おっさんたちの入院
オレたちは、騎士たちに支えられて、
無事、『プロペティア』の町へ戻った。
騎士たちの、傭兵であるオレたちへの態度が、
変化したのが、一番驚きだった。
カーーーン・・・
カーーーン・・・
今朝も町には、静かな鐘の音が響いていた。
オレたちの活躍と、デーアの宣言は、
瞬く間に町中に広がった。
聖騎士デーアも疲れ切っているだろうに、
すぐに騎士団を率いて、『レスカテ』の中央の町、
『オラクルマディス』へ向かっていった。
父親・・・この国の王様みたいな存在、大司教に
今回の件と『戒律』について、話し合うのだと言っていた。
信仰心の塊のような親だったなら、
たぶん、すんなりと話は通らないと思う。
・・・うまく話が進めばいいが。
デーアがいない間、この町の聖騎士ディーオが、
騎士団を率いて、『スヴィシェの洞窟』の大捜索をする
という話になったようだ。
その捜索が終わるまで、またしばらく、
あの『洞窟』は、立ち入り禁止になるらしい。
あの『洞窟』の最奥部、『バンパイア』のミヒャエルがいた
場所には、たくさんの本が散らばっていた。
店主の魔法やデーアの『法術』で、
それらが焼却されていなければいいが、
あの本を回収し、調べれば、
『バンパイア』のことが分かるかもしれない。
・・・ただ、ミヒャエルの思想に触れて、
ほかの信徒が感化され、その本を悪用しなければいいのだが。
・・・まぁ、これは余計な心配だな。
無事に、すべてが解決に向かっている気がするが、
年寄りのオレは、ついつい余計な心配をしてしまうようだ。
「聞いてますか!? おじ様!?」
ここは、病院の一室。
オレと店主は、町へ着いてから
そのまま町の中央にある病院へ入院となった。
店主の肩の傷は、幸いにも骨に異常はなく、
オレが渡した回復用の薬が早めに効いたらしい。
魔力不足も、病院へ着いてから
魔力回復用の薬を飲んだので、回復できたようだが、
体力の疲労がひどかったため、1日だけ入院ということに。
オレのほうも、肩、足、脇腹を診てもらったが、
骨や内臓に異常はなかったようだ。
ただ、腰のほうは・・・
ちょっと軽い『ぎっくり腰』らしい。
1日ぐらいは安静に、という話になった。
「もう、そのくらいにしといたら、どうだ?
俺もおっさんも、一応、怪我人だからなぁ?」
あの『洞窟』の入り口から、この病院の一室まで、
そして、今もなお、ずーーーっと、
木下にクドクドとお説教をくらっている、オレ・・・。
同室のベッドで寝ている店主が、
やんわりと木下を止めてくれた。
「まだまだまだまだ、言い足りません!
私たちが、どれだけ心配したことか!」
木下は、『洞窟』の入り口で会ってから、
怒ったり、泣いたりを繰り返しながら、
ずーーーっと・・・怒っていた。
おそらく、本当に心配してくれたのだと思う。
木下の『スパイの任務』や
『ソール王国』の『特命』の件を抜きにして、
本気で心配してくれたのだと感じる。
「ユンムさん、ここは病室だぞ?
静かにしなきゃ、おっさんが回復しないうちに
病院から追い出されちまうぜ?」
シホも、木下を止めてくれた。
しかし・・・
「でも・・・ユンムさんの気持ちは、
すごーーーく、よく分かる!
俺も怒ってるんだからな、おっさん!」
そう言って、木下と同じように、
シホもオレを睨んできた。
「すまなかった・・・。」
オレの言える言葉は、これに尽きた。
最初から最後まで、ずっと、
この一言しか言っていないのだが・・・。
木下たちの気持ちは、一向におさまらない。
「おっさんのことも心配だったけど、
何よりも・・・置いて行かれたことのほうが
ショックが大きいぜ。
戦力外だって宣告されたのと同じだからな。」
シホは寂しそうに、そう言った。
木下も寂しそうな表情になっている。
「・・・。」
それに関しては、何も言い返せなかった。
「違う」と否定することは簡単だが、
オレが単独で討伐に行った時点で、
何を言っても、今さらなのだ。
言い訳をさせてもらえるなら、
2人を危険な目に遭わせたくなかったのだが、
それは、結局、戦力外だと言っていることと同義になる。
「実際、あんたたちのパーティーの中では
おっさんの実力が、1人だけズバ抜けている。
この国での魔獣討伐となれば、
お嬢ちゃんたちでは、荷が重いのは事実だろう。」
「・・・。」
店主が、助け船を出さずに、現実を突きつけた。
静まり返る病室。
「でも、おっさん、あんたは
ちゃんと話し合う必要があった。
2人の実力の話や、あんたの考えを、
めんどくさがらずに、話さなきゃならなかったんだ。
パーティーへの無断単独行動は、
パーティー解散の危機を招くぜ?」
そして、店主は、オレにも忠告してくれた。
それは・・・言われても仕方ないことだった。
そして、オレがそれを怠ったせいで、
そのめんどくさいことを後回しにしてしまったせいで
いつの間にか、店主にも迷惑をかけてしまっていた。
「・・・すまなかった。」
オレは、店主にも同じ言葉で返答した。
もちろん、オレに非がある。
しかし、誰にも話せないという内情が、
このパーティーには存在している。
オレも、『ソール王国』で、騎士団の一員として、
団体行動のなんたるかは分かっているつもりだ。
団体に属する者として、無断の単独行動など、もってのほかだ。
そのまま除名処分になるのが妥当だ。
しかし・・・木下が、普通の王様秘書であったなら、
もう少し、お互いに腹を割って話し合えたと思う。
・・・それとも、オレが頑なに、
木下を信用していないだけなのだろうか?
自分としては、少しずつ歩み寄っているつもりだが。
木下の寂しそうな表情を見ていると、
壁を作っているのは、オレだけなのかもしれないと
思えてくる・・・。
「・・・うーん。」
同じく、同室で入院となったニュシェが、
隣りのベッドで寝返りをうった。
ニュシェのほうは、怪我もないのだが、
昨日から何も食べていなかったのと、
不眠不休で逃げ回っていたから、体力の疲労のため
オレたちといっしょに1日だけ入院ということになった。
病院食の味の薄い朝食を食べた後、すぐに眠ったのだった。
木下が、そっとニュシェの頭を撫でている。
その木下の横顔を見ながら、
オレは店主の言葉を、しっかり受け止めて
反省し・・・そっと目を閉じたのだった。




