表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
217/502

反教権の本




「はぁ、はぁ・・・くっ・・・清春さん・・・!」


剣を止められたディーオが、

明らかに疲れ切った表情で、店主を見ている。

剣を重たそうに構えて。


「よう、ディーオ。

その様子じゃぁ、おめぇ、まだ食事してねぇな?」


店主が、挨拶しながら

ディーオの顔色を見て、そう言った。

なるほど、『謝食祭』は今朝始まったばかり・・・

朝食を食べる前に、そこの聖騎士との戦いが始まってしまったのか。

一週間の『断食』に加えて、一昨日から

あの『スヴィシェの洞窟』の調査をしていたはずだ。

だから、今は疲労困憊といったところか。


「あぁ、お前が清春!? シエン清春か!?

会うのは初めてだが、名前だけはディーオから聞いてたぜ。

なんでも、法を破り続けているのに

まったく裁かれない宿屋の店主がいるってなぁ!」


もう一人の聖騎士が、やたら威圧的に

店主へ話しかけている。

やはり、あの顔、あの体格・・・どこかで見た気が?


「あ、あの人、『サセルドッテ』の教会の前で・・・。」


オレの横にいた木下が、そう言ったので

オレも思い出した。そういえば、そうだった。

あの時は、教会の前で、一瞬だけ会っただけだったが、

相手はオレたちのことを覚えてないだろうな。


木下の言葉を聞いて、

『マティーズ』のカトリーノが


「あいつがアンヘルカイドだよ。

普段は中央の町『オラクルマディス』にいるはずだけど、

よく各地の町や村を視察、警護してるらしい。

ディーオ様は優しい方だけど、あいつは厳しい聖騎士だよ。

なんていうか、戒律を破った犯罪者には容赦がないんだ。」


そう伝えてきた。


「俺は、お前のこと、

どこかで見たことあるぜ、アンヘルカイド。

それで? これは、いったい何の騒ぎなんだ?

お祭り騒ぎにしちゃぁ、物騒じゃないか。

『サーチリング』を使ってまで、何がしたいんだ?」


店主が、2本の短剣を構えながら、

ディーオをかばうように、あの威圧的な聖騎士と対峙している。


フッ・・・


店主が『サーチ』について言及したからか、

もう目の前に、目当ての者がいるからか、

威圧的な聖騎士が『サーチ』の発動を停止した。


「ディーオといっしょで、お前まで

しらばっくれるのか!?

お前たちは、法を破り続けてるだろうが!

そこにいるガキは、『バンパイア』だ!

『バンパイア』は排除されるべき存在! 存在自体が罪!

その『バンパイア』をかばうのも罪だ!!」


威圧的な聖騎士は、店主に剣を向けて、そう言い放つ。

その言葉は、すでに店主を犯罪者扱いしてる感じだ。

今にも斬りかかってきそうな殺気・・・!

店主と聖騎士の距離は、互いの剣の間合いではないが、

ほんの一歩、近づけば聖騎士の剣が届く距離だ!


威圧的な聖騎士に「ガキ」と言われ、

オレたちの後ろにいるニュシェの耳がビクンと震えた。


「ニュシェ、大丈夫だ。」


ニュシェのそばにいるシホが、優しく

そう話しかけている。


「そうそう、大丈夫よ。

私たち『森のくまちゃん』が

絶対、あなたを守るから!」


木下も、そう話しかけている。

しかし、ニュシェの顔は・・・

小さな体を震わせながらも、あの聖騎士を睨み続けている・・・。


「ディーオ、お前が以前から、この犯罪者を放置してたのが、

俺は気に食わなかったんだ!

分かってんだぞ、宿屋『エグザイル』の清春!

お前が『バンパイア』を他国へ逃がしている犯罪者だってことは!

証拠は、そこのディーオがもみ消してたんだろうけどな!

それに、昔は、お前自身が

この国へ『バンパイア』を連れてきたって話だろ!?

どれだけ法を破り、罪を重ねてきたんだ!?

立派な凶悪犯じゃねぇか!

そこの『バンパイア』をかくまっていた

現行犯ってことで、この場で始末してやる!」


威圧的な聖騎士、アンヘルカイドは、

そう、まくしたてて、改めて剣を構えだす!

こいつは・・・もう戦いは避けられないようだ。

この国の法律、戒律が変わらない限り、

アンヘルカイドが言った言葉のほうが「正しい」ことになる。


「ま、待て! アンヘルカイド!

はぁ・・・お前も聞いただろ!?

デーア様が、あの『洞窟』の最奥部で

本物の『バンパイア』を討伐してきたという話を!

はぁ、はぁ・・・そこにいる少女は、

『バンパイア』ではない! 『獣人族』なんだ!

なぜ、分からないんだ!?

