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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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ニュシェの覚悟




店主と、ついでに店員も同じテーブルの席へ着き、

オレ、木下、シホ、ニュシェも合わせて6人で

賑やかな昼飯となった。


昼飯には、朝食べたものとは

また違った品が出てきていたので、興味を持った女性陣が

料理の素材の話から味付けの話まで、店主や店員に聞いていた。


そして、みんなの食事が終わり、

ちょうど会話が途切れたタイミングで、

ニュシェの話を聞くことになった。


今朝、聞けなかった、ニュシェの『答え』を。


「・・・あたしは、『スクレ』という村で生まれ育った。

村人たちは、100人ぐらいだったかな。

決して大きくない、小さな村だったけど、

村人たちは、みんな家族みたいな感じで・・・

野菜を育てる人、狩りをする人、みんなそれぞれ物々交換したり

分け合ったり、そうやって助け合いながら暮らしてた。」


ニュシェはこれまでの経緯から話してくれた。

どこか懐かしむような表情で、そう話し始めた。


「村のおきてで、外には絶対出ないことになってた。

だから、あたしは将来、狩りをする人になりたかった。

狩りをする人たちだけが、唯一、村の外に出ていいことになっていたから。

あたしのお父さんが、狩りをする人だったから、

お父さんに憧れていたのも理由のひとつかな。

だって、毎日、村の外の話を自慢するんだもん。

あたしが狩りをする人になると決めてから、

お父さんに毎日、狩りをする訓練をさせられてた。

すごく厳しかったけど・・・楽しかったんだ。」


・・・なるほど。

ニュシェが気配を消して移動することに

長けているのは、そのためか。


「今から半年前ぐらいに、村の守護者が亡くなってしまった。

村の守護者は、その家系の人だけの職業で、

代々、『ある魔法』を受け継いでいた。

その魔法のことは、あたしはよく分からないけど、

村全体を、外から見えなくする魔法なんだって。

村の守護者は、毎日欠かさず、その魔法を発動してたんだ。」


そんな魔法があるのか?

それは、つまり物質を透明化するってことか?


「それは、おそらく、透明化の魔法か、

幻影の魔法かもしれないな。

近寄らない限り、そこに村があることが

外からは分からなくする魔法なんだろう。

小さな村でも、その村全体に魔法をかけるとなれば、

相当な魔力を持った術者だったんだろうな。」


店主が、予想を話してくれた。


「うん、たぶん、そうだと思う。

でも、たまに・・・たまにね・・・

外から、あたしたちと違う姿の人間が

村に迷い込んでくるときがあったんだ。

あたしは、まだ子供だったから

そういう人が、どうなるのかは教えてもらってないけど・・・

たぶん、その時は・・・狩りをする人たちが・・・。」


ニュシェは、言葉を詰まらせた。

子供と言っても、今のニュシェは大人に近い。

村の掟や大人の反応を見て、

だいたい、予想がつくだろう。


「だから、その・・・あたしたちが

まったくの人畜無害だったわけじゃないと思ってる。

あの聖騎士のキレイな人は、すごく謝ってくれたけど、

あたしも、謝らなくちゃいけなかったと思う。」


聖騎士デーアのことだろう。

ニュシェは、申し訳なさそうな表情だ。


「話が逸れちゃったけど・・・それで、えぇっと・・・

村の守護者が亡くなって、後継者がいなくて・・・。

あたしたちの村は、とうとう外から見える状態になって。

その数か月後に、騎士の人たちに・・・襲われたの・・・。」


ニュシェが膝の上に置いている手で

ギュッと拳をつくる。


「・・・なんでもない朝だった。

いつも通り・・・お母さんが早起きして

大好きなパンを焼いてくれて・・・

あたしは、いつもその匂いで起きるの・・・。

お父さんは、もっと早起きで。

いつも朝食を食べるころに狩りから帰ってきてたの・・・。

そうして、3人で朝食を食べて・・・

そこに・・・侵入者の知らせが来て・・・

お父さんが戦いに出ている隙に、

お母さんが・・・「逃げて」って・・・!

あたし・・・あたし・・・っ!」


思い出したくないことを、思い出して

話してくれていることが伝わってくる。

ニュシェが悲痛な表情で、大粒の涙を流し始め、

そばにいたシホと木下が

同じく泣きながら、ニュシェを抱きしめた。


人同士の争いは、いつも弱い者から犠牲になる。


そして、争いを始めた者たちは、

こんなに痛くて悲しい想いをしている弱き者たちの

涙を知ることがないのだ。


戦争は理不尽だ・・・。

そう感じるのは、オレが平和ボケしているからだろうか?

