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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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波紋は広がる




店主がアンヘルカイドの返り血を浴びたらしく、

すぐに装備していた鎧ごと、衣服を脱いで、

炎の中に投げ込んでいた。


アンヘルカイドを中心に、数十mの高さまで立ち昇っていた炎の柱は、

数分後には消えて・・・あとには、黒煙が立ち昇っていた。




アンヘルカイドは、完全に消滅した。




骨すらも、炭となってしまい、

少し風が吹いただけで、灰と化して消えた・・・。


その様子を、その場にいた騎士団たち、傭兵たち、

そして、野次馬のように町民たちが集まってきて、

だれもが黙って見ていた・・・。


『バンパイア』を討伐できたわけだが、

だれも素直に喜べない心境のようだ。


死者十数名・・・負傷者多数・・・。

しかし、喜べない理由は、被害が甚大だっただけではない。


彼らは、思い知ったのだ。


デーアの『洞窟』での報告を、ウワサ程度に思っていた、

この町のすべての人間が、はっきりと真実を知ったのだ。


『バンパイア』は、確かに存在していて・・・

そして、『獣人族』とは似ても似つかぬ存在であるということを。


今まで、「存在自体が罪」だと教えられてきて、

戒律が正しいと信じて疑わなかった・・・。

『獣人族』である者たちを、忌み嫌い、遠ざけ、迫害して・・・

討伐という名の虐殺を続けてきた・・・。


『バンパイア』の真の恐怖と、

『獣人族』を虐殺してきた、その罪深さを痛感しているのだ・・・。






その後は、ディーオの代わりに

キカートリックスが指揮をとり、

騎士たちによる事後処理が始まった。


ディーオは、最後の魔力を振り絞って

民家を守ったため、その場で意識を失ってしまった。

騎士たちによって、すぐに病院へと運ばれていった。


ほかの負傷者たちも

騎士たちや傭兵たちが助け合い、病院へと運んでいく。


『マティーズ』のテゾーロは、幸い意識があって軽傷で済んでいたようだが、

イヴハールのほうは、頭を強く打ったらしく、意識が戻らなかった。

オレが乱暴に抱きかかえて助けたのも、良くなかったかもしれないが、

あの状況では、アンヘルカイドとともに

焼却されてしまうところだったから仕方ないだろう。

騎士たちに病院へと運ばれるイヴハール。

無事だったカトリーノとデゾーロがついていった。


最初に血を吸われた騎士2人は、

すでに絶命しているが、首の噛み傷から

『バンパイア』の血が入り込んだ可能性もあるとみて、

その場で火葬された。


店主が装備を焼却していたのを見て、

オレも返り血を浴びている可能性があると思い、

オレの鎧と衣服も、その場で焼却してもらうことになった。


アンヘルカイドを斬った、オレと店主の剣は、

しっかり布で血を拭き取り、その布を燃やし、

火で剣全体を炙り、完全に『バンパイア』の血の痕跡を消した。


こうして、念入りに

『バンパイア』の血を残さないように処理した。


アンヘルカイドが持ち出した『バンパイア』の本は、

その場に残っていたのを発見されたが、

アンヘルカイドのドス黒い血にまみれてしまい・・・

もはや解読不能。調査の続きは不可能とみなし、

その本も、その場で血溜まりごと焼却された・・・。

数百年前から存在していた貴重な本だったが、

あの『洞窟』の奥から回収してきた本は、

まだたくさんあるから、調査は引き続き、

ほかの本で続けられることだろう。


もう、こんな悲劇が繰り返されないためにも、

ほかの本の調査は必要だが・・・本が残っている限り、

逆に悲劇が繰り返される可能性も残ってしまう。

それだけが気がかりだな・・・。




今日は『謝食祭』ではあるが、宿屋『エグザイル』は臨時休業。

さすがの店主も体力を消耗したのだろう。

この周辺のお店も民家も、騎士たちの事後処理が行われているため、

とてもじゃないが、町の西側は、お祭りの雰囲気に戻らないようだ。

町の東側だけが、引き続き、お祭りを続行しているらしい。

町民たちや商人たちは、みんな町の東側へと出かけて行ったようで、

宿屋『エグザイル』の周辺は、とても静かになってしまった。


客がいない宿屋『エグザイル』に

オレたちは戻り、食堂で休ませてもらうことになった。

木下たちも、一度は町の入り口付近まで逃げていたが、

宿屋の店員が、ひとっ走りして呼び戻してくれた。




気づけば、もうお昼時。

そのまま、食堂で昼飯をいただくことになった。


「もう一泊、毎度あり~。」


店主が、おどけて、そんなことを言う。


今回の件と、あの『洞窟』の最奥部で起きたことの

事情聴取が必要だとかで、キカートリックスから

ここで待機しているようにと言い渡されてしまった。


オレたちは、それが終わるまで、

ここから動けないということだ。


「ふぅ・・・完全に足止めを食らったな。」


オレは、溜め息まじりにそう言った。


「まぁまぁ、おっさん。そんなに急がなくても、

『ドラゴン』はどこにもいな・・・行かないよ!」


シホがそう言って、オレをなだめる。

こいつ、今「どこにもいない」って言いそうになったな。


「はははっ、シホが言ってた通り、

本気で『ドラゴン討伐』が旅の目的なのか!

夢を追いかけるなんて、なかなかロマンチストだな、おっさん!」


店主が笑いながら、そう言った。

オレがロマンチストかどうかは分からないが、

バカにされているのは分かる。

恥ずかしい・・・。

おのれ・・・オレの夢じゃなく、『特命』なのに・・・。


「どの道、長い旅には違いないんだ。

ここらで、ちょっと休むのもいいと思うぜ。

あんた、働き過ぎだ。」


そう言いながらも、店主は食事を運んだり、

片づけたり・・・その言葉をそっくり返してやりたい。


「清春さんも!」


そう言って、食事を運んできた店員。

どうやら、店主の分の食事を運んできたらしい。


「あんな大技を繰り出した直後に魔法まで・・・

分かりますよ、本当は体力が残ってないんでしょ?」


「あー・・・はははっ!

やっぱり歳には敵わねぇなぁ・・・。」


店員に見破られたらしく、店主は苦笑いしながら

そのまま、オレたちと同じテーブルの席に着いた。

店員の言う通り、無理をしていたようだ。

苦笑いしている店主の顔色が少し悪い。


「そういうわけで、このまま

俺たちも、いっしょに昼飯をいただくとするぜ。」


店主が、わざとらしいほど明るい声で、そう言った。

心配されたくないのだろう。

実際、店主が繰り出した最後の技は、じっくり見たわけではないが、

体を酷使する、大技であることは分かった。

たしか・・・『ソール王国』の騎士の剣技に、似たような大技があったはずだ。

身体能力を最大限に使い、素早く連続で斬りつける大技・・・。

きっと、体への負担は大きいはず。

客足が遠のいてしまって、店の売り上げは厳しいかもしれないが、

店主の体が休めて、ちょうどよかったのだと思う。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 強敵でした… 終わったようで、また、復活してきそうなところが 恐い((( ;゜Д゜))) [気になる点] シホとの共同技見られるかなと思ってました。また別の機会ですね。 女子陣にとっては安…
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