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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
191/502

神と相反する存在




「はぁ、はぁ!」


「はぁ・・・はぁ・・・!」


オレとニュシェは、しっかり手を繋いで

振り返ることなく『洞窟』の奥へと走った。

この道が最後の一本道と信じて。

もし、この先に分かれ道があったら・・・

地図を持たないオレたちは迷ってしまうだろう。


今のところ、気配は何も感じない・・・。

後ろに置いてきた、店主と聖騎士デーアの気配は、

もう感じられない距離まで離れた。


それでも、後ろからは

店主とデーアの剣撃の音が『洞窟』内に響いている。


あぁ・・・戦いが始まってしまった!


この国の聖騎士との戦い・・・。

デーアは、悪いやつじゃないと感じていた。

それゆえに、こんな展開になってしまったのが残念だ。

そして、確実に、店主を巻き込んでしまった。

聖騎士に『獣人族』をかばっていることがバレて、

戦闘になってしまったのだから、

たとえ生き残ったとしても、もうこの国で

平穏な生活は送れないだろう。


それとも・・・店主は、昔、

聖騎士とやりあったが、咎められなかったらしいから、

ニュシェさえ、うまく国外へ逃がしてしまえば

また普通に生活できるのだろうか?


そして、オレたちは・・・どうなるのだろうか?

この国の聖騎士と・・・

しかも、姫という地位がある者と敵対してしまったのだ。

『ヒトカリ』から、なんらかの罰が下されるのだろうか?

いや、もしかしたら、オレたちは

『全国指名手配』になるのかもしれない・・・。

そうなったら・・・『特命』の旅どころではなくなる・・・!


「はぁ、はぁ・・・。」


ニュシェの走る速度に合わせつつも、

オレたちは、無我夢中で走っていた。

走りながら考え事をしているから、

この状況を打破する良案が、思い浮かばない。

心が不安になっていく・・・。

だから、その不安を振り払うがごとく、走った。


店主を残してきた地点から、もう500mは進んだだろうか。

ふと、気づけば、

オレたちが進んでいる道の先が、明るくなっている!?

まさか、本当に、山を突き抜けて

隣国『イネルティア』へ出れるのか!?

このまま、とりあえず国外へ逃げてしまえば

デーアとの戦いは止まるのだろうか?


オレたちは、その明るくなっている道の先を

目指して走っていったが、


「!?」


「え?」


オレたちは、足を止めた。

オレたちがいる地点から、100m先・・・

明るくなっている道の先に・・・

左右の壁に、煌々と光る大きなランプが垂れ下がっていた!

そして、そのランプの先は、広い場所になっているように見える。

どうやら、外に繋がっているわけではないらしい。


何よりも恐ろしいのは・・・

こんな『洞窟』の最奥に、ランプが灯っていることだ!


扉こそないが、左右の壁に垂れ下がっているランプの先は、

誰かが住んでいる『居住区』のように感じる。


もしかして・・・この先に、

木下が『サーチ』の魔法で感じ取った人間がいるのか?


・・・こんな場所で人間が生きている?

しかも、生活している感じがする?


いったい、どんな人間が・・・。

それとも、まさか・・・

店主が言っていた魔物化した人間か?


それまで走っていたオレたちだったが、

そのランプを見つけてから、

慎重に、ゆっくりと歩いて行った。




道の左右に垂れ下がっているランプまで

たどり着いた時、気配を感じた。


それも、一人じゃない。

たくさんの・・・大勢の気配を。


そして、オレたちは目を疑った!


そのランプの先に広がっていたのは・・・!




「・・・!!」




・・・広い広い空間だった。

その広い空間のあちこちにランプが灯っているため、

ここが、『洞窟』内だと忘れそうになるくらい

明るい場所だった。


天井が、とても高い・・・。

ここまでの道も、10mほどの高さがあって

『洞窟』にしては、広く感じていたが、

ここは、なにかの建物の中のように、

高い高い天井だった・・・。


何より目をひいたのは、地面の色だ。

赤黒い・・・。そして、独特のニオイ・・・。

もしかして絨毯でも敷いてあるのかと思ったが、

絨毯ではない・・・血だ。

真っ黒な血といえば、魔獣の血だろう。

その血が、広い地面を染め上げていた・・・。


ここには、大小さまざまな、

頑丈そうな黒いおりが、いくつも並べられており、

その檻の中には、あの『クマタイプ』や『ゴリラタイプ』の

魔獣たちが入れられていた。

いずれの魔獣たちも眠っている。

空になっている檻もいくつかある。


そして、この広い場所の中央に、

大きくて、真っ白で、丸いテーブルがあった。

地面の赤黒い色に対して、

そのテーブルだけが、やけにキレイな白色で

ものすごく目立っていた。

自然にできたものじゃない。

明らかに、人工物のテーブルだ。


そのテーブルの上に、

本?がたくさん乱雑に散らばって、その上に、

大の字になって、寝てる人間の姿があった。

包帯なのか? 布なのか?

真っ白な布状のもので、全身を巻いていた。

その真っ白な布状の、ところどころには

少し黒っぽい斑点が広がっている・・・まるで血の跡のようだ。

病人なのか?