オレも『ソール王国』に仕えていた身・・・。

もし、うちの王様が他国に対して好戦的であったなら・・・

オレは、ニュシェたちのような弱き者たちの涙を知ることなく、

なにも感じることなく、戦いに身を投じていただろうな。


どちらが正しいという話ではないし、

きっと答えは、人それぞれになるだろう。

ただ、弱き者たちの涙を知ることができる自分で、よかったと感じる。


・・・なんて、こんなことを考えていることを知ったら、

目の前で黙って聞いている店主や店員に笑われるだろうか。


ニュシェが、涙をぬぐい、また語り始めた。


「ずっと1人で逃げ続けて・・・

初めて、村の外の世界を知ったんだ・・・。

寂しくて、つらいはずだけど・・・

いや、本当につらかったんだけど・・・

でも、あたしって、本当に

狭い世界にいたんだなって・・・気づけたんだ。」


つらかった体験は、あまり細かく話さないつもりらしい。

ニュシェの、その気持ちが伝わってきて、

思わず目頭が熱くなってくる。


ニュシェがオレの目を見つめてくる。


「あたし、なんで生きてるんだろうって・・・。

なんで逃げてるんだろうって思う時もあったけど・・・。

そんな逃亡生活のある日、おじさんたちに出会ってさ。

おじさんが、あたしに気づいても大騒ぎしなかったり、

馬車の下にわざと、握り飯を置いててくれたり・・・。

最初は、罠かと思ったんだけどさ。

この人、なに考えてんだろうって興味も出てきてさ。」


そう言ったあとに、ニュシェは、

首を小さく横に振って・・・言葉を訂正し始めた。


「いや、やっぱり、あたしは・・・

やっぱり誰かに助けてほしかったのかもしれない・・・。

おじさんたちなら、もしかしたらって期待があったんだと思う。」


ニュシェが少し申し訳なさそうな顔で、そう言って


「でも、おじさんたちは、あたしの期待通り、

あたしを助けてくれた。あたしを守ってくれた。

そして、期待以上の結果になった。

この国の決まり事は、すぐに変わらないと思うけどさ。

少しずつ変わっていくんだと思う。

とにかく・・・その・・・」


ニュシェが、席を立ち、頭を下げて


「ありがとうございます!」


「!」


ニュシェが大きな声でお礼を述べた。


お節介したことが、必ず良い結果になるとは限らない。

だいたいが、余計なお世話になることが多いだろう。


『ソール王国』で、リストラされたオレの

余計なお世話が・・・良い結果になってよかった・・・。


オレはニュシェのお礼を聞いて、ホッとした。


「それで、ね・・・。

これからの自分のこと、あたし、真剣に考えたんだ。

なにも出来ないあたしに、なにができるんだろうって考えたんだけどさ。

あたし、なにも出来ないから、やっぱり答えが出なくてさ。

だから・・・なにも出来ないけど、

あたしがしたいことってなんだろうって考えたんだ。」


ニュシェが自分の胸に手を当てて、目を閉じる。


「あたし・・・世界が見たい!

たしかに、この国はあたしの生まれ育った故郷だけど、

あたしが自由に生きていくには狭すぎる!

あたしは、もっと広い世界を知りたい!

そして、いつか、おじさんが言ってた

『獣人族』だけの国ってのを見つけてみたい!」


そう強く言い放ったニュシェの言葉には迷いがなかった。

再び開かれた目は、きらきらと輝いているように見えた。


そして、またニュシェは頭を下げ始めた。


「おじさん! お願いします!

あたしを旅に連れてってください!

あたし、なにも出来ないけど、なんでも覚えます!

なんでもやれるようになります!

だから・・・お願いします!」


なんと潔いお願いだろうか。

それでいて、必死さが声から伝わってくる。

シホが改めてパーティー加入をお願いしてきた時と

同じように、真剣な想いが伝わってきた。


なにも出来ないからと言って、

ただ他人任せにするという姿勢ではない。

これから真剣に、必死になって、

自分の出来ることを増やしていくという姿勢だ。


古い言葉で言うならば、『がむしゃら』という姿勢。

向こう見ずに、責任も対価も関係なく、

必死にやっていくという姿勢だ。


一見、何も考えていないバカと言えなくもないのだが・・・

オレも頭がいいほうじゃないから、嫌いじゃない姿勢だ。


久しく忘れていた、熱い気持ちを

ニュシェの言葉と姿勢を見て、思い出させられた。


みんなの視線が、オレに集まりだした。

ニュシェの『答え』は出た。

今度は、オレがそれに応える番だが、

こんなの、断れるはずもない。


「人生において、命が懸かっていない瞬間はないが、

オレたちの旅は命懸けだ。

現状で、なにも出来ないと自覚しているなら、

危険を覚悟で、外の世界へ身を投じ、出来ることを探せ。

その覚悟があるなら・・・オレたちと行こう!」


オレは、手を差し出した。


ニュシェは、オレの手を迷うことなく、

ガシっと掴んできた!

幼くて、柔らかくて、小さな手だが、力強い握手だ。

こんなことで絆が強く結ばれるわけではないが、

最初の『ひと結び』にはなっただろう。

これからの旅の中で、幾重にも結ばれて、

いつか強固な絆へとなれればいい。


「旅の間、お前を守ってやる」とは、あえて言わなかった。

いつまでも守られる側でいて欲しくないからだ。


しかし・・・やれやれ。

ニュシェの想いとは関係なく、ニュシェは弱い存在だ。

オレのほうも、しっかり覚悟せねばならないだろう。


パチパチパチパチパチ・・・!


「!」


突然、店主と店員が拍手をし始めた。


「おめでとう!」


そして、祝福の言葉。


「おめでとう! ニュシェちゃん!」


「おめでとう! これからよろしくな!」


木下とシホからも歓迎の言葉が贈られて、


「うん! ありがとう!!」


ニュシェが、満面の笑顔で、嬉しそうな声でそう答えた。


オレたちパーティーに

新たな仲間が加わった瞬間だった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、うん、決めたか。 少しジワッと来ました。 [一言] 新しい仲間に乾杯!
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