聖騎士の『サーチリング』
ニュシェの答えを聞く直前に、
突如、『サーチリング』の魔法を感知した!
オレたちだけじゃなく、食堂の客たちも驚いている!
「なに、これ!?」
「うわぁ! なんだ!?」
たちまち、客たちがパニックになる!
どよめきの声は、外からも聞こえてくる!
まさか、この宿屋だけじゃなく、
町全体に『サーチ』をかけたのか!?
魔法を発動したやつの高まった魔力を感じる!
この町の教会の方角だ!
「まずいな、これは・・・!」
厨房から店主が慌てて出てきた。
「店主、これは!?」
「おそらく、聖騎士の『法術』だ・・・!
教会の方角から、この町全体に『サーチリング』をかけて
騎士団による大規模な捜索が開始される!」
この前、店主が言っていた
聖騎士が町に集まって、一斉に広範囲の『サーチ』をかけて
『バンパイア』を探すっていう、あれか!?
「しかし、今まで『バンパイア』だと思っていたのが
『獣人族』だってことは、もうこの国中に
知れ渡ったんじゃないのか!?
今さら、捜索しなくても、ニュシェがここにいることは・・・!」
「!!」
『サーチ』をかけた術者の魔力が、こっちへ移動し始めた!
「おっさんの言う通り、もうこの国中に
『バンパイア』の真相は知れ渡っていて、
ここに『獣人族』であるニュシェがいることも
おそらく、みんなが知っていることだ。
だが、昨夜の『マティーズ』の情報からして、
その真実を受け入れられない聖騎士たちがいるんだろう。」
店主が教会の方角を見ながら、そう言った。
つまり、この術者は
昨夜『マティーズ』が言っていた『大司教派』の聖騎士か?
「この町を統括している聖騎士じゃないだろうな?」
オレがそう言ってみたが、
「それは、たぶん有り得ない。
ディーオが、俺を裏切るとは思えない。
別の聖騎士が、この町へ来てしまったんだろう。」
店主は、ディーオという聖騎士を信頼しているようだが、
果たして・・・今、こっちへ向かっているのは、
別の聖騎士なのか?
ニュシェが怯えていて、獣の耳が下がっている。
木下とシホが、そんなニュシェの肩を抱いて、
守っているようだ。
「ど、どうしたらいいんだ!?」
オレは、この後の展開が分からなくて
店主に聞いてしまった。
実際、聖騎士が来たとしても、
ニュシェが『獣人族』だと分かっているわけだから、
どうすることも出来ないはずだ。
それとも・・・『獣人族』と分かっていて、
『バンパイア』として処分するつもりなのか!?
どこかの施設へ連れていくのか!?
「相手は、『サーチリング』を発動しながら、
こっちへ向かっている・・・。
おそらく、もうニュシェがここにいることを知っていて、
ニュシェが逃げても捕まえられるように
居場所を把握しながら、こっちへ向かってきてる・・・。」
店主が冷静に状況を把握している。
「つまり、逃げることは意味がないってことだよな。
だいたい、こっちには逃げる理由はないが。」
オレは本気でそう思っている。
「こっちに逃げる理由がなくとも、
あちらには逃がしたくない理由があるんだろう。」
「!!」
外の騒ぎが大きくなっている。
そして、術者の魔力がどんどん近づいてくる!
『サーチ』を発動しながら、
間違いなく、まっすぐこちらへ向かってきている!
その他に、急速にこの宿屋へ近づいてくる気配が
バタン!
「おっさんたち!」
「!!」
宿屋に飛び込んできたのは、『マティーズ』の3人だった!
「はぁ、はぁ、き、騎士団が
こっちへ向かってくるぞ!」
イヴハールが息を切らしながら、そう叫んだ。
「お、俺たち、『ヒトカリ』に向かってたら、
いきなり、はぁ、はぁ、『サーチリング』が・・・!」
テゾーロが息も絶え絶えに、自分たちの状況を伝えてくる。
「せ、聖騎士アンヘルカイドだ!
あいつが、ぜぇぜぇ、こっちに・・・!
ディ、ディーオ様が必死に止めてたけど・・・はぁ、はぁ!」
カトリーノが術者の名前を告げてくれた。
聖騎士アンヘル? なんだって?
今まで聞いたことがない名前だ。
「アンヘルカイドか!
なるほど、いかにもあいつらしいな! 分かった!
おっさん、一応、戦う準備を!」
店主がそう言って、店主の部屋へと走っていく!
戦闘準備か!
「おう!」
オレも、慌てて
2階の宿泊部屋へと走り出した!
「お、おじ様!」
呼ばれて、階段の上から
木下たちを見て
「ユンムたちは、ここで・・・待・・・機・・・。」
そう言いかけたが、木下とシホの表情は
ニュシェのように怯えておらず、
戦う意思が伝わってくる、真剣な表情だった。
そうだったな。もう仲間外れにしないんだった。
「モタモタするな! 戦闘準備だ!」
そう言って、オレは階段を駆け上がっていった!




