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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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異例の報酬金と昇格





昼食後、オレたちは『ヒトカリ』へ行った。


ざわざわざわざわざわっ・・・!!!


すぐさま、依頼掲示板の前にいた傭兵たち数人が、

驚きの声をあげていた。

窓口にいた女性も、オレたちの姿を見た途端に

すぐに後ろのドアへ入っていってしまった。

おそらく、あのヒゲの支店長に知らせに行ったのだろう。


「すっかり、俺たちも有名人だなぁ。」


シホが嬉しそうに言うが、

オレとしては隠密行動中で、とてもよくない状況なのだが。


ガチャ!


すぐさま、窓口の左側にあるドアが開かれ、

女性事務員が手招きしてくれた。


『サセルドッテ』の『ヒトカリ』の事務室へ通されたオレたち。

そこには、すでにイスに座って、ふんぞり返り、

ヒゲが千切れるのではないかというぐらいに

指でヒゲをクルクルしている、支店長がいた。

ものすごく、不機嫌そうな顔をして、オレたちを見ている。


・・・そういえば、こいつの名前、なんだっけ?


「うわぁ、なにあのヒゲ・・・初めて見たけど、

ウワサ以上に気持ち悪い男だな、ポール・・・。」


シホが小声で、オレたちにだけ聞こえるように

ボソっと、そう言った。

あぁ、たしかに・・・そういう名前だったな。


その、ポールが座っているイスの前には、

テーブルがあり、小さな紫色の袋が置かれてあった。


「・・・。」


「?」


オレたちが、目の前まで来ているのに、

ポールは、なかなか喋り始めようとしない。


「こんにちは~、地方の支店長さん?」


「んぎっ!!」


「ぶはっ!」


オレは、思わず吹き出してしまった!

ポールの出方を待っていたのだが、

木下の方から、とんでもない挨拶を始めてしまった!

木下・・・根に持つタイプだな。


ポールのヒゲを触っていた手が止まり、

表情が明らかに、怒りの顔になった!

怒気を感じる。


「では、ご報告いたします。

私たち『森のくまちゃん』は、

無事に『スヴィシェの洞窟』の魔獣すべてを

片づけて参りました。

『プロペティア』の騎士団から、確認のサインも

この通り、いただいております。」


そう言って、木下は

今回の依頼書を、ポールに開いて見せた。

そこには、この国の騎士団のサインが入っている。


それを見ている、ポールの目が

少し血走っている・・・。


しかし、


「・・・ふぅ。それは、お疲れさまでした。」


ポールの表情が、急に穏やかになった。

なにか諦めたような溜め息も出ている。


「報告は、すでに『ヒトカリ』の

『プロペティア』支店から受けております。

ちなみに、『プロペティア』の教会から、

なぜだか知りませんが、あなたたちへの報酬金の

増額要請が届いております。」


「ぞ、増額要請!?」


シホが驚きの声を上げた。

オレも驚いた。

聖騎士デーアの差し金か?


「はっきり申し上げて、これは極めて異例のことです。

この国『レスカテ』の教会側はいつも

『ヒトカリ』に対して否定的であり、非協力的であったのに。

これは、ひとえに・・・くっ!」


そこまで言って、ポールは、

またヒゲを指でクルクルさせ始め、

顔は、怒りで赤くなってきている。

なにかに耐えている表情だ。


おそらくは・・・屈辱。


「・・・あなたたちの活躍のおかげなのでしょうね。

この袋の中に、前回の『レッサー王国』での依頼達成報酬金、

および、今回の『スヴィシェの洞窟』の依頼達成報酬金、

さらに・・・教会側からの報酬金増額分が、入っております。」


ポールが目を閉じながら、

屈辱感に耐えて、建前の言葉を連ねている。


きっと、言いたくない言葉だったのだろうな。

オレたちが依頼失敗して、泣く泣く

依頼取り消しに来るのを待っていたはずだ。

その時には、「ほれ見たことか!」みたいな言葉を

用意していたのだろう。


「さらに、あなたたちには、

異例中の異例ですが・・・

傭兵ランク『A』の紋章を授与いたします。

すべて、この袋に入ってますので、

どうぞ・・・お納めください・・・。」


苦虫を噛み砕いたような表情で、

ポールは、そう言った。


「あ、ありがたく受け取らせていただきます。」


オレは、そこまでして悔しがっているポールが、

なんだか、かわいそうな気がしてきて、

謙虚な態度で、テーブルに置いてあったそれを受け取った。


木下が、オレから紫色の袋を横取り、

すぐさま中身を確認し始めた。


「・・・待ってください。

シホさんの分の紋章が入っていませんが?」


「え?」


オレは驚いて、木下が持っている袋の中身を

覗こうとしたが、木下が、すぐに袋の口を閉じてしまった。


「・・・あ~、それがなにか?」


ポールの表情が、沈んだ表情から

急に、普通の顔色になってきた!

