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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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狂った理想の平和




「ウ、ウソだ・・・キミが『バンパイア』なわけがない!

私が今まで、と、討伐してきた『バンパイア』と、全然・・・違う・・・!」


中央のテーブルの上で、叫ぶように名乗った男に向かって、

デーアは、ボソボソとつぶやくように、

男の存在を否定する。


しかし、その男は・・・


「あ~、お前らが今まで殺してきたのは

獣の耳を持つ『獣人ケモノビト』だろう~?」


言ってしまった。

デーアに向かって、『真実』を。

今まで、オレたちも同じことをデーアに告げていたが、

『その存在』から直接聞かされた『真実』は、

重みが全然違っていた・・・。


「ウソだ・・・ウソだ・・・ウソだ・・・!」


あからさまに動揺しているデーアは、

そのつぶやきを繰り返し、ガタガタ震えながら、

腰のバッグから、例の鏡を取り出した。


「キ、キミがいくらウソをついても、

この『真実』を映す鏡があれば・・・!」


そう言って、デーアが鏡を

中央の男・ミヒャエルに向けて、覗き込む。


ニュシェを映し出したときに、

自ら、その『魔道具』を「ニセモノ」だと決めつけていたのに、

この期に及んで、またそれに頼ろうとするとは・・・。

たぶん、正常な判断ができない状態のようだ。


残念ながら、オレたちの角度からは

その鏡を見ることができなかったが・・・


「ウソ・・・だ・・・!

はぁ・・・はぁ・・・そんな・・・!

いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」


パリィィィーーーン!


ガララン!


鏡を覗き込んだデーアが、

絶叫して、鏡と剣を手から落としてしまった!

『国宝』と呼ばれていた、その鏡は

無残にもバラバラに割れてしまった!


鏡の破片が、赤黒い地面に散らばり、

割れた音が、『洞窟』内に響き渡る。


最初にデーアが鏡を取り出したときに

説明していた通り・・・おそらく、

中央にいるミヒャエルの姿が、鏡に映らなかったのだろう・・・。


ガクンと、その場にヒザを落とし、

うなだれる姿勢になったデーア。


「あ~あ~あ~・・・それは、もしや~・・・

『真実』を映すと言われる『魔道具』、

『オラクル・デ・ヴェリテ(真実の神託)』じゃないか~?

そうだろう? 懐かしいなぁ~・・・。

お前たちの先祖が、それを使って、

我の同胞をたっくさん殺してきた~・・・。

それを割ってくれるとは、ありがたい・・・ふひひっ!」


ミヒャエルが、ニヤニヤしながら

そんなことを言う・・・。

聞き慣れない単語が出てきて、

よく分からなかったが、デーアが持ってきた

『国宝』である鏡の存在を、

ミヒャエルは、昔から知っているようだった。


昔から? いったい、いつから?


それだけじゃない。

デーアたちが、今まで討伐してきた『バンパイア』が

『獣人族』であったことも知っていた。


こいつは、いったい・・・!?


「ぉ・・・おぇぇぇ・・・!

ぐあぁぁぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・!

私は・・・今まで・・・たくさん・・・おぇ!」


デーアが号泣しながら、嘔吐している。

しかし、胃の中には、なにも入っていないらしく、

胃液のような液体しか吐き出されていない・・・。


ミヒャエルから告げられた『真実』を受け止めて、

今まで、あやめてきた『獣人族』たちを

思い出しているのだろう。

どれだけの人数をあやめてしまったのかは分からない。


もしかして・・・

シホが言っていた『ゴシップ記事』のことを思い出す。

騎士団が『獣人族』の村を全滅させたという話・・・。

それに、このデーアが加担していたのかもしれない。


「あ~あ~あ~・・・。

この場を汚さないでくれるか~。

・・・と言っても、今から

お前たちの血で汚れるわけだが~・・・ふひひっ!」


ミヒャエルが、またニヤニヤしながら、そう言う。

その言葉に、オレたちはゾクっとした!

やっぱり、こいつは、オレたちを殺す気だ!


「やりあう前に、聞きたいことがある!

お前が本当に『バンパイア』なのか!?

その『バンパイア』が、ここで何をしている!?」


店主が、剣を構えながら、

ミヒャエルに質問した。


「あ~・・・?

今から死んでしまうお前たちに、

話を聞かせるのは無駄な行為だと思うが~?

あ~・・・久しぶりに人間と話せたし、

お前たちの中に『適合者』がいるかもしれないからな~。

いいだろう。」


ミヒャエルは、そう言って、

テーブルの上で座りだした。


ドサッドサドサッ


また本が数冊、テーブルから落ちる。


「あ~・・・どこから話せばいいのだ~?

