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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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聖騎士とバンパイア




「あ~、あれをたくさん作って、

この国の『平和』を盤石のものにする~・・・。

それが、我の使命~・・・ここにいる理由だ~。」


ミヒャエルが後方を指さしながら

そう説明するが、やつの後ろに、

なにがいるのかは、ここからでは、よく見えない。

黒い檻がたくさんある・・・。

あの中に、やつの言う

『バンパイアの血が馴染んだ魔獣』がいるのか!?


「・・・ずいぶんゆっくりとした語り口調で、

あくびが出そうだったが、

お前がここにいる理由は分かった!

危ないな、お前の存在は・・・!」


店主が、そう言って、剣を構えている。

しかし、店主はすぐには動かない。

いや、動けない。

オレも、剣を構えつつ、動けない。

やつの危ない思想を聞かされて、

逆に、迂闊に手を出せなくなった気がする。

手を出せば・・・こちらがやられるような、

そんな危機を感じている。


理解はできないが、やつの言っていることは分かった。


やつは、操れる魔獣を生み出し、

人を襲わせていたわけだ。

そうして、人々が惰性で生きないようにするために。


ここから一番近い町『プロペティア』には、

1匹か2匹ほどの魔獣が現れていた・・・。

もし、この『洞窟』にいた魔獣たちすべてが

町を襲っていたら、壊滅していただろう。

やつには、それができたはずだ。


でも、そうじゃない。


やつは、壊滅させるのが目的ではなく

惰性的に生活させないために、

魔獣襲来という適度な『脅威』を

あの町に、いや、この国全体に?

与え続けてきたらしい・・・。


正気の沙汰じゃない!


「な・・・なんで・・・キ、・・・キミは・・・。

いったい、いつから・・・!?」


「!」


デーアが、放心した状態で、

座り込みながら、ミヒャエルに向かって

そうつぶやいた。


「あ~、まだ質問の時間が続くのか~?

我は、そろそろ・・・あ~、まぁ、いいだろう。

我が、ここで『平和』を生み出し始めたのは、

つい最近のことだ~・・・。

まぁ~、ここにたどり着くまで、

あっちこっち場所を変えて~・・・。

これまで、ちょっと復活に時間がかかっていたのだ~。」


頭がイカれているが、

律儀に答えてくれるようだ。


「復活?」


オレも質問してみる。


「あ~・・・我が『バンパイア』になった

数百年前・・・我を討たんとする聖騎士とやりおうたのだ~。

あ~、そうそう、ちょうど、そこの女のように、

青白い鎧を着た男だった~・・・。

あれは~・・・我の親友だった~・・・。」


ミヒャエルが、目を閉じて天を仰ぎ、

なにかを思い出しながら話している。


数百年・・・オレより若いように見えていたが、

完全にオレたちより年上だ。

『バンパイア』とは老化しないのか?

いや、死ぬことがないのか?


「あれは大真面目でな~・・・。

親友である我に、逐一、騎士団の動向を知らせてくれるものだから、

我としても計画を~、すすめやすかったのだ~・・・。

当時の我の計画は、我の同胞を増やし、

この国の半分の人間を『バンパイア』化することだった~・・・。」


『バンパイア』化・・・

自分の血を与えてまわったということか?

この国の半分の人間に・・・途方もない話だ。


こいつは、本当に数百年も生きてきたのか?


オレの母国の教科書にも登場していた

『バンパイア』が・・・

まだ死んでおらず、

目の前に生きているということか!?


「しかし~、我の血に馴染む者は少なく、

計画はとても長い時間を要してしまった~・・・。

それゆえに、あれが気づいてしまったのだ~。

我がまったく老化しないことに~・・・。」


それは、当然のことだ。

親友であるならば、老化しない友に

すぐに気づいたことだろう。


そして、きっと、その時のショックは

とても大きかったことだろうな。


「あ~、一応は、我の理想とする『平和』を

あれに説明して、同意を得ようとしたのだが~・・・。

あれは、大真面目で頑固だったし~、それに・・・

我より頭が悪かった~・・・ふひひ!

かくして交渉は決裂し、親友関係も決壊し~・・・。」


そこで、ミヒャエルがニヤリと笑い出した。


「ふひひっ! 我とあれが戦い始め、

結果として、我の計画を実現させたのだ~!

人々から惰性が消え~、つねに緊張感を持って生きる~!

勤勉に~、汗と血を流す『平和』が訪れた~!」


こいつの話を聞いていると、

背筋がゾクゾクする・・・!

今まで感じたことがない恐怖を感じる!


「だが~・・・あれが、『聖剣』なんぞ

持ち出してくるとは思わなかった~・・・。

年老いた聖騎士の剣では、我を倒すには至らぬと~・・・

軽視したのが、我の油断~・・・。」


ミヒャエルが、チカラなく首を垂れ、下を向いた。


「せ、『聖剣』!?

