表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
214/501

謝食祭の朝




あれからオレたちも、すぐに寝たのだが・・・

・・・オレはあまり眠れなかった・・・。


ニュシェが先にベッドで寝ていたため、

オレたちは、また

「どうやって2台のベッドに4人で寝るか」という問題が

再び浮上してしまい、3人で話し合うことになってしまった。

木下の意見は論外にしても、オレやシホでは

頭のいい木下を論破できず、

そして、オレとシホもまた「どっちが床で寝るか」という

意見が平行線になってしまい・・・

結局、以前の夜と同じく

シホ、木下、オレ、ニュシェの順に並んで寝ることになってしまった。

しかも、今度は、オレが勝手に

床で寝ないようにと、木下とオレの腕を

ヒモで結びながら寝るという・・・

一段と寝にくいことをして、寝ることになったのだ。


当然、木下はオレを

大きなクマのぬいぐるみ代わりにして

抱き着いてくるものだから、寝苦しくて・・・。

それでいて、若い女子たちに囲まれて寝るという、

今までの人生で味わったことがない状況に、

ちょっと興奮して、寝付けなかったわけだ・・・いい歳して。


夜中の間に、何度、女房の顔が思い浮かんだことか。


幸い、翌日は馬車での移動で1日が過ぎるだろうから、

寝不足でも、かまわないのだが。


この「どうやって寝るか?」という問題は、

このパーティーで旅をする間に、何度も浮上するだろうから、

早々に、なにか解決策を思いつかねばならないな。

そうしないと、体力が回復できない・・・。

木下は、なぜかこういう問題を軽視していて

考えることもしないから、オレと同じ危機感を持っている

シホと相談して決めないとな・・・。


そう考えているうちに、オレは、ウトウトと

浅い睡眠をむさぼったのだった。




「あ、おはようございます。」


翌朝、木下が目を覚ますと、目の前に

寝不足のオレの顔があったわけだが、

木下は、特に驚くでもなく、構えるでもなく、

ごく自然に朝の挨拶をしてきた。

顔が近いのに・・・照れている自分のほうが恥ずかしく感じる。


「お、おはよう・・・。」


オレが挨拶を返すと、2人で起きた。

そこで、ようやくお互いの腕を結んでいたヒモをほどいてくれた。

別に、寝ている間にほどこうと思えば出来たわけだが、

ここまでやっているのに、俺がほどいたとなると

朝になってから、何を言われるか分からなかったから

されるがままになっていた。


「ん、おはよ・・・。」


「あぁ、おはよう。」


ニュシェも起きたようだ。

でも、まだ、どこか眠そうな目をこすっている。


「ふあぁぁぁぁぁ・・・おはよ・・・。」


「おぅ、おはよう。」


シホも、眠い目をこすりながら起きた。

シホも、まだ、このパーティーでは

ぐっすり眠れている感じではなさそうだ。

慣れるまでは、無意識に気を張ってしまうものだろう。

やはり、早々に

「どうやって寝るか?」という問題を解決しなくては。




木下が脱衣所で着替えを済ませて、

しばらくして、宿屋の店員が

オレたちの部屋へ朝食を運んでくれた。


なんだか、今まで見たことがない食事も混ざっている。

真っ赤な焼き魚、黄色いお米のご飯などなど、

今までより見た目が色とりどりになっている。

それでいて、どれも美味しい。


たしか、今日が

この国の宗教のお祭り『謝食祭しゃしょくさい』の日だ。

食べることが解禁されたから、今まで流通が止まっていた

食材がまた買えるようになったのかもしれない。


「もぐもぐ・・・。」


「・・・。」


ニュシェは昨日と同じく黙っているが、

元気よく食べている。

昨夜のうちに、こいつなりの『答え』が出たのかもしれない。


これが、ニュシェとの最後の食事かも・・・と、

この場にいる誰もが、そう思っているように、

オレたちは、ただ黙々と、美味しい朝食を食べた。




カーーーン・・・


カーーーン・・・




朝を告げる鐘の音が鳴りだした。

なんとなく、いつもより、ゆったりしていて

それでいて、いつもより多く鳴っている気がした。

お祭りだからだろうか。


朝食の時間が過ぎてから、食器を片づけるために

オレたちは、一階の食堂へ降りてみた。

朝食の時間が過ぎていても、

食堂は、いつもより多くの客で賑わっていた。

傭兵たちよりも、白い布の服を着た客が目立つ。

おそらく昨日まで『断食』していた信徒たちだろう。


ふと窓から外を覗けば、

宿屋の前の大通りには、すでに多くの通行人が歩いている。

あっちこっちのお店からは

客寄せの元気な声が聞こえてきていた。

この国に来てから、ずっと『断食』の期間だったから、

こんなに活気のある場面を見るのは初めてだ。


「おはよう、お嬢ちゃんたち。」


店主が、オレたちから食器を受け取りながら

挨拶してきた。


「それで?

ニュシェの答えは、もう聞いたのか?」


店主が続けて、そう聞いてきたので


「いや、これからだ。

答えを聞くなら、店主もいたほうがいいと思ってな。」


オレは、ニュシェをちらりと見てから、そう答えた。

オレと目が合った瞬間、ちょっと緊張した表情のニュシェ。


「たしかに、そうだが・・・。」


店主が、食堂を見ながら

そう答えていると、


「清春さん、『焼きアッカダイ』を追加だ!」


食堂から、注文の声が聞こえてきた。


「おう!」


大きくて元気な声で、それに応える店主。


「あー・・・時間がないなら、

俺抜きで先に答えを聞いてしまってくれ。

今日は『謝食祭』だから、客足が止まらない感じでな。

俺の手が空くのを待っていたら、

おっさんたちの出発が遅れちまうぞ?」


店主は、早口でまくし立てるように

そう告げると、さっさと厨房へと戻っていった。


「ふむ・・・大盛況のようだな。」


オレは、ふぅっと息を吐きながら、そう言って

ニュシェのほうへ向いた。

おのずと、木下もシホも、ニュシェのほうへ向いて、

オレたち3人がニュシェを囲む形になった。


食堂の喧騒、厨房から聞こえてくる料理や食器の音・・・

それらの騒音の中で、ニュシェの答えを聞くのは、

どうかと思ったのだが、もともと店主がいれば

ここで聞く予定だったのだ。

わざわざ2階の部屋へ戻るのも・・・

答えを聞く時間を先延ばししている気がするので、

オレは、ここで聞いてしまうことにした。


「店主不在だが、ここで

ニュシェの答えを聞かせてくれるか?」


オレが、そう言うと、

ニュシェが顔をあげて、オレの目をまっすぐに見た。

真剣な表情・・・もう迷いがない顔だ。


「あたし・・・あたしは・・・!」


その時、


「!!?」




ブッ・・・ゥゥゥン!!!




「うわっ!」


「なんだ!?」


「こ、これは!? ・・・『サーチリング』!?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