檻の中の魔獣たちも、

テーブルで寝ている人間も、気配を感じる。


本当に・・・生きている人間が、そこにいた!


「・・・。」


「・・・。」


オレも、ニュシェも、

目の前に広がっている光景が不気味すぎて、

一言も声をあげなかった。


「・・・スン・・・スンスン・・・。」


「!?」


中央のテーブルの上で、大の字になって寝ていた人間の

鼻息が、急に荒くなったかと思ったら、

ムクリと上体を起こした!


そして・・・


「ギョアアアアアアア!」


「っ!!」


いきなり、大きな声を張り上げた!


チャキッ


オレは思わず剣を抜き、

ニュシェにランプを渡して、オレの後ろへ誘導した!


起き上がってきた人間は、どうやら男のようだ。

全身、布状のものでグルグル巻きになっていて、

髪の毛が、ボサボサに伸びている。

顔が・・・少しやせ細っていて、

肌が青白い。病人にしか見えない。

年齢は、オレより少し若い?

でも、ほほが痩せこけているから老けて見える。


目が血走っており、

オレたちを見る目には、明らかな殺意がこもっている!


そして、病人にしか見えないのだが、

まとっている空気が・・・恐ろしい空気だ!

ただモノじゃない!

直感でしかないが、そう感じる!

鳥肌が立っている!


こいつ・・・耳がとんがっている!

それに、叫んだ時に見えた歯は尖っていた!


まさか、こいつは・・・!?


そこへ!


「!!」


キィン!


タッ タッ タッ


後ろに気配が2つ近づいてきたので、

チラリと見たら、店主とデーアが、


ガキィン!


チィン!


剣で斬りあいながら、こちらへ走ってきた!

お互いにランプを持っていないのに、

真っ暗な道で、攻防しながら走ってきたのか!?


そして、オレたちの真後ろまで近づいてから


「な、なんだ、ここは!?」


「・・・はっ!?」


2人とも、この場所の異常さに気づき、

攻撃と足が止まった。


2人が、驚きの表情で

この場所を見回していると、

中央にいた男が、また・・・


「ギョッ、ギョアアアァァァァァ!」


奇声をあげ始めた!

充血している目を大きく開いて、

オレたちを見ている!


「っ!!」


「えっ? えっ!?」


店主が、険しい表情で、

オレと同じく、

男のほうを向きながら剣を構えた。


オレも店主も、直感で

中央にいる男が、ただ者じゃないことを

感じ取っているようだ。


デーアのほうは、驚いた表情のまま

少し呆けている感じがする・・・。


「な、何者だ、あいつは!?」


「わ、分からん!

オレも、今、たどり着いたとこだ!」


店主がオレに説明を求めながら、

オレたちのほうへ駆け寄ってきた。


「な・・・なんなのですか、キミは・・・!?

ここで、なにを・・・

いや、それよりも、その姿は・・・!?」


デーアは、信じられない様子で、

中央にいる男に話しかけながら、

ゆっくりと、近づいていく・・・。

右手に持っている剣を引きずって・・・。


「み、耳がとんがっていて・・・

シッポがなくて・・・

おまけに・・・。」


デーアが、そう問いかけていると

中央にいる男が、ゆっくりと立ち上がった。

テーブルの上に乱雑に散らばっている本が、

数冊、バサバサと落ちる。


「アァァァ!?

あ~・・・あ~・・・。

すごく久しぶりに人間と出会ったので

会話するということを忘れていた~・・・。

あ、あ、あ~・・・声が出にくい・・・。

我ながら、はしたなく叫んでしまった~。」


「・・・っ!!」


とうとう、中央の男が喋りだした!

生きている人間ならば、当然、

喋れるとは思っていたが・・・

その低い声は、この広い『洞窟』内に響いて、

不気味さが増す。


なにより・・・

その男が喋るたびに、口から見えるのだ・・・。

尖っている歯が・・・! 牙が・・・!


「そ、そ、そのキバ・・・!

それでは、まるで・・・まるで・・・

そん、な・・・!

ま、まさか・・・キミは・・・!?」


デーアが震えながら、そう言う。

なかなか次の言葉が出てこない。

怖いのか・・・今まで、自分が見てきた『それ』と

まったく違う姿をしているから・・・。

しかし、知っている情報と、ほぼ同じ容姿の『それ』を

認められないのか・・・。


しかし、目の前の『それ』が

デーアに向けて、律儀にも

自分が何者であるかを名乗り始めた・・・。


「あ~、あ~・・・声の調子が戻らないが仕方ない。

あ~、申し遅れたな~。

我は、ミヒャエル・ドラゴツェン・シャーリク~。

『オラクルマディス教』の忠実なる信徒であり、

唯一、神と相対する存在~・・・『バンパイア』だ~!」


ミヒャエルと名乗った、その男は、

名乗りながら、大きく両手を広げて、

狂気に満ちた目でオレたちを見て、ニタリと笑った・・・!


あからさまに、やつの口から、

鋭く尖った牙が見えていた・・・!






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