血の覚醒
【※残酷なシーンが描かれています。
苦手な人は、読まないようにしてください。】
「ア、アンヘルカイド!
意識はあるのか! 大丈夫か!?」
キカートリックスが、叫ぶように聞いた。
「あ・・・あぁ・・・のどが、乾いた・・・。」
アンヘルカイドが、弱弱しく、そう答える。
あの状態で・・・普通に声を出せること自体が異常な気がするが。
「よ、よし! おい、水だ!
アンヘルカイドは、やっぱり生きている!
誰か、水をやってくれ!
そして、早く病院へ運び出せ!」
「はいっ!」
キカートリックスの指示で
ほかの騎士たちが、アンヘルカイドの元へ駆けつける。
担架を持った騎士たちが
アンヘルカイドの体を持ち上げようとしたが、
「待て・・・その前に、のどを潤わせてくれ。」
アンヘルカイドが、そう言った。
それを聞いた騎士が
「おい、早く水を・・・!」
そう言った瞬間!!
ガブッ!!!
「ぎゃっ!?」
「!!!」
突然、アンヘルカイドが素早く上半身を起こし、
そばにいた騎士の首元へ噛みついた!!
「あ・・・あ・・・あ・・・!」
そして、
ジュルルルルルルルル!!
この音は・・・まさか血をすすっているのか!?
「な、な、なに、を・・・!?」
さっき顔色が元に戻ったばかりのキカートリックスの
顔色が、また真っ青になっていく。
アンヘルカイドに首を噛まれた騎士の顔色が
どんどん真っ白になって、やせ細った顔になっていく・・・!
「ひっ!」
そばにいた、もう一人の騎士が
すぐに離れようとしたが、アンヘルカイドが
いつの間にか、騎士の腕を掴んでいて離さない!
ポイッ・・・ドサッ!
そして、血を吸い終わった騎士を
ゴミのように捨てて、腕を掴んでいた騎士を引き寄せて
「やめっ・・・!」
ガブッ!!!
ジュルルルルルルルルル!!
また首に噛みつき、血を吸い始めた!
ゴミのように捨てられた騎士の体からは
気配が消えている・・・絶命している!
「くっ! この縄を解け! 早く!」
店主が、そばにいる騎士にそう叫んでも、
騎士たちは動かない。
「キカートリックス!
早くアンヘルカイドを討て!
それが出来ないなら、この縄を解け! 俺がやる!」
店主が、キカートリックスにそう叫んだが、
キカートリックスは、また例のごとく・・・
「ア・・・アンヘルカイド・・・!?
お前、・・・毒にやられたんじゃ・・・ないのか!?」
自分が信じていた『仮説』が大きくハズれて、
再び、自分が信じていなかった
アンヘルカイドの『魔物化』という『真実』が
目の前で起きていることに、ショックを受けて・・・また呆けている。
ほかの騎士たちも、同じだ。
アンヘルカイドに駆け寄ろうとしていた騎士たちは
呆けながらも、後ずさりしているが、
この場を仕切る聖騎士が命令しなければ、
自分たちで判断して動くということはないようだ。
今、下手に店主を助ければ、
抵抗したと見なされてしまうだろうか?
ポイッ・・・ドチャッ!
オレたちが躊躇しているうちに、
2人目の騎士の血を吸い終えたアンヘルカイドが、
騎士をゴミのように捨てた!
捨てられた騎士の顔は、血の気の無い真っ白な顔色になって、
やせ細った顔になって・・・やはり気配を感じない!
・・・殺されている!
「ぷっは~~~~!
あー・・・とりあえず、のどは潤ったぜ!
しかし、男は不味いな・・・。」
口のまわりを真っ赤な血で汚しながら、
アンヘルカイドが、のそっと立ち上がる!
人間だった時よりも、明らかに、体の大きさが違う!
「ア、アンヘルカイド・・・!
お前・・・まさか・・・『バンパイア』に・・・!?」
キカートリックスが、
アンヘルカイドの変わり果てた姿を見て、そう聞いた。
すると、
「俺が『バンパイア』? ふひひっ!
