ゴシップ記事の真相
「さっきから聞いてりゃ、アンヘルカイド、
お前が言ってることは、すべて妄想じゃねぇか。」
「なにぃ!?」
威圧的な態度で、この場の空気が
アンヘルカイドに飲み込まれているような流れだったが、
その店主の一言で、悪い空気の流れが止まったようだ。
「俺とデーアがデキてるだの、
俺とディーオがデキてるだの、
すべてお前の妄想話だって言ってんだよ。
そんなもん、『ゴシップ記事』といっしょだ。
お前こそ、証拠を出してみろってんだ。」
・・・誰も、店主とデーアがデキてるとか言ってないんだが。
しかし、店主の言うことも正論だ。
証拠がなければ、すべてはアンヘルカイドの妄想話。
「あぁ!? 妄想じゃねぇよ!
証拠も何も必要ねぇ!
法を破っていない俺の言うことは正しい!
法を破っているお前たちの言うことは間違っている!
それだけのことだ!」
なんというか・・・デーアの時も感じたが、
盲信というのは恐ろしい・・・。
法を破っていないほうが正しい・・・か。
それを言ってしまうと、法さえ守っていれば、
何をしても正しいということになってしまう。
「法が全てではないぞ?」
店主が、そう諭すが
「法がすべてだ、バカ!
むしろ『オラクルマディス神』の教えこそが、この世の『真理』!
その『真理』に背いた者を裁くのが、俺たち騎士の務め!
俺たちの正しい行いのおかげで、この国の平和が保たれてんだよ!」
アンヘルカイドの考えは、もう曲げられない。
ここまでくると、その考えは、こいつの『信念』みたいなものだ。
デーアの時も、そうだった。
どんなに言葉を投げかけたところで、
他人の強い『信念』というのは、そう簡単に曲げられないものだ。
「証拠を見せろっていうなら、この国の平和こそが証拠だ!
俺たちのおかげで、この国が平和なんだよ!
お前たちは知らないだろうが、
今から3ヵ月前、南の町『パープスト』の近くに
『バンパイア』の村があったんだぞ!?」
「!!」
ま、まさか・・・それは・・・!
思わず、ちらりと後ろのほうにいるニュシェを見たが、
怖い顔で、ずっとアンヘルカイドを睨んでいる!
「デーアと清春が『洞窟』の奥で
討伐した『バンパイア』は、たった1匹程度だろ!?
俺たちが討伐した『バンパイア』の村には、
100匹を越える『バンパイア』どもがウジャウジャいたんだぜ!
もし、俺たちがそれを見過ごしていたら、
今ごろ、この国は平和でいられたかどうか分からねぇぞ!?」
「っ!!!」
ニュシェが震えている・・・!
怯えているからではない・・・怒っているんだ!
すごい怒気を感じる!
「あの村からガキが1匹逃げてしまうとは思わなかったが、
ディーオ、お前がいつも『バンパイア』討伐に否定的で
人数が足りないせいで、こうなったんだ!
あれから、3ヵ月、俺たちはそこのガキを必死に捜索していたんだ!
平和を脅かす『バンパイア』のガキを!
俺たちの苦労も知らないで、お前は・・・。」
やはり・・・今、アンヘルカイドが話している
『バンパイア』の村というのが、
以前、シホが言っていた『ゴシップ記事』に書いてあった村であり・・・
ニュシェの故郷だったのだ・・・。
『ゴシップ記事』は本当のことが書かれていたのだな・・・。
「・・・お前がやったことは討伐じゃない! 虐殺だ!」
オレは、そう言ってしまった。
つい、店主とアンヘルカイドの会話に割って入ってしまった。
「・・・おじさん・・・。」
ニュシェが小さな声でつぶやく。
「あぁ!? なんだ、そこのジジィ!
なんか言ったか!?」
アンヘルカイドが、オレに向かって睨んでくる。
「あぁ、お前が例の傭兵か!
たしか・・・『森のくまちゃん』だっけ?
あっはっはっはー!!」
「ぐっ・・・!」
アンヘルカイドが、オレを挑発しているのは分かっている。
それでも、恥ずかしいパーティー名で呼ばれて、
笑われると、無性に腹が立つ!
「あの『洞窟』の『ギガントベア』を『森のくまちゃん』が討伐したって!?
クマがクマを討伐って! あっはっはっは!
悪い冗談だ! こんなジジィたちが、あの『洞窟』に巣くってた
100匹ほどの魔獣たちをすべて討伐したっていうのかよ!
ウソくせぇ! それこそ、だれも討伐したところを見たわけじゃないだろ!
俺は、そんな『ゴシップ』みてぇな話、信じねぇぞ!
どうせ、お前たちじゃなくて、
ディーオとデーアが協力して討伐してきたんだろうぜ。」
「・・・。」
アンヘルカイドの言葉には腹が立つが、
魔獣討伐に関しては、あながち間違っていない。
オレたちだけで討伐できたわけじゃない。
デーアや店主がいなければ、最後まで成し得なかったことだ。
「・・・浅い男だな、アンヘルカイド。
お前は、自分が信じていること以外を否定することしかできないのか。」
店主が、ゆっくりとした口調で、そう言った。
「何とでも言え!
俺は犯罪者の言葉を信じない! それだけだ!」
しかし、やはりアンヘルカイドには響かない。
「!!」
その時、オレたちの後ろから・・・
町の入り口の方角から、また大勢の気配が近づいてきた!
振り向くと、また別の騎士団が
ゆっくりとした足並みでこちらへ向かってきている!
ざわざわざわざわ・・・
群がっていた町民たちをかきわけるように、
こちらへ向かってくる騎士団の先頭には、
青白い鎧を着た騎士がいる。
あれも聖騎士か。
白髪まじりの短髪、黒いヒゲ・・・オレと似たような歳の男か。
顔の左側に傷跡がある。間違いなく戦い慣れている顔つき。
今度こそ、見たことがない顔だ。
今さら逃げることは考えていないが・・・
「挟まれたか・・・。」
オレたちは完全に退路を断たれた!




