もう一人の聖騎士
「おう、キカートリックス! 遅かったな!」
「!?」
アンヘルカイドが、オレたちの後ろから来た
聖騎士に挨拶をした。
目の前のアンヘルカイドに気を取られていたのか、
店主が驚いた顔で、オレたちの後ろから
近づいてきた聖騎士を見た。
そのキカートリックスと呼ばれた聖騎士は、
騎士団たちに、その場で待機するように命じてから
オレたちを横切って、アンヘルカイドたちのほうへ
ゆっくりと歩いていく。
「お前が早すぎるんだ、アンヘルカイド。
俺が来るのを待てなかったのか?
それと、俺のことは『さん』付けで呼べ。」
キカートリックスと呼ばれた聖騎士は、かなり低い声で
アンヘルカイドの挨拶に答えた。
「キ、キカートリックス!」
「・・・よう、久しぶりだな、シエン清春。
俺の顔を覚えててくれてたか・・・。」
どうやら、店主とは知った仲なのか?
店主の顔が、かなり強張っている。
気づけば、店主の後ろにディーオ、
目に前にアンヘルカイド、
そして、横にキカートリックス・・・
完全に、店主一人が聖騎士に囲まれているような形になった。
ディーオは味方のようだから
完全に敵に囲まれたわけではないが・・・
戦いが始まってしまうと、店主を助けにくい立ち位置だ。
「き、清春さん!」
それに気づいたのか、オレの前にいた宿屋の店員が、
店主のそばへ駆け寄ろうとしたが、
シャキン!
「っ!!」
ジャキン!
キカートリックスが、いきなり剣を抜いて、
宿屋の店員へ剣を向けた!
宿屋の店員も素早く剣を抜いた!
そのまま店員の動きが止まる。
「お前のことも覚えているぞ、カルブ。
やっぱり、シエン清春の元にいたのか。」
「・・・!」
店員の名前は知らなかったが、カルブというらしい。
聖騎士と顔見知りだったのか。
キカートリックスの殺気を感じる。
おそらく、カルブという店員も
殺気を感じて動けない状態だ。
スラァァ・・・シャキン・・・チャキ・・・
キカートリックスが剣を抜いたことで、
オレたちの後ろに待機していた騎士団たちも
剣を抜き始めた。
まさに一触即発・・・!
「あー・・・俺たち、巻き込まれるな、こりゃ。」
少しおどけたような口調で
『マティーズ』のイヴハールがそう言いながらも、
緊張した表情で、静かに剣を抜いた。
パーティーのリーダーであるイヴハールが剣を抜けば、
当然、テゾーロも剣を抜く。
カトリーノも、すでに臨戦態勢という姿勢だ。
だが、オレは、まだ剣を抜かない。
アンヘルカイドの説得は失敗に終わったようだし、
あのキカートリックスという聖騎士は
剣を抜いた時点で、この状況を止める気がないように思える。
しかし、キカートリックスを説得できれば、
形勢が逆転して、戦いを回避できるかもしれない。
戦いは、なるべく避けるべきだ。
「さて・・・シエン清春・・・。」
キカートリックスが、宿屋の店員へ剣を向けたまま、
店主に話しかける。
「すでに、そのせっかちなアンヘルカイドに、
すべて聞いたと思うが・・・
お前を『バンパイア蔵匿の罪』で処罰する。
そこのカルブもいっしょだ。」
難しい言葉だが、『蔵匿罪』というのは、
『罪人をかくまった罪』のことだ。
「キカートリックス、お前も話は聞いてるだろ?
そこにいる少女は『バンパイア』じゃない。『獣人族』だ。」
店主が静かにそう言ったが、
「ぐはっはっはっは!」
それを聞いたキカートリックスは豪快に笑いだした。
「お前とは20年前に剣を交えたっきりだが、
20年前と同じセリフを繰り返しているようだな、シエン清春。
ならば、俺もあの時と同じセリフを返してやる・・・。
お前らが、何を言っても、どんな証拠を差し出しても、
この国の戒律で、もう決まってるんだよ。
そこの子供の容姿は、『バンパイア』。
『バンパイア』は、存在そのものが大罪。
俺たちは、『オラクルマディス神』様の教え通りに、
戒律を破った者たちに罰を与える。
それだけのことだ。」
そう、キカートリックスは言い切った。
ダメだ・・・こいつを説得できればと思っていたが、
まるっきりアンヘルカイドと同じ考えだ。
同じ『信念』を持ってるやつだ。
「その戒律が、もう少しで変わるぞ・・・!
この国中の民たちが、真実を知ったんだ。
『獣人族』は『バンパイア』ではないと。
デーアを始め、多くの騎士たちも、それを認めている。
間違いを正す時が来たんだ、キカートリックス・・・。」
おそらく店主も、説得が無駄だと気づいているだろう。
それでも・・・どうしても、言いたくなるのだ。
伝えたいと思ってしまうのだ。
「お前は間違っている」と。
「戒律が変わったなら、それに従うまでだが、
今はまだ戒律が変わっていない。
俺たちが、戒律が変わるまで犯罪者を野放しにするわけないだろ?
今までも、じゅうぶん俺たちはお前の犯罪を見逃してきた。
間違いを正すと言うのなら、
お前たちを見逃していたことが間違いだったのだ。
だから、今、ここでお前たちに処罰を下す。」
キカートリックスの声が一段と低く、
鋭いものになった。
今にも斬りかかってきそうな勢いだ。
もう、ダメか・・・。
戦いは、避けられないのか・・・。




