血の浸食
店主の元へと駆け寄っていた一人の騎士が、
地面に落ちた、その『ナニか』を拾う。
「え、あの・・・これは・・・『歯』!?」
「え・・・!?」
「なんだ!?」
ざわざわざわ・・・
「あっはっは! 何言ってんだ、お前?
俺の歯は、ここに・・・! あれ・・・!?」
地面に落ちた2本の『歯』を拾った騎士に向かって
笑っていたアンヘルカイドが、
自分の『歯』を確認して、笑い声も動きも止まった。
「お、おい・・・これは、なんだ!?
チクチクするのが、俺の『歯』なのか???」
「ひっ!」
アンヘルカイドに話しかけられた騎士が、
アンヘルカイドの顔を見て、小さな悲鳴を上げて、
持っていた『歯』を落として、その場から離れる!
「ア、アンヘルカイド・・・! それは・・・!?」
「っ! やはり・・・!」
そばに近寄ってきた騎士たちが離れたから、
ディーオと店主からは、
アンヘルカイドの顔がよく見えるようになったようだ。
驚いた表情になり、青ざめている。
「ど、どうした!? 何が起きて・・・!?」
キカートリックスからは、
角度的に、アンヘルカイドの顔が見えにくいようだ。
オレたちも見えにくい。
「なんだ・・・いったい、これは・・・イテッ!!」
ガララン! ポトッ・・・
アンヘルカイドが、急に痛がったと思ったら、
手から剣と本を落とし、自分の耳を触り始めた。
よく見ると、アンヘルカイドの耳が・・・!?
ざわざわざわざわ・・・!!
「え・・・おい・・・!
アンヘルカイド様の耳、とんがってきてないか!?」
「な、なんだ? よく見えない!?」
「いや、元からとんがってただろ?」
民衆たちがざわつく。
ディーオや店主、ニュシェを捕えようとしていた
騎士たちの動きが、完全に止まり、
この場にいるみんなが、
アンヘルカイドの違和感ある様子に注目している。
「ア、アンヘルカイド!?
この場での悪ふざけはよせっ!!」
キカートリックスが怒りながら、
アンヘルカイドへ近づこうとしたが・・・
「キ・・・キキキ!
キカぁトリ・・・うぐあぁぁぁぁ!!!」
アンヘルカイドが、突然、天を仰いで叫びだした!
ブチッ! バチン! ガラン! ガシャン!
「うわっ!?」
「!!!」
アンヘルカイドの上半身の装備が、
突然、はじかれるように吹き飛んだ!
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉっ!!」
叫びながら、上半身を
両手でかきむしるような動きをする、アンヘルカイド!
服が破れていく!
体から煙?が立ち昇っている気がする!?
顔から首、腕、体中の血管が、
ドス黒く浮き上がっている!!
アンヘルカイドの開いた口からは
牙のような鋭い歯が2本見えた!
キカートリックスが、後ろに飛び退き、
アンヘルカイドと距離をとった。
「そ・・・そんな! バカな・・・!
あ・・・あ・・・アンヘル・・・カイド・・・!?」
驚いた表情で立ち尽くす、キカートリックス。
そこへ、店主が走り寄っていく!
「キカートリックス!
もうアンヘルカイドはダメだ!
討伐命令を出せ!!」
「な、なにを言って・・・いる!?
なにを、討伐しろと・・・!?」
ものすごい剣幕の店主から、信じられないことを言われたためか、
敵であることも忘れて、キカートリックスは
呆けた表情で、店主を見ている。
目の前で起きていることが、
まだ把握できないのか・・・?
それとも、受け入れられないのか・・・?
「まだ分からないのか!?
俺も初めて見たが、これが『魔物化』ってやつだ!
アンヘルカイドは、『バンパイア』になっちまった!」
「え・・・? なにを言っているんだ・・・?
アンヘルカイドが・・・え?・・・え?」
店主が、目の前の出来事を
言葉として伝えているけど、それでも
キカートリックスには、まだ受け入れられないようだ。
完全に呆けてしまっている。
しかし、早く討伐しなければ・・・!
「うがぁ! 熱いっ!! 焼ける!!
俺の体がぁぁぁ・・・!! アヅ・・・イィィィィィ!!」
苦しんでいるアンヘルカイドの体が・・・
筋肉が盛り上がっていく!?
血管がドス黒く浮き上がって、
ところどころ破裂し、出血し始めた!!
ざわざわざわざわざわ!!
「くっ! 全騎士団!!
アンヘルカイドから離れろ! 退避だ!
それから、町民たちをこの場から避難させろ! 急げ!
はぁ、はぁ・・・!」
ディーオが、いち早く、騎士団たちに命令した!
英断だ!
「うわ・・・うわああああああ!!!」
「きゃぁあああああああ!!!」
ざわざわざわわわ・・・!!!
そのディーオの声がきっかけとなり、
この場にいた民衆たちが、パニックを起こし、慌てて逃げだした!
「住民を避難させろ!」
ディーオの騎士団は、
ディーオの命令に従って行動を始めているが、
アンヘルカイドやキカートリックスが率いていた
騎士団どもが、全然、動かない!
キカートリックス同様、呆然として、
アンヘルカイドの変貌ぶりを眺めている・・・!
「キカートリックス!!
お前じゃなきゃダメなんだ!!
俺やディーオの言葉では、この場は仕切れない!
早く、アンヘルカイドの討伐命令を出せ!!」
店主が、呆けているキカートリックスの
胸ぐらをつかんで、そう怒鳴っている!
しかし・・・
「う・・・ウソだ・・・!
デタラメだ・・・! そんな・・・まさか・・・!
お前の言うことは、間違って・・・!
しかし、これは・・・! そんな! そんな!
では・・・今まで・・・俺たちが討伐してきたモノは・・・
なんだったんだ・・・!?」
とうとう、キカートリックスは、
店主の手から落ちて、
力なく、その場でヒザをついてしまった。
そして、呆然としながら・・・
いや、涙を流し始めた・・・!
あの夜、あの『洞窟』でのデーアと同じ状態だ!




