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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
212/503

分裂する国





ちょうど、そこへ『マティーズ』の3人が

外から戻ってきた。


「お! おっさん、もう退院したんだな!」


『マティーズ』のテゾーロが、そう話しかけてきた。


こいつらとは、あの朝、『洞窟』の入り口で会ったわけだが・・・


あの日の早朝、オレが部屋にいなかったので

木下とシホは、まず店主を探した。

だが、店主まで行方不明。

騒ぎを聞きつけて宿泊部屋から出てきた

『マティーズ』の3人に事情を説明して相談した結果、

『ヒトカリ』にいる傭兵たちにも協力してもらって

町中を捜索しようという話になり・・・

5人で『ヒトカリ』へ向かったところ、

『オラクルマディス教』の騎士団が

「聖騎士デーアが洞窟へ向かったまま戻らないのでいっしょに洞窟捜索を」

という依頼をしに来ていたところに遭遇・・・。

『マティーズ』たちの傭兵としてのカンが働き、

騎士団に同行して『スヴィシェの洞窟』へ行ってみたら・・・

オレたちが穴から出てきた・・・というわけだった。


あやうく話が大きくなって、

傭兵たちによる町の大捜索になってしまうところだったが、

『マティーズ』たちのおかげで、木下とシホが

途方に暮れているところを救ってもらったのだ。


「お前たちにも迷惑をかけてしまった。

すまなかった。」


オレは、改めて『マティーズ』たちに謝罪した。


「いいってことよ。困ったらお互い様だ。

それに、おっさんは清春さんたちと『スヴィシェの洞窟』を完全攻略!

長年、魔獣襲撃に悩まされていた、この町を救った救世主だ!

こちらこそ、お礼を言いたいぐらいだぜ。

ありがとうな、おっさん!」


『マティーズ』のリーダー、イヴハールがそう言う。

なるほど、「持ちつ持たれつ」か。

いかにも傭兵っぽい感じだ。ありがたい。


「とにかく、おっさんも清春さんも無事でよかったわ。

それよりも、おっさんたちだけなの?

ほかの客は?」


『マティーズ』のカトリーノが

少し疲れた表情で食堂を見渡して、そう聞いてきた。


「あー、もう食材がないからって

食堂はさっき閉店したよ。」


シホが、言いづらそうに言った。


「えぇーーー!!!」


カトリーノが突然大きな驚きの声を上げた。


「ま、マジか・・・!」


そうして、『マティーズ』3人とも

チカラなく、その場で首をうなだれた。

3人の様子からすると、

まだ夕食を食べていなかったようだ。


「騒がしいと思ったら、なんだ、おめぇらか。」


カトリーノの声が厨房にまで届いたようで、

店主が困り顔で出てきた。


「あぁ、清春さ~ん!

俺たち、まだ食事してなかったんですよぉ!」


イヴハールが、情けない声で訴えている。

腹が空きすぎているのだろう。


「あーあー、情けない声を出すなよ・・・。

はぁー・・・仕方ねぇな。

俺たちの、まかないの食事なら残っているが食べるか?」


「食べます! 食べます!」


「清春さま~!!」


店主の提案に、すぐ反応した『マティーズ』。

さすが若いやつらだ。立ち直りが早い。


「ちっ。まかないだが、お代はいただくぞ?

こっちは残業になるわけだからな。」


店主は、そう言いながら、

まんざらでもない表情で、また厨房へと消えていった。


「はーーーい!」


『マティーズ』たちは、元気に返事していた。


「それにしても、今日は遅かったんだな?」


なんとなく、そういう話題を振ってしまった。

まだまだ傭兵としての経歴は、日が浅いオレたちだ。

傭兵として、長年やっている他のパーティーが、

どんな依頼をこなしているのか、純粋に気になった。


「あぁ、今日は、この国の中央の街『オラクルマディス』まで

荷物を届けるだけの依頼だったんだが、馬車も町も

明日の祭りの準備の為か、どこも満員でな。

配達先を探すのに手間取っちまった。」


テゾーロが溜め息まじりに答えてくれた。


「それと、町は、祭りのせいだけじゃなく、

かなり混乱してるみたいだったよ。」


カトリーノが少しまじめな顔つきで、そう付け加えた。


「混乱?」


「あぁ、あの聖騎士デーアと大司教が、

『バンパイア』について、

完全に意見が分かれてしまったらしい。」


「!!」


木下とシホが、驚いた表情になっている。

オレも驚きはしたが、予想はしていた。


「やっぱり、すんなりいかなかったか。」


いつの間にか、『マティーズ』たちの

食事を運んできていた店主が、そう言った。

やはりオレと同じく、そういう予想はしていたようだ。


「うっは! うまそーーー!」


「いただきまーす!」


イヴハールとテゾーロが、すぐ食事に手をつけた。

店主が持ってきた食事は、あのぞうすいの上に、

肉料理がぶっかけられている。

たしかに、うまそうだ。


「うん、おいし!