おもしろい冗談を言うようになったな、キカートリックス。
俺は聖騎士だぞ? 『バンパイア』なわけないだろ!?」
ニヤニヤしながら、そう答えるアンヘルカイド。
喋るたびに、やつの口から鋭い2本の牙が見える。
なんか・・・笑い方が・・・
あの『洞窟』の奥にいた『バンパイア』と似ている気がする。
気持ち悪くて、とても不快感がある笑い方だ。
今、やつがしでかした事と
その姿からして、アンヘルカイドが何を言おうと
『バンパイア』化していることは明白なのだが、
「そ、そうだよな? お前は『バンパイア』じゃないよな?」
アンヘルカイドの言葉を聞いて、
どこかホッとしてしまっているキカートリックス。
キカートリックスは、もはや
きちんと状況を把握して、判断することができないようだ。
この場を仕切る者が、こんな状態では・・・
こちらも下手に動けない。
なんとも、めんどくさくて・・・危険な状況だ。
アンヘルカイドが、ニヤニヤしながら
「あ~・・・すっげー気分がいいぜ・・・。
チカラがみなぎってくる~。
今なら、なんでもできる気がする・・・ふひっ!
とりあえず、女だな~。
俺の本能が訴えている・・・女は格別に美味しいってな!
ふひひっ!」
不気味なことを言い出した!
そして・・・
「スン・・・スンスン・・・
あー、そこにいい女どもがいるじゃねぇか~! ふひひっ!」
アンヘルカイドが鼻を鳴らし、不気味な笑みを浮かべて、
一歩、こちらへ歩みだした!
やはり、あの『洞窟』にいた『バンパイア』と同じく、
嗅覚の能力も向上しているらしい。
15m以上離れているのに、木下たちの匂いを嗅ぎとったようだ。
アンヘルカイドの気持ち悪い視線を見て、
木下、シホ、ニュシェが身震いして、3人で肩を抱きよせている。
「ま、待て! アンヘルカイド!
そ、その体でどこへ行くんだ!?
お前は、『猛毒』で体をやられて・・・!」
キカートリックスが、そう言うと
アンヘルカイドは立ち止まって、
あからさまに不機嫌そうな表情になり、
「あー・・・キカートリックス、とりあえず、
この町の女を全員、ここへ連れてきてくれないか?」
そんなことを言い出した。
「な、なにを言い出すんだ、お前は!?
女たちをどうするんだ!?」
驚いたキカートリックスが、そう聞くと
「ふひひひっ! どうするも、何も、
今日は『謝食祭』だぜ!? 酒池肉林に決まってるだろ!
ふひっ! ふひひひひひぃ~~~!!!
気持ちいいことして、のどが渇けば血を飲み、
腹が減れば肉を食べる!!
女は、すべてにおいて極上だって、
俺の本能が言っている~!! ふひひひひ~!!」
アンヘルカイドが狂気に満ちた表情で、そう叫ぶ!
あの『洞窟』にいた『バンパイア』も、
狂った思想を持っていたが、
知性というか、教養が備わっていた気がする。
ただただ本能に従うのではなく、
理性があって、信仰心も強くて・・・
だからこそ、あんな誰もいない『洞窟』の中でも
やつは『断食』をしっかり守っていたのだ。
やつに理性と信仰心があったおかげで討伐できたわけだ。
アンヘルカイドは、どうやら、
戒律を重んじる信念が強くなかったようだ。
たぶん「聖騎士だから」という理由で
信じているふりをしていたか・・・
立場上、欲望を抑え込んでいたのだろう。
それが『魔物化』したことで、
抑え込んでいた欲望が強く出てきてしまっているようだ。
「女を集められないなら、お前は死ね!
ジジィは血も肉も不味いって、
俺の本能がそう言っている! ふひっ!」
「なっ!?」
そう言い放ったアンヘルカイドの魔力が高まった!
まずい!
オレは、すぐにキカートリックスの元へ駆ける!




