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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
220/503

バンパイアの書





「ま・・・待ってくれ! キカートリックスさん!

今、『獣人族』は『バンパイア』ではないという

証拠になる文献を、調査中なんだ!」


店主の後ろにいるディーオが、そう叫ぶように言った。


「まだ、そんなことを言っているのか!

ディーオ!」


アンヘルカイドが、ディーオに向かって叫ぶ。

その表情は、ややイライラしている感情が出ている。


「ディーオ、今回、お前も査問さもんにかける。」


「!!」


キカートリックスが、静かにそう言った。

ディーオの表情があからさまに青ざめていく。

『査問』・・・ある程度の地位がある者の

不正行為を問いただすことだろう。


「これまで、お前の父親からの圧力があり、

この町を、お前に任せっきりだった。

ヴォルフの親バカが・・・その結果が、これだ!

20年前に罪を犯した『エグザイル』どもが野放しの状態・・・。

今までも『バンパイア』たちが、この町へ逃げこんで、

そのまま足取りが分からなくなっていたのも、

すべて、このシエン清春たちの仕業だってことは分かっていたんだ。」


「・・・!!」


なるほど・・・。


店主とディーオの親父さんは繋がっていて・・・

『獣人族』を『バンパイア』として裁いている

この国の事情を店主に話したのが、ディーオの親父さんで・・・。

おそらくは、ディーオも

親父さんから『獣人族』のことは知らされていたのだろう。

だから、ディーオの親子は店主をかばい続けて・・・

『獣人族』を逃がす手伝いをしていたのかもしれない。


ディーオの親父さんは、この国の間違った戒律を知りつつも、

店主の友人である『獣人族』を斬った・・・。

きっと、店主に出会う前から、戒律が間違っていると知りつつも、

従うことしかできなくて、

『獣人族』を『バンパイア』として討伐してきたのだ。

だから・・・

店主をかばっているのは、その罪滅ぼしのつもりかもしれない。


「しかし、昨日、大司教様から命令が俺たちに下ったのだ。

この町の管轄である『スヴィシェの洞窟』へ行ってから、

デーア様がおかしなことを言い始めたからな。

さすがの大司教様も、目が覚めたのだろう。

ヴォルフともども、お前たち親子を査問にかけろとの仰せだ。」


「そんな・・・父は・・・!?」


「『オラクルマディス』にいたヴォルフは

すでに大司教様に呼び出されて、大聖堂へ出向いているはずだ。

そこで身柄を拘束されていることだろうよ。

同じ聖騎士として・・・なにも思わないわけではないが、

今までが今までだからな。自業自得だ。」


キカートリックスが、そう言った。


ディーオは、青ざめてガクリと、ヒザを地につけた。

体力的にも限界がきていたところへ、

親父さんが捕まったということにショックを受けたのだろう。


「・・・ディーオ、胸を張れ!」


「・・・!」


店主が、振り向かずに

後ろにいるディーオにそう言った。


「ヴォルフとお前は、正しいことをやったんだ!

間違っていることに気づきもせず、

おかしいことに疑問も感じず、

ただただ間違い続けて、いたずらに罪のない『獣人族』を

虐殺し続けてきた、こいつらとは全然違う!

下を向くな! 最後まで胸を張れ!」


ディーオに叱咤激励をとばしながら、

店主の殺気が、キカートリックスに向けられる。

そのヴォルフとかいう、ディーオの親父さんは

店主にとって仲間・・・では無いにしても、

心を通わせた、大切な者なのだろう。


「はっはっは! 犯罪者が戯言を!」


アンヘルカイドが、あざ笑う。


「くっ・・・!」


店主に言われて、ディーオが悔しそうな表情で

剣を支えに、立ち上がる。

そして、キカートリックスをにらみつけた。


「キ、キカートリックスさん・・・。

大司教様のご命令であるならば、査問でも何でも、

このディーオ、謹んでお受けいたします。

ですが!!

『スヴィシェの洞窟』で発見された

『バンパイア』の文献の調査が、まだ途中なのです!