ま、まさか、その聖騎士とは・・・

数百年前に『バンパイア』を全滅させたという

この国の英雄、聖騎士ラクテアか!?」


店主が、そう言い出した。

そういえば、デーアが、

大昔の偉大なる聖騎士がどうとか、

国境の村で話してくれていた気がする。


「あ~、あれは~、『偉大』でもなんでもない~・・・ふひっ。

ただ『聖剣』という『魔道具』が強かっただけだ~。

あの『聖剣』で、我の体をバラバラに斬り分けて~、

すべてを燃やされた~・・・。痛くて~熱かった~・・・。

しかし、そこで、あれも油断したのだなぁ~・・・。

我のすべてを燃やせばよかったものを~・・・

我の首をさらす、『さらし首の刑』を実行したのだ~。

国中の人間から、顔に石をぶつけられた~・・・あの痛みは~・・・

我を、次なる理想の『平和』へと進ませる~

強き想いを抱かせてくれた~・・・ふひひっ!」


「っ!」


ミヒャエルが急に顔をあげて、

狂気に満ちた表情で笑っている!

それは、『強き想い』なんて、生易しいものじゃない!

おそらく、やつの原動力は『憎しみ』・・・

人間に対する『憎悪』だ!


「ふひひひひっ! かくして~、

我は首のまま、あらゆる生き物に血を与え、操り、

この国の、あっちこっちへ逃げ続け~・・・

今日まで生き延びたわけだ~・・・。

あ~、いくら不死身とはいえ、ここまで復活するのに

とてもとても、長い長い長~い、時間が必要だった~・・・。

我が今日まで生きられたのも、すべて

『オラクルマディス神』の御心がそうさせたのだ~。」


首だけで・・・!?

つまり頭だけ残っていても、体を再生することができるのか!?

肺や心臓がなくとも死なないのか!?

つまり、やつにとっては、どんな致命傷も

回復できるということか・・・!


まさに不死身・・・!

人間をやめて魔物化するということは、

こういうことなのか・・・!?


「あれの最期を見れなかったのは残念だったが~・・・

スンスン・・・。

そこの女は、あれと似たようなニオイがするなぁ~・・・。

おそらく、あれの血縁者と言ったところか~?

長生きは~、するものだなぁ~・・・ふひひっ!」


ミヒャエルが鼻を鳴らして、ニオイを嗅ぎとっている。

動物のような、すごい嗅覚なのだろうか?


やつの嗅覚の情報が正しいのであれば、

デーアは、大昔の聖騎士の子孫なのか?


大昔の聖騎士も、まさか

首だけのやつがこうして生き延びているなど

思いもよらなかっただろうな。


「ひっ・・・!」


デーアは、ガタガタ震えながら

座った状態のまま、後ずさる。

恐怖で体にチカラが入らないのか?

自分が思っていた『真実』と

まったく違うものを聞かされて、

まだショックから立ち上がれないようだ。


「我が動けぬ間、たまに見つけた食事に・・・

いや、人間に、世の中の話を聞いていたのだが~・・・

我とは無関係な制約も創っていたのだなぁ?

『獣人族』を『バンパイア』に仕立て上げるなど~・・・

ふひひっ! 

私怨で国中を巻き込むなど、愚の骨頂~・・・。

人間とは~、どこまで愚かな生き物なのか・・・。」


「!」


デーアの体が、ビクンと震えた。

目の前の、本物の『バンパイア』に

自分が信じていたものを「愚か」の一言で

吐き捨てられたのだ・・・。

デーアの受けているショックは、

オレの想像以上だろう。


「だが~、それでもいい・・・。

我が崇拝する『オラクルマディス神』の教えが、

我を中心に改変されていったのを知れた~・・・。

ふひひっ! まさしく、我は~、神といっしょに、

『オラクルマディス教』を~、この国を~、

発展させてきたのだ~~~!!

あ~~~、あの時の~、我を罵倒し、拒絶した、

友にも教えてやりたかった~・・・。

我の理想の~、真の『平和』の形に近づいていく~、

この国の未来の姿を~・・・ふひっ!」


また、ミヒャエルが天を仰ぎ、

気持ち悪い笑みを浮かべた。

鋭いキバが光る。


オレには、宗教のことは分からないが、

こんなにも人間を狂わせることができるのか?

それとも、ただ、こいつだけが狂っているのか?


自分の理想を追い求めた結果が、これか。

人間であることを捨て、魔物化し、

親友をあざむき、傷つけ、多くの者の命を奪い、

数百年という長い年月を生きてきたのか、こいつは・・・。


・・・怖い!

本能的に、こいつが怖い!

今すぐにでも逃げ出したいほどだ!


しかし、ここまで話したということは、

こいつは・・・オレたちを生かしておかないつもりだろう。

話している間も、ずっと殺気を感じる!




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