我が生まれたところから話せばいいのか~?」


「お前の出生に興味はない!

ここで、なにをしているのかだけ言え!」


店主が、きっぱりとそう言う。


「おいおい~、口の利き方に気を付けたまえよ~?

我はこれでも高貴な伯爵だったのだぞ~?

それに、お前たちより、ずっと年上だ~。

我の機嫌を損なえば、お前たちの知りたい情報が

手に入らないのだからなぁ~?」


「ぐっ・・・!」


ミヒャエルが、けだるそうに、そう答えた。

店主から怒りの気を感じる。

やつの間延びした口調は、

聞いているとイライラする。


そして、イライラしているオレたちを

見下してニヤニヤしている、

やつの顔がまたイライラを増幅させていた。


「我がここでしていたことは、

この国の『平和』をここで生み出していたのだよ~。

お前たちに分かるか~? 『平和』の意味が~?」


ミヒャエルのその風貌からして、

まともな会話が成り立つとは思っていなかったが、

やつが話し出すと、それは確信に変わった。

正常じゃない・・・。

だから、やつの説明が、説明になっていない・・・。


「あ~・・・お前たちには、

分からないようだな~、真の『平和』の意味が~・・・。

いいだろう。

あ~、特別に、お前たちにも分かるように説明してやる~。」


しかし、オレたちの表情を読み取って

自分の説明が伝わっていないことを悟ったようだ。

なかなか頭がキレるやつかもしれない。

いや、実際、キレているのか。

キレすぎていて、オレたちの常識を超えているのか。


「あ~、人間は、環境に順応できる素晴らしい生き物だ~。

それが、どんなに厳しい環境でも、だ~。

しかし、時には~、その素晴らしい能力が、

あだとなって、惰性を生み出してしまう~。

惰性で生きる人間は、どうなるか~? お前たちに分かるか~?

幸福を感じないのだよ~。中には、そんな状態が続くことを、

不幸だと感じる人間もいるぐらいだ~・・・。

そして、勝手に不幸を感じた人間は、

幸福を感じている他者を勝手に嫉妬して、勝手に憎み、

争いを始めてしまうのだよ~・・・。

争いを始めなければ『平和』でいられるのに~・・・。

なんとも滑稽な話だ~。でも、これが『真実』だった~・・・。

神の教え通りに生きていた我も、その『真実』を知って、

言葉を失ったものだ~・・・。」


ゆっくりとした口調で、ミヒャエルは語り始めた。

言っていることの全てを理解できないが、

なんとなく、ぼんやりと分かってくる・・・。


こいつの危ない思想が・・・。


「そ・こ・で、だ~!

我が、人間の惰性を無くす存在になることにした~・・・!

ふひひっ、我が『バンパイア』となった瞬間、

人間たちから惰性が消え去り~、

この国が『平和』を取り戻した~。

分かるか~? ん~?

お前たちの頭脳で、我の話についてこられるか~?」


・・・狂っている。

今まで、『ソール王国』で、犯罪者を捕まえて、

尋問することもあったが、話が通じなかったやつはいなかった。

どんな人間にも少なからず、

自分が犯してしまった罪に対して

『罪悪感』を抱くからだ。


しかし、ミヒャエルという男の言葉からは、

そういう『罪悪感』を感じない。

むしろ、自分が善行をしている気でいる。


こういう相手とは、話が通じない。


「あ~、ここで何をしていたか、だな~?

我が血を魔獣たちに与えることで、

多少なりとも、魔獣を我の下僕にできるのだよ~。

そうして、我に従順な魔獣たちが

人間たちの『平和』に欠かせない存在になる~。

まぁ~すべての魔獣が、そうなるわけではないが~・・・。

あ~、そこの『ラスール』なんかは、

なかなか知能もあるようだから、我の血に適合しやすいようだ~。

それに対して、『ギガントベア』のほうは、

知能が足りないせいで、あまり言うことを聞かない~・・・。

よく制御を失って、ここへ戻ってこなくなる~・・・ふひっ!」


ミヒャエルは、黒い檻の中で眠っている魔獣たちを

指さして、説明を続けている。


血!?


『バンパイア』は、血を与えることで

仲間を増やせるというのか!?


「知能だけあってもダメなようだ~。

我の血が馴染むまで、耐えうる体力も必要だ~。

うまく馴染むまで耐えれたら・・・あぁ、なる~・・・。

あれは、まぁまぁいい出来だ~。

劇的な進化を遂げた~・・・ふひひ~。

あれが我の理想の『平和』だ~。」


そう言って、ミヒャエルは、

自分の後方を指さした。


あまりにも広い場所で、黒い檻ばかりが

並んでいるため、ミヒャエルがどこを指さしたのか、

いまいち分からない。

奥に、なにかいるのか?





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