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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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聖騎士の誓い




『スヴィシェの洞窟』・・・その最奥の道から

約5kmを戻り、『洞窟』の入り口付近へ辿り着いた頃には、

すでに朝陽が昇っていた。


入り口へ続く、まっすぐな道へ外からのまぶしい朝陽の光が、

『洞窟』内へ射し込んできている。


夜のうちに宿屋へ帰るつもりが、

朝を迎えてしまって・・・

すでに頭の中では、木下とシホの怒った顔が思い浮かぶ。


しかし、オレたちは、

すんなり『洞窟』から出られなかった・・・。


・・・外に気配があったからだ。


慌てて、魔獣たちの死体の陰に隠れて

外の様子を探ってみたら、ざっと10以上の気配・・・

動きからして、人間らしかった。


もしかしたら、騎士団かもしれないと思い、

そこで、気絶していたデーアを起こしてみた。


目が覚めたデーアは、最初こそ、

不安そうな表情で、記憶を思い出している感じだったが、

そのうち、とても穏やかな表情になり・・・

『洞窟』の最奥部で起きたこと、見たこと、聞いたこと、

すべてを受け入れて、悟ったような、そんな目をしていた。


そして、


「外の連中は、おそらく、騎士団だろう。

私の帰りが遅かったから、心配して

様子を見に来てくれたのだと思う。」


という予想を述べてくれた。


ただ、その予想が当たりの場合、

困るのは、ニュシェの存在・・・。


いっしょに、このまま出て行って

ニュシェが捕まるのは困ると

デーアに言ってみたが・・・


「私が責任をもって、私が体験した『真実』を

この国中に伝えようと思う。聖騎士の名に懸けて・・・。」


彼女は、力強く、そう約束してくれた。

『洞窟』内ではニュシェを見て、目の色を変え、

襲い掛かってきたデーアだったが、

もう本当に『真実』を受け入れたようだ。


オレたちとしても、疲労困憊の状態だから

ここで騎士団と戦うことになった場合・・・

とてもじゃないがニュシェを守れない。


オレたちは、

デーアの言葉を信じることにして、

『洞窟』の外へ出てみた。




案の定、外には騎士団が10人以上、待機していた。

『ヒトカリ』の傭兵たち数名も来ていて、

その中には、木下とシホ、そして『マティーズ』の3人もいた。


・・・当然、木下とシホの表情が

その場では、一番怖かったので、

とてもじゃないが目を合わせられなかった・・・。


ニュシェの姿を見て、一同が騒然となった時に、

デーアが、声を大にして宣言した。


「彼女は、『獣人族』である!

本物の『バンパイア』は、この『スヴィシェの洞窟』の

最奥部で、私たちが発見し、この『獣人族』である彼女が

加勢してくれたおかげで、無事、討伐できた!」


・・・と。


聖騎士であるデーアが、そう宣言しても、なお、

一同は信じがたい『真実』のようで、

ずっと騒然としていた。


木下とシホだけが、明るい表情になっていた。

聖騎士であるデーアが、ニュシェを『獣人族』だと

認めてくれたことが嬉しいのだろう。


デーア自身も、直接、『真実』を目の前にして

それを受け入れるまでに、

相当なショックと葛藤があったのだから、

実際に、本物の『バンパイア』に遭っていないやつらは、

デーアの言葉だけでは信じられないだろう。


「ニュシェ、拾ってきた鏡の破片、出してくれ。」


オレは、ニュシェにそう指示した。


ニュシェに、デーアが割ってしまった、

例の鏡の破片を拾わせて、布に包んで持ち帰ってきた。

割れた鏡が、『魔道具』としての効果を

発揮できるのかは分からないが、

割れても、一応『国宝』らしいし・・・

破片からは、まだ微量ながら魔力を感じる。


布から取り出した鏡の破片を見せても、

みんなの態度は、変わらなかった。

どうやら、『国宝』である鏡は、

はるか昔から持ち出し厳禁であり・・・

つまり、鏡の存在自体、一般の騎士たちや信徒たちには

伝えられていなかったわけだ。


「憶測だが、たぶん、『獣人族』を

『バンパイア』に仕立て上げた頃に、

この鏡は封印されたんだろうな。」


店主が、そう言った。

その憶測に、オレもうなづいた。

『バンパイア』であるミヒャエルが知っていたくらいだから、

大昔から、鏡は『バンパイア』を発見するのに重宝したはずだ。

それを、わざわざ『国宝』に指定して

誰の目にも触れない場所に保管してしまうのは、

誰にも使わせないため・・・と、今なら思う。


バラバラに割れている鏡に、

『魔道具』としての効果が残っているのか?