あ、そうそう、今や、教会と騎士団は、

『大司教派』と『デーア派』に分かれてる状態らしいよ。

まぁ、『大司教派』が圧倒的に多いらしいけど。」


カトリーノが食べながら、情報の続きを喋ってくれた。


「その『デーア派』には、過激な集団もいるらしいぜ。

未成年の『獣人族』を捕えている施設が

どこかにあるとかで、その施設の『獣人族』を

解放する運動を始めているやつらもいるって話だ。」


テゾーロが食べながら、そう話した。


オレたちが『スヴィシェの洞窟』を攻略してしまったがゆえに、

なんだか、とんでもない方向に話が進んでしまったな。

内乱に発展しそうな勢いだ。

デーアは、大丈夫だろうか・・・。


「そんな・・・じゃぁ『獣人族』は?

ニュシェは・・・?」


シホが、心配そうな表情で

『マティーズ』に聞くが、誰も即答できない。

話の内容から察するに、

戒律は、まだ改正されていないわけだから・・・

この国は、まだ、ニュシェにとって危険な国ということだ。


「ここにいる間は、身の危険はないだろう。」


代わりに店主がそう言い切った。


「なぜ、そう言い切れる?」


やけに確信があるように店主が言ったので、オレが聞いた。


「んー、まぁいいか・・・。」


少し言いづらそうにしていたが、

店主は諦めたように、説明し始めた。


「じつは、この町を仕切ってる聖騎士ディーオの

親父さんとは、昔から付き合いがある仲でな。

ディーオは、親父さんから

俺のことを大目に見るように頼まれているようだ。

そのディーオは、デーアからの

『バンパイア』の報告を疑うことなく、ちゃんと受け入れていた。

だから、ディーオがこの町を仕切っている間は、

ニュシェに被害は及ばないと思う。」


なるほど・・・


おそらく、ディーオの親父さんというのが、

過去に、店主と決闘した聖騎士であり・・・

店主の友人である『獣人族』を討伐してしまった聖騎士なのだろう。

なにかと因縁があるようだが、ぶつかり合った結果、

お互いを知って、仲良くなってしまった・・・ということか。

友人を殺された店主としては、仲良くなるまで

かなり時間がかかったのだろうと想像する。


そして、たしか店主の話では、

その聖騎士は、初めから『獣人族』と『バンパイア』の違いを知っていた。

知ってはいたが、上からの命令やこの国の戒律には逆らえない・・・。

その聖騎士の中にも、葛藤や罪悪感があったのだろうな。


店主を無罪放免にしたのは、その聖騎士なりの罪滅ぼしなのだろう。


この国の聖騎士に歯向かった店主が、

ここでのんびり、宿屋をかまえていられる理由が

これで分かったな。


そして、店主の話が本当ならば、

ニュシェは、ここにいる間は大丈夫そうだ。


そうなると・・・ニュシェが自分で今後の進路を決断しても、

この国の戒律がすぐに変わらない限り、

この場を動くことはできないということになる。

強制的に、『答え』が出てしまったようだな。

ここにニュシェを置いていくという選択しかないようだ。


「聖騎士ディーオ様のお父さんと知り合いって、マジかよ・・・。」


シホが、また驚いた表情でそう言った。

しかし、『マティーズ』の反応は違った。


「あー、なるほど・・・。

清春さんは、いろんなウワサをあちこちで聞いてるから

今さら驚かないけど、やっぱりここの聖騎士と繋がってたんですね。」


イヴハールがそう言った。

店主ほどの実力者ならば、

いろいろウワサになるんだろうな。


「ウワサといえば・・・

シエンさんに聞きたいことがあるんですが・・・。」


「ん?」


木下が、話の流れで

思い出したことを聞くようだ。


「今日、『サセルドッテ』の『ヒトカリ』へ

報酬金を受け取りに行ったわけですが、

そこの支店長さんが・・・。」





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― 新着の感想 ―
[良い点] オヤジの動くトコロ、国の有り様が変わる。 [気になる点] 内紛に引き込まれるのだろうか? [一言] 何百年も続いた災厄を断ち切った。本来なら国の教科書か絵巻物に載ってイイ。まあ、デーアが、…
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