間違った法を守り、罪を重ねていたのは

私たちの方だったんだ!!」


息があがっている状態で、ディーオは

必死に、アンヘルカイドを説得しようとしている。

今の言葉からして、ディーオ自身は、

店主が言っていた通り、デーアの報告を真摯に

受け入れて、己の間違いを悔いている気がする。


しかし・・・


「お前も、しつこいな!

だから、証拠を見せろって言ってるだろ!

あんな割れた『鏡』を覗いて、

姿が映ったから『バンパイア』じゃないって!?

バカにするな! そんなもん、信じられるか!

デーアは、この清春と、あの『洞窟』から出てきたんだぞ!

デーアとこいつは仲間なんだよ!

この国に反逆する仲間だ!」


アンヘルカイドの言葉には、

あの『鏡』のことが信じられないという、

もっともな意見も見受けられたが、

中には、憶測の部分もあった。

デーアと店主が仲間で反逆者だという憶測だ。

どこをどうしたら、そんな解釈になるのか分からないが、

当事者じゃない部外者から見れば、

そういう解釈にもなるのか。


「おいおい、いっしょにいただけで仲間かよ。

しかも、反逆者扱いとは・・・

すこし横暴すぎる言い分だな、聖騎士様よ。」


店主が、短剣を構えながらも、

やんわりとした口調で、アンヘルカイドをたしなめる。

店主が戦いを回避できるように促しているような気がする。

しかし、そんな優しい口調では、

アンヘルカイドの耳に届かないようだ。


「はぁ・・・あの真実を映すという『鏡』だけでは

証拠として不十分かもしれない・・・はぁ、はぁ・・・

だから、あの『洞窟』の奥で発見された文献を、

今、解読して、調査しているところなんだ!

せめて、その調査結果が出るまで、待てないのか!?」


ディーオがそう告げた。


「文献? こいつのことか?」


そう言って、アンヘルカイドは

自分の腰からぶら下げていた袋から小さな本を取り出した。


「なっ!? お前、いつの間に!!」


ディーオが驚いた表情になっている。

つまり、アンヘルカイドが取り出した本が

あの『洞窟』の最奥部にあった本の一冊なのだろう。


「お前が教会で見せてくれた時に

返すのを忘れてただけだ。」


「それは、重要な証拠だぞ! はぁ、はぁ!

勝手に持ち出すな!」


さっきまで少し冷静な口調だったディーオだったが、

アンヘルカイドが、重要な本を

自分の許可なく勝手に持ち出したことに腹を立てているようだ。

ディーオの口調に少し怒気を感じる。


「ディーオ、お前は、これが重要な証拠だって言うが、

これは、あの『洞窟』の奥で見つかったんだろ?

デーアが言うには、本物の『バンパイア』の持ち物だって話だろ?

だったら、これは証拠じゃなくて、

俺たちの神『オラクルマディス』の教えに背くことが

書かれているんじゃないのか!?」


アンヘルカイドは、本を、まるでゴミをつまむように

数本の指で持ち、ひらひらと、わざと、ぞんざいに扱う。

あからさまな挑発だ。


「それを調査しているところだ! はぁ、はぁ!

調査が終わっていないんだぞ!

すべての文献の調査が終われば、

デーア様が言っていたことも、

清春さんが間違っていなかったことも、すべて明白になるんだ!」


まじめそうなディーオは、

アンヘルカイドの挑発的な態度に

乗せられてしまっている。

しかし、剣を構える腕にチカラが入っていないのが分かる。

ディーオの体力は限界のようだ。


それに対して、アンヘルカイドは余裕そうな雰囲気。

おそらく、こいつはさっさと朝食を済ませてきたのだろう。

もしくは・・・まじめに『断食』してなかったか?

頭が良さそうには見えないが、

もしかしたら、自分だけ腹を満たして

ディーオが朝食を食べる前に、ここの教会を訪れたのかもしれない。

だとすれば、かなりの策士だ。


「ディーオ! この清春とデーアの肩を持っているお前も、

反逆者の仲間ってことだろうが!

なに、自分だけ違うみたいなこと、ぬかしてんだ!

なにが調査だ! これをお前に任せていたら、

証拠隠蔽するか、この『反教権の本』を広めるか、どっちかだろ!」


アンヘルカイドは、どうやら

完全に、デーアのことも、ディーオのことも

信頼していないようだ。

『反教権の本』・・・つまり、ここの宗教の教えに反することが、

あの本に書かれていると思っているのか。

こうして、話を聞いているだけでも、

アンヘルカイドを説得するのは無理だと感じる。


何を言っても、どんな証拠を突きつけても、

自分が信じているモノが一番「正しい」と思い込んでいる状態・・・。

あの夜、あの『洞窟』で出会ったデーアと同じ感じだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