熱気と冷気
店主が、迫りくる魔獣たちに向けて
手をかざし、魔力を高めていく!
少し早口の魔法詠唱が始まった!
「わが魔力をもって、炎の大波よ、うなれ・・・!
眼前の敵をすべて飲み込み、滅せよ・・・!」
この魔獣たちには、ちょっとぐらいの
火の魔法は効かないと思うが、
知識に長けている店主なら、おそらく
魔獣たちに通じるぐらいの上級魔法なのだろう。
「ふぅぅぅぅぅ・・・すぅぅぅぅぅ・・・。」
オレは、とりあえず呼吸を整えて、
体内の『氣』に集中しておく。
いつでも、竜騎士の技が使えるように。
「う・・・う・・・。」
オレたちの後ろでニュシェが怖がっている。
怖いだろうな、この光景は・・・。
「・・・。」
デーアは、戦意喪失したまま、
地面を見つめて、座り込んでいる。
こいつも、聖騎士ならば
『プロペティア』の町にいる、あの長髪の聖騎士と同じく
それなりの実力があるはずだ。
生きる気力を取り戻して、加勢してくれると助かるのだが・・・。
「ウキャキャキャキャー!」
「ゴッホッホゥ!」
「ガァァァ!」
魔獣たちが、ついに10m先まで迫ってきた時、
「フラム・バーン・ウェイブ!!!」
ゴォッ!!!
「あっつ!!!」
店主の魔法が発動!
突然、オレたちの目の前に、
高さ10m以上の真っ赤な炎の壁が立ち昇った!
ドドドドドドドドッ!!!
その炎の壁が、地響きを起こしながら、
横幅を広げて、魔獣たちのほうへ向かっていく!
まるで、炎の波が、魔獣たちを飲み込んでいくように!
「ガ・・・!!」
「ギャァァァ・・・!!」
「ギャ・・・!!」
避けることも逃げることもできず、
迫ってきていた魔獣たちは、次々に炎の波に飲まれていく!
さらに、店主が魔力を高めながら魔法を詠唱する!
「わが魔力をもって、白銀の旋風よ、駆け廻れ・・・!
すべての命を凍てつかせ、刈り取れ・・・!」
魔法の連続詠唱・・・
たしか、魔力を一気に大量消費する荒業だ。
魔法の威力からして上級のはずだから、
ここで魔力を使い切る勢いで、
一気に大量の魔獣たちを倒すつもりなのだろう。
炎の波に飲み込まれた魔獣たちの気配が、
2~3体は消えたようだが、
やはりこの魔獣たちは獣のくせに
火に耐えうる体らしい。
もしかして、魔獣たちの身体能力は、
『バンパイア』の血で向上しているのか!?
「ギャッギャッギャッ!」
「ゴガァァァァ!」
炎の波の中から、続々と魔獣たちが姿を現す!
あれを乗り越えてくるとは・・・!
そこへ店主の連続魔法が発動する!
「シルヴァ・アイス・フォボス!!」
オレたちの目の前に、真っ白な雪の結晶が
キラキラと漂い始めたかと思ったら、
ビュオォォォォォォォ!!
店主の手から突風が吹き荒れ、
雪の結晶が、大規模な吹雪となって
魔獣たちに降り注いだ!
「ガッ!」
「ギャッ!」
パキッ! バキバキキッ! パキンッ!
炎の波を通過してきた魔獣たちが、
一瞬にして凍っていく!
炎で熱された体を、急激に凍らされた魔獣たち!
うまい! きっと、これならラクに倒せる!
「よし! 今だ・・・! ぐっ!」
ガクン
「!! 店主!?」
店主は、走りだそうとしていたが、
体勢を崩して、片ヒザを地面につけた!
「くっ・・・魔力を出し切った・・・!
すまんが、頼めるか?
今がチャンスだ・・・!」
ものすごい汗をかいて、店主が
苦しそうに、そう言った。
魔力の枯渇状態だ。
「おう! 任せろ!」
オレの返答は、それでじゅうぶんだった!
オレは、すぐに魔獣たちの元へと走る!
「おりゃ!」
バキンッ! バゴン!
凍ってしまった魔獣たちは、体のどこを斬っても、
氷ごと、体が粉々に砕けていく!
バキッ! ドゴッ! ドコン!
凍ってしまった魔獣たちは、
もはや『氷の彫刻像』のように
いとも簡単に、砕け散る!
バキバキバキッ!
「はっ!?」
ギュン!
魔獣たちを斬って進んでいた矢先に、
目の前に、巨大な拳が迫ってきた!
その巨大な拳は、ほかの魔獣たちを粉砕して、
オレへ向かってくる!
慌てて後方に跳んだが、その巨大な拳のほうが早い!
「ぐっ!」
ドン!
オレは迫ってきていた巨大な拳を蹴って、
真横に避けた!
地面を転がりながら着地し、なんとか回避できた!
「はぁ、はぁ・・・危ないな・・・!」
後方に跳んでいたし、蹴ったおかげで
ほとんど無傷だったが、あんな自分の身長と
同じくらい大きな拳で殴られたら・・・
さすがのオレもミンチ肉になるだろう。
「はぁ・・・やっぱり、こいつが残ったか!」
オレの目の前には、すでに
あのバカでかい魔獣・・・
10m越えの『ゴリラタイプ』が仁王立ちしていた!




