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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
210/501

前夜祭




食堂は大盛況。満員御礼。

明日が『謝食祭』ということもあり、

まるで『前夜祭』のような賑わいを見せている。

階下へ向かったオレたちが座れる場所は、

すでにどこにもなかった。


「おい、シホ! こいつに

『森のくまちゃん』の話を聞かせてくれ!」


「おう!」


食堂へ新しい客が入ってくるたびに、シホは

顔見知りの傭兵たちに呼ばれて、あちこちのテーブルで

オレたちの活躍を自慢していた。


シホたちを連れて行かなかった、あの夜のことは、

入院中に、店主が細かく説明していたから、

木下もシホも、あの夜の『洞窟』での出来事を知っている。

それをシホは、かなり大袈裟に

他の傭兵たちに言って聞かせているようだ・・・。


話を盛り上げるのがうまいな、あいつは。


オレと木下は、シホの様子を見ながら、

食堂の奥にあるカウンターのそばで突っ立って、

飲み物だけ注文して飲んでいた。


うぅ・・・酒が欲しい・・・。

この国に来て、もう何日も経っている。

もう、何日も・・・酒を飲んでいない。

デーアのやつ、『バンパイア』の戒律改正とともに、

酒の戒律も変えてくれないだろうか・・・。


ほかの傭兵たちは、シホにばかり声をかけている。

時々、木下へ声をかけようと近づいてくる

傭兵たちもいたが、そのたびに木下が、作り笑顔のまま、

オレの腕に自分の腕を絡めてきて

ぴったりとオレに密着してくる。

そうすると、ほかの傭兵たちは

オレを見てビビり、声をかけてこないのだった。


よい『人避け』になっているな、オレは。


「お!? お2人さん、ヒマそうだな?

ちょっとの間、うちで働かないか?」


店主が汗をかきつつ、注文の品を運びながら

オレたちを見つけて、話しかけてきた。

かわいそうだが、笑えない冗談だ。


「冗談じゃない。

こうして、売り上げに貢献しているんだ。

オレたちは客だ。

なんなら、さらに食事の注文をしてやろうか?」


オレは意地悪っぽく、そう答えながら

飲んでいる飲み物のコップを掲げた。


「わ、悪かった。今のは無しだ。

これ以上の注文は、嬉しい悲鳴を通り越して

泣きたい悲鳴になる。」


オレが食べ物を注文しないと分かっていて

店主は、軽く答える。

そして・・・


「あんたたちが、ここにいるってことは・・・

あの嬢ちゃん・・・ニュシェは?」


やはり気になったのだろう。

真剣な表情になって聞いてきた。


「今、一人で部屋にいる。

ちょっと一人で考えたいようだ。」


「なるほど・・・決めかねている、か。」


別に、そこにニュシェがいるわけではないが、

オレたちの視線は、自然と

階段の上の方へ向いた。


ニュシェは、どういう『答え』を出すのか。

オレも、木下も、店主も気になる所だ。


「ところで、店主、

もうひと部屋、空いてないか?」


「悪いが、空いてない。」


「うっ!」


店主は、即答だった。

どうやら、この『前夜祭』のような大盛況で、

宿泊部屋も満室御礼らしい。


店主は、それだけ答えて、

食堂のテーブルのほうへ料理を運び始めた。


「はぁー・・・聞くのが遅かったかなぁ。」


「おじ様、別の部屋に泊まるのって

本気だったんですね。」


木下が、なぜか不思議そうに言う。


「冗談で、お金を払って

別の部屋へ泊まるわけないだろ。」


「そうですけど・・・。

てっきりニュシェちゃんを1人にしてあげる

建前かと思ってました。」


「いやいや、それは買いかぶりすぎだ。

オレは、そんな気を使える男じゃない。」


「そうでしたね。」


「ぐっ!」


自分で言っておいて、アレだが、

木下にきっぱり肯定されるのもシャクだな。


「でも、おじ様・・・。

もしも、ニュシェちゃんが、

この国に留まるという選択をした場合・・・

私たちがニュシェちゃんと過ごせる時間は今夜だけなので・・・。

今夜だけは、狭いのを我慢して、いっしょに寝てくれませんか?」


「う・・・。」


こいつがいっしょに寝たいだけじゃないのか?と

疑ってしまうが、ニュシェは、

たしかに、今夜限りで別れることになるかもしれない。


「はぁぁぁ・・・分かったよ。

まぁ、満室だからどうしようもないわけだしな。」


「床で寝るのも無しですよ?」


「えぇ?」


それは、本当に勘弁してほしい。


「おじ様は、ニュシェちゃんのこと、

どう思っているんですか?」


「ん? どうって?」


木下が、真剣な表情で聞いてきた。


「ニュシェちゃんが、

旅についてくることについて、です。」


「・・・正直言って反対だ。」


オレは迷うことなく、はっきり答えた。


「はぁ、やっぱり・・・。

おじ様なら、そう考えている気がしていましたけど。

では、ニュシェちゃんが、旅についてくるという

『答え』を出したときは、どうするんですか?」


「・・・。」


その木下の問いには、即答できなかったが、

一瞬、考えたのちに、


「その時は、本人の意思を尊重する。

大人であるオレたちが、

ニュシェを守りながらの旅になるだろうが・・・

本人が、それを覚悟で決断したのなら、

大人のオレたちも、そういう旅になることを覚悟する。」


「!・・・そうですね!」


オレの答えに満足したのか、

木下自身も、同じ考えだったのか、

木下は作り笑顔ではなく、本当に嬉しそうな笑顔になった。






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