表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
189/501

真実の鏡



「国境の村以来だな・・・デーア。

どうして、お前がここに!?」


カチャ


オレは、そう答えながら、

構えていた剣を鞘に納めた。

・・・この動作を見て、こちらに

敵意がないことが伝わればいいが・・・。


「そうでしたね。

私は、大司教様のご命令があって

夜中に、やっと『プロペティア』へ着いたばかりなのですが

『ヒトカリ』から報告を受けましてね。

なんでも、健一さん、キミたちのパーティーが

この『スヴィシュの洞窟』の魔獣たちを

すべて片づけてくれたそうじゃないですか!」


ニコニコしながら、そう言うデーア。


「それで、明日・・・といっても、もう日付けは今日かな?

今日の朝から、この『洞窟』内の確認を

『ヒトカリ』の方々とやる予定でいたのですよ。

この『スヴィシュの洞窟』内の地図は、

『プロペティア』の教会で管理しているので、

『ヒトカリ』としては、地図さえ借りれれば

それでいいと思っていたでしょうけどね。

悪用されないように、私が同行することになっていたのです。」


なるほど、それで『ヒトカリ』が

オレたちにすぐ確認の許可を出したのか。

『ヒトカリ』は、最初から

オレたちだけじゃなく、騎士団とともに

正確な地図をもって『洞窟』内を確認するつもりだったのだろう。


「しかし、万が一、魔獣が

すべて倒されていなかったら困るのでね。

夜の内、魔獣たちが寝ている時間帯に、

私だけで確認をしに来たわけです。

私なら、ちょっと近づけば、気配だけで

魔獣がいるかどうかぐらい分かりますから。

しかし、来てみたら、『ヒトカリ』の報告通り、

ぜんぜん魔獣たちの気配を感じないではありませんか!」


デーアは興奮気味に、よく喋っている。

本当に興奮しているのだろう。


「そして、中へ入って見て、ビックリ!

本当に、すべての魔獣たちが息絶えていました!

健一さん、キミは本当にすごい人だ!

しかし・・・。」


興奮して喋っていたデーアの声のトーンが落ちる。


「すべての魔獣を片づけてくれたキミが、どうして

この時間に、こんなところにいるのか、疑問ですね・・・。」


「あぁ、オレたちがすべて討伐したのは、

昼間の魔獣たちだけだったんだ。

こいつらは夜行性じゃないんだろ?

だから、夜に他の魔獣たちが

この『洞窟』へ戻ってきている可能性があると思ってな。

こうして、しっかり片づけに来たわけさ。」


オレは、木下が『ヒトカリ』の確認係りへ言うために

用意していたウソを、ここで使ってみた。

実際に、夜行性じゃない魔獣たちが

陽が落ちる前に、ここへ戻ってきている可能性は

本当にあるわけだから、あながちウソでもない。

木下が用意してなかったら、

オレではとっさに答えられないところだった。


「なるほど、なるほど。そうですね。

実際、戻ってきていた魔獣たちも討伐されたのですね?

さきほど見かけた魔獣たちの血は、まだ新しい感じでしたし。」


「! そ、そうなんだ。」


そんなところまで確認しているのか、こいつは。

鋭い・・・。


「・・・さて、キミたちがこんな時間に

ここにいる理由は分かりました・・・。

しかし・・・その後ろにいる子供は、

どう説明してくれるんですか?」


ドキっとした!

やはりバレている!

デーアの青い瞳が、鋭くなった。


「こ、この子は・・・!」


とっさに言い訳ができない!


