んでくれ」と言っているようなものだ。


「いや、予算は・・・金貨100枚前後だ。」


本当なら、さきほど換金してきた金1000枚分の

高品質な装備を身に着けてみたいものだが・・・旅は長い。

大金が手に入ったからと言って、パーっと使っていいものではない。


「え・・・100枚ですか?

そうですか・・・。」


オレの予算を聞いて、明らかにヤル気が落ちた武器屋の店主。

なんとも分かりやすいというか、

これがゲンキンな性格というやつか。


それまで黙ってついてきていた木下が、

武器屋の店主に話しかけ始めた。


「店主さん。」


「は、はい!」


なぜか、緊張している店主。

木下が値切りしてくるかもしれないと身構えているのだろう。


「もしも・・・この『ゴールドメイル』に、

このお店のネームを入れたら・・・いくらになりますか?」


「はぁーーーーーーぁ!?」


木下の有り得ない提案を聞いて、

オレは、思わず間抜けな声をあげてしまった。


「は・・・あーいや、その~・・・?

この『ゴールドメイル』にうちの店名を入れる!?」


今まで、そんな値下げの交渉をされたことがないのだろう。

店主が、いまいち理解していない様子だ。


「分かりませんか?

この派手な鎧に、こちらの店名を入れて・・・

全国的に有名になってしまった、この『殺戮グマ』が

これを着て、この先も大活躍をする・・・。

このお店の名前が、全国に知れ渡るということ・・・。

さて、どれほどの宣伝効果になるのでしょうねぇ? 店主さん?」


「はっ!?」


木下が、またとんでもないことを言い出している!


「わ・・・わ・・・わ・・・わが店がぁ・・・!

た、大変だ・・・わが店がぁ・・・!!」


武器屋の店主は、木下の言葉で妄想が膨らんでしまったようだ。

さきほどまで木下を見る目は怯えたものだったのに、

見事に輝きを取り戻していた。


「これぐらいでいかがかしら?」


木下が小さな紙切れに、なにやら数字を書き込んで、

それを武器屋の店主に渡す。


「ご、500!?

そ、そんな! さすがに、これはあんまりだ!」


武器屋の店主の顔が、一気に青ざめた。

さすがのオレでも、それは無茶な値切りだと感じる。


「でも、店主さん。このお店には、

こんな鎧が、数体・・・いえ、数十体も並べられるほどの

見返りが舞い込んでくる・・・そう思いませんか?」


それでも木下は、さらに武器屋の店主を追い込む。


「ご・・・『ゴールドメイル』の、ゴールドラッシュ・・・!!」


木下の交渉術がすごいのか、

それとも、美人の言葉に弱いのか、

武器屋の店主は、また妄想が膨らみ始めたようだ。


オレは、木下と武器屋の店主が

そんなやりとりをしている間に、

手頃な価格の軽量な鎧を見つけて、武器屋の店主へ突き出した。


「あぁ、おじ様。今、こちらの店主が

あの黄金の鎧にお店のネームを入れてくれるので・・・。」


「今から、鍛冶屋を呼んで・・・。」


目を輝かせながら、そう言いかけた武器屋の店主の

言葉を遮って、オレは言い切ってやった。


「そんなもんが着れるか!

自分が着る鎧は、自分で決める!

これをくれ! さっさと精算しろ!」


木下も武器屋の店主も、

寂しそうな表情をオレに向けるのであった・・・。





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