最後の夕食
シホが泣き止み、
木下が、今回の報酬金をそれぞれに分配した。
それぞれと言っても、オレたちパーティーの取り分は、
木下に管理してもらうことにした。
『ゴールドカード』は、
この場では分配できないからだ。
店主への報酬金は、とりあえず
オレたちの旅の資金から出すことになった。
店主は木下から自分の分の報酬金を受け取ると、
さっさと階下へ戻っていった。
「本当に、忙しいようだな。」
オレがそう言うと
「あっ!」
シホがなにか思い出したような声を上げて
「そういえば、『ヒトカリ』での一件を
清春さんに聞いてなかった!」
なにかと思えば・・・。
『サセルドッテ』の『ヒトカリ』での一件のことか。
たしかに、気になるが。
「・・・。」
ニュシェは、いつもと変わらず、無言だが、
ずっと眉間にシワが寄っているから、
たぶん、今後についての『答え』を
自分で決断するために考えているのだろう。
オレたちの旅に付いてきた場合の、
イメージというものを提示してやれないのが
申し訳ないが・・・。
オレ自身は・・・
正直、こんな幼い子を危険な旅へ
連れていくのは、気が引ける。
大人として、きっぱりと「ここに残れ」と言い渡してやったほうが
こいつのためになるような気がしている。
しかし・・・高校生ぐらいか・・・。
年齢的にはまだ子供だが、
もうすでに大人としての将来の道を自分で選ぶ年頃だ。
それを自分で決めてこそ、
大人への階段を一歩ずつ登れるというもの。
その一歩目の決定権を、
大人の都合で奪い取ってはいけない・・・。
そういえば、子供たちが将来の話を
オレたち夫婦に打ち明けているときも、
こんな気持ちだったなぁ・・・。
息子・直人が『騎士』の道を選ばないのは
初めから分かり切っていたことだったが、
本人から直接答えを聞いた時は、
それなりに衝撃を受けたっけな・・・。
道を示してやりたいが、
そこをグッと我慢して、自分で悩み、迷い、決める様子を
見守ることに徹する・・・親の気持ち・・・。
・・・本来なら、ニュシェのこの姿を、
ニュシェの親たちは見守ってやりたかっただろうな・・・。
その後、もう夕食の時間となっていたので、
オレたちは、店主の計らいで、
宿泊部屋まで食事を運んでもらった。
シホの好物である唐揚げに、ぞうすい、
焼き魚、あとは良く分からない肉の料理だが、
とにかく、どれもうまい。
店主を含めたオレたちの活躍は、すでに町中に広まっていて、
まだ宿屋の2階は修理中なのに、食堂は大盛況のようだ。
・・・ここへ食べに来る傭兵たちは、
この国の信徒ではないから、『獣人族』のニュシェを見ても
大きな騒ぎにはならないと思うが・・・
傭兵の中には『元・信徒』だったやつも
たまにいるらしいから、やはり騒動にならないとも限らない。
店主の配慮だ。
「今夜は傭兵たちだけだが、
明日は、いよいよ『謝食祭』だから、
今日よりもっと満員になるだろうな。」
シホが、なんだかわくわくしているような表情で、そう言う。
シホは今、装備を外しているから表情がよく分かる。
どうやら『お祭り』が好きらしい。
わくわくしているシホをよそに、
ニュシェは
「・・・。」
ただ黙って、目の前の食事を食べていた。
そのニュシェの気持ちを察しているかのように、
木下も、ほとんど喋らずに食べている。
「あー・・・
明日、ここを出発するとして、
次の町は、どこなんだ?」
オレは沈黙に耐えかねて、
木下に、そう聞いてみた。
「明日は、馬車に乗って『サキエ』という村へ行きます。
そこで乗り継いで、さらに東の町『シュバリ』へ。
明日は、そこで宿泊ですね。」
聞いたことがない町や村の名前が
すぐに木下の口から発表された。
「へぇー、国の中心である『オラクルマディス』は
避けて通るのか?」
それを聞いていたシホが、口を挟む。
「えぇ、最初から『オラクルマディス』は避けて通る予定でしたが、
明日は特に『お祭り』で、混雑が予想されますので、
『オラクルマディス』を避けて東へ向かいます。」
「あー、たしかに。明日は馬車すら満員かもなぁ。」
木下が、もっともらしい理由を述べる。
実際は、オレたちの旅が
『特命』を帯びた隠密の旅であるから、
国のお偉いさんや人がたくさん集まるような
中心となる場所を避けて通る。
・・・すでに、聖騎士デーアに接触してしまっている時点で、
避けて通ることに、それほど意味がないように感じてしまうが。
「・・・。」
会話はそこで途切れてしまった。
オレたちは、そのまま食事を終えた。
食後、シホが食器を階下へ運ぶと言い出して・・・
そのまま階下へ行ったきり、戻ってこない。
騒がしいシホの声が聞こえてくるあたり、
たぶん、ほかの傭兵たちと喋りあっているのだろう。
オレは、シホのことが気になるのもあるが、
今夜こそ、木下たちがもめないように
オレ一人の宿泊部屋を用意してもらうため、
店主へ会いに、階下へ向かおうと思った。
部屋を出て、ドアを閉めようとしたら
木下も部屋を出てきた。
「ちょっと、一人で考えたいそうです。」
「そ、そうか・・・。」
おそらく、オレたちが気を使っているのが
伝わってしまっているのだろう。
ニュシェは、一人の時間が欲しいと言って、
木下も部屋から追い出したようだ。
オレたちは、ニュシェを部屋に一人残し、
階下へ向かった。