疑問ではあるが、少し破片を合わせて、

とりあえず、鏡の形を整えて、

それをニュシェが覗き込む。


「ん。」


割れた鏡に、ニュシェの姿が普通に映る。


「・・・ただの鏡じゃないか。」


そんな声が、聞こえてきそうだったが、

すかさず、デーアが大きな声で

この割れた鏡の効果を、みんなに説明した。


「この鏡に映らないのが本物の『バンパイア』だ!

私は、確かに、鏡に映らない『バンパイア』を見てきた!

よって、この鏡に映った彼女は『バンパイア』ではない!」


はっきりと胸を張って、そう言い放ったデーア。


「・・・。」


まだ信じられないやつらもいれば・・・

明らかに青ざめた顔のやつらもいた・・・。

中には、その場でヒザをついて、泣き崩れる者が出始めた・・・。


デーアが『真実』を聞いた時と同じ反応だった。


・・・こいつらは、今まで、

どれだけの『獣人族』を討伐してしまったのだろうか・・・。


ただ、こいつらは相手が『バンパイア』だと

信じ切って、任務を果たしただけなのだが。


・・・信仰心は、人を強くし、支え、

生きる原動力と成りえる一方で、

疑うことなく、罪悪感を抱かせることなく、

人を狂わせることもある・・・。


なんとも、ひどい・・・悲劇だ。


「・・・このことは、父上に・・・

大司教様にご報告し、この『レスカテ』全土に知らせる!

私たちは、もう・・・間違いを犯さない!」


そう言い切ったデーアは、

ニュシェに向かって、片ヒザをつき、

剣を地面に置き、深々と頭を下げた。

その姿は、騎士として、主に忠誠を誓う姿勢、

または、相手に敬意を払う姿勢だ。


「え・・・あの・・・え・・・?」


戸惑うニュシェ。


やがて、デーアにならって

ほかの騎士たちもニュシェに向かって

敬意を払う姿勢をとる。


そして・・・


「私たちは、間違った国の法に従い、

キミの一族を虐殺してしまった・・・。

今、ここで、どんなに謝罪しても、

私たちの愚かな大罪は、到底許されるものではない。

だから・・・私は、ここで、キミに誓う!

今後、私たちは、『獣人族』を傷つけない!

絶対、傷つけさせない!

決して・・・二度と、

キミたちを傷つけないと、ここに誓う!!」


デーアが、そう宣言した。

最後は、涙声になっていた。

たとえ、国の決まり事だったとしても、

それを疑うこともなく、否定することもなく、

剣を振ってしまったことを・・・

多くの罪なき者の血を流してしまったことを、

深く後悔し、反省しているのだと感じる。


「俺もだ!」


「俺も!」


「私も誓う!」


デーアの言葉のあとに続いて、

騎士たちが、ニュシェに誓いだした。

デーアといっしょに泣いている者もいる。


「・・・え・・・え・・・。」


まだ、戸惑っているニュシェだったが、

そのうち・・・


「・・・え・・・ふぇ・・・!

あぁぁ・・・わあぁぁぁぁぁぁ・・・!!」


大声で泣きだし、その場に座り込んだ。


そっと、木下やシホが駆け寄り、ニュシェを抱きしめた。

木下も泣いているようだった。


ニュシェの、その感情は、なんなのだろうか。

「今さら謝られても」という怒りか?

今さら、そう言われても家族や仲間は帰らないという、悲しみか?

それとも、これからは隠れて生きなくて済むという、喜びか?

きっと、ニュシェ本人にしか分からない感情だろう。


しかし、ニュシェの泣き顔を見ていると、

オレの中にも、グッと込み上げてくるものがあった。


「・・・終わったな。何もかも。」


その様子をオレといっしょに見ていた店主が、そう言った。

いや、それは店主の独り言だったのかもしれない。


「これで・・・約束を果せたか。

友よ・・・。」


ザザザァ・・・


店主が、なにかつぶやいて天を仰いだ。

しかし、山の風が木々をざわつかせたので、

オレには聞こえなかった。






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