聖騎士として、これが最後の務めならば、

その文献の調査が終わるまで、

査問の件はお待ちいただきたい!!」


「!!」


ディーオは、そう言い放った。

なんともマジメなやつだ。

しかし、その言葉は力強くて・・・

マジメなディーオの意地を感じた。


「聖騎士の最後の務めだぁ?

笑わせるなよ、ディーオ!

こんな本の調査よりも、大司教の命令が最優先に決まってるだろ!」


アンヘルカイドが、まだイライラしながら

そう言い放った。

こいつは、本当にせっかちな性格のようだ。

心の中では、早くディーオを捕まえたいのだろう。


「まぁ、待て、アンヘルカイド。

そして、大司教『様』だ。『様』を付けろ。」


キカートリックスが、アンヘルカイドをなだめる。


「報告は聞いている。『バンパイア』の文献か・・・。

あのデーア様も、大司教様に必死で

文献の解読がどうのこうのと仰っておられたが・・・。」


キカートリックスは、悩んでいるようだ。

やつの中では、デーアのことを『様』付けで呼んでいるあたり、

大司教の娘ということで、一目置いているのかもしれない。

だが、大司教への忠誠心のほうが強いから、

デーアの報告を真実として受け入れられない・・・といったところか。


「なにを迷う必要があるんだ、キカートリックス?

ずっと親子で不正していたディーオの言うことを

真に受けるつもりか!?」


アンヘルカイドが、いきり立っている。

また『さん』付けを忘れているようだ。

いや、こいつは最初から、

ずっと、こういうやつなのかもしれない。


・・・いるよなぁ、たまに。

目上の者を敬わない失礼な若者が・・・。

敬称と敬語を使えないやつが・・・。


「だいたい、こんな薄っぺらい本、

もう、とっくに調査は終わってるはずだろ!?」


アンヘルカイドは、そう言いながら、

持っている本を、ペラペラと乱暴にめくり始めた。


「お、おい! 乱暴に扱うな!

貴重な文献なのだぞ!」


あまりにもアンヘルカイドが雑に扱うから、

本が破れないか、ディーオが心配している。


「ほら、見ろよ!

この最後のページ! あっはっはっは!」


そう笑いながら、小さい本の最後のページを

この場にいる全員に見せるように開き、

自分の頭上に、高々と掲げて見せるアンヘルカイド。


その最後のページは・・・

気持ち悪いほどに、ドス黒い色で塗りつぶされていた・・・。


あの『洞窟』の最奥部で見た地面の色が思い浮かぶ。

あれは、まさか・・・『血』か!?


「あー? なになに・・・

『我の血を舐めよ』だと~??? あっはっはっはっは!!

なんだ、このバカバカしい文章は!?

これのどこが貴重な本なんだぁ!?」


アンヘルカイドが天を仰ぎながら、バカ笑いしている。

やはり、あれは『血』なんじゃないのか!?


『洞窟』の最奥部で、『バンパイア』が言っていた。

「血を与えることで仲間を増やす」と。

だとしたら、あの本こそが、

『バンパイア』を増やす本なのでは!?


「・・・おい、アンヘルカイド!」


「あ?」


店主が、すこし怖い表情でアンヘルカイドを呼ぶ。

そして・・・


「『スヴィシェの洞窟』で『バンパイア』が言ってたんだ。

『バンパイア』は他の者に『血』を与えることで

『バンパイア』の仲間を増やせるんだと。

その最後のページに付いているのは

『バンパイア』の『血』かもしれんぞ。

それは、絶対、舐めるなよ!」


真剣に、そう忠告した。


「『血』だと!?

『バンパイア』がそう言ったのか!?

はっ! バカバカしい!

こんな汚いページ、だれが舐めるか!」


アンヘルカイドは、店主の言うことを信じていないが、

とりあえずは、『血』を舐めないでくれるようだ。


しかし・・・!


「アンヘルカイド、その本を俺に寄こせ。

俺が舐める。」


「!!?」


「は!?」


キカートリックスが、信じられないことを言い出した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 舐める? 油断の負けフラグ。なめたらあかんぜよ。 [気になる点] いちかばちかの展開になりそう。獣人族擁護派とっては、むしろ追い風か。 [一言] 最終的に見送られて出発出来れば御の字、上…
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