こいつ、まさか!?

ぜんぜん、懲りてない!?

さっきまでのは演技だったのか?


「シホさんは、うちのパーティーの新入りですが

今回の依頼達成の功労者です。

彼女の分の紋章を、渡してください!」


木下が強い口調で、そう言った。

もう少し穏やかに言えないものだろうか・・・。


「それは~・・・出来かねますね~。」


ポールの表情が、完全に、

気持ち悪いほどに、明るい表情になった。

こいつ、初めから、

こうなることを予測していたな?


「あなたたちが、この依頼を引き受けた時、

あなたたちパーティーは2名でした。

依頼の遂行中に、仲間が増えたのであれば

わたくしたち『ヒトカリ』に申請していただかないと

困るのですよ・・・。

依頼遂行中に仲間が増えたのか・・・それとも、

不正して、ランクアップと報酬金が欲しいがために、

依頼達成後に仲間入りした傭兵かもしれないし。

いかに情報が速い『ヒトカリ』でも、

申請されてないと、分からないものですから~ねぇ?」


ポールが、気持ち悪くニタリと笑った。

・・・むかつく、したり顔だ。

さっきまで、かわいそうだと思っていたオレがバカだったな。


「くっ・・・『ヒトカリ』の契約書の第43条・・・!」


今度は、木下がそんなことを言いながら、

悔しそうな表情になった。

契約書を読んでいないオレには、さっぱり分からないが、

どうやら、依頼を引き受けた後に、仲間を増やすには

『ヒトカリ』への申請が必要だったらしい。


「あ、あの、ユンムさん、俺はいいよ?

俺は補助してただけだし、実力がないのに

ランクだけ上がっても困っちゃうし・・・。」


シホが遠慮がちに木下をなだめる。

まじめなシホらしい言葉だな。


「補助も立派なチカラです! 実力です!

補助がなかったら、おじ様だけでは

討伐できなかったかもしれないんですよ!」


木下が真剣にそう言った。


「たしかに、そうだな。」


それにはオレも同感だった。

補助は、要らないチカラではない。

補助があって助かったのは事実だ。


「受け取るものを受け取ったのなら、

あなたたち、もうお引き取りいただいて結構ですよ?

わたくしたちもヒマではないのでねぇ?」


ニタニタ笑いながら、

オレたちに帰るように促すポール。

腹立たしいが、契約書にそう記載されているならば、

いくら頭のいい木下でも、これを打破する

良案は思い浮かばないだろう。


「まぁ、いいじゃないか。

シホ本人もこう言っているわけだし。

き、ユンムが、どうしても納得いかないなら、

『プロペティア』の宿屋に戻って

店主に相談してみようじゃないか。な?」


ビクンッ


「・・・!?」


オレは、木下をなだめながら、

ここから、立ち去ろうとしていた。


「そうだよ、ユンムさん。

報酬金は、たんまりもらったんだろ?

『エグザイル』に戻って、美味しいもの頼もう!

みんなで依頼達成祝いしようぜ!」


シホが、もう気持ちを切り替えて

木下に笑顔でそう言った時、


「エ、エグザイルぅ~!?」


突然、ポールが素っ頓狂な声を上げて、

事務室にいた全員が、ポールを見た。


「な、なんだ!?」


オレたちもびっくりした。

注目の的になったポールは、さっきまでの

ニヤニヤした顔が、ウソのように・・・

顔面蒼白・・・今にも息絶えそうな顔になっている?


「???

あー、ポール殿も知っているのか?

宿屋『エグザイル』・・・。」


ガタガタガタガタガタガタガタガタ・・・


オレが、そう聞いた瞬間に、

ポールの体が震え始め、大量の冷や汗が噴き出し、

歯をガタガタ鳴らし始めた。

なんだ、こいつ・・・!?

尋常じゃないぞ?


「はっは~ん・・・ふふふっ。」


木下が、何か分かったようだ。

悪そうな、不敵な笑みを浮かべて


「宿屋『エグザイル』、とってもいいお店ですよねぇ?

私たち、今、そこの店主に、

と~~~っても、お世話になっているんです。

今回の討伐依頼の件でも親身になって

相談に乗ってもらったんですよ~?

店主さんの名前は、たしか~・・・。」


「あぁ・・・いや・・・いやぁ・・・!」


ポールが、うわごとのように何かをつぶやき、

恐怖に引きつった顔をしている。


「シエン清春さん!」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」


ガタァァァン!


その名前を、木下から聞いた瞬間、

ポールが絶望した表情で絶叫し、

イスから転げ落ちて、地面に伏して泣き始めた!


騒然とする事務室内・・・。


このポールの表情と態度を見れば

木下じゃなくても分かる。

これは・・・何か過去にあったようだな。


あの店主、いったい何をしたんだか・・・。




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