「あの国境の村で、キミたちと別れた後も、私たちは

ずっと『バンパイア』の子供を探し続けていました・・・。

分かりますか? ずーーーっと、ですよ?」


優雅さを取り繕おうとしているのか、

デーアはゆっくり話す。

しかし、今は、逆にそれが怖い口調に感じる。


「その後ろにいる子供が、私たちが探していた

『バンパイア』のようだが・・・?」


「!!」


ニュシェは、すぐに

店主の後ろへと隠れていたのだが、手遅れだった。

デーアからは、もう見えてしまっていたのだ。


「・・・おい、このお嬢ちゃんを連れて奥へ逃げろ。」


「!」


後ろにいる店主が、とても小さな声で

オレにそう告げてきた。

しかし、この距離では、デーアにも聞こえているはず。


「こ、こちらの話を聞いてほしいんだが、

話し合いはできそうか?」


オレは、緊張しながら

デーアにそう聞いた。

デーアからは、怒気や殺気は感じられないが、

すぐにでも攻撃を仕掛けてきそうな空気をピリピリ感じる。


「・・・。」


デーアは、すぐに答えない。

緊張の空気が走る。


「この子は『獣人族』だ!」


「!?」


オレは、そう告げてみた。

たぶん、信仰心が強いデーアに

そのことを伝えたところで、通じるとは思えない。

『獣人族』を『バンパイア』だと教えられているデーアに、

この真実は伝わらない・・・。


デーアが、ふいに笑った。


「ふふっ、この期に及んで、それはないですよ、健一さん。

キミたちも、もう分かっているはずだ。

その子が『バンパイア』だということが。

だから、キミたちは、今、

聖騎士である私から逃げようと考えている。

そうだよね?」


「・・・。」


やはり、ダメか。話が通じないのか。

ただ『認識の違い』を伝えれば、済むだけなのに。

無駄な争いを避けられるのに。

こんなにも、伝わらないのか?


「そうそう、国境の村では

『バンパイア』と『獣人族』の決定的な違いを

私が答えられなかったから、

私としては少しモヤモヤしていたんだ。

あれから、私は『オラクルマディス教』の

教典を復習しなおしたんだよ。

そしたら、別の確認方法が分かったんだ。」


「別の確認方法?」


「それが・・・。」


そう言って、デーアは、

慎重に腰のバッグから、何かを取り出した。

デーアの動きに反応して、後ろにいる店主が

腰の短剣を抜きそうになっていた。


「これだよ。」


「それは? 鏡か?」


デーアが取り出したのは、

手のひらサイズの小さな鏡だった。

ランプの明かりが反射して、少し眩しい。

そして、その鏡から、微量に魔力を感じる。


「そう、この鏡は、ちょっと特別な『魔道具』でね。

真実の姿を映すと言われている鏡なんだ。

言い伝えによれば、『バンパイア』は

姿・形を変形することもできるとか・・・。

だから、『獣人族』に化けていても、

この鏡で映せば、すぐに分かるんだ。

本物の『バンパイア』ならば、

この鏡に姿が映らないそうだよ。」


「・・・そういう『魔道具』もあるのか。

便利なものだな。

では、その鏡で、この少女の姿が

しっかり映れば、デーアは認めるわけか?

この少女が『獣人族』であると。」


オレは、なるべく冷静な口調でそう答えた。


「鏡に姿が映ればの話だが・・・そうなるね。」


本当に、そんな便利なものがあるんだろうか?

そんなものがあるなら、最初から

それを使えば、『認識の違い』は起こらなかったのでは?


「おい、それは、この国の『国宝』じゃないのか?」


オレの後ろにいた店主が、そう言い出した。


「あぁ、そうだよ。

そういえば、挨拶が遅れてしまったね。

『プロペティア』の宿屋『エグザイル』の清春さん・・・。

キミとここで会うのも、奇遇だねぇ。

それとも、これは必然なのかな?」


デーアが、ニコニコしながら挨拶する。

あの小さな鏡が『国宝』だと?

そんな重要なものを、聖騎士というやつは

持ち出せる権利があるのか?


「こいつと会ったことがあるのか?」


オレが、後ろに向かって質問すると


「何度か、な。

まぁ、会ってなくても、聖騎士を知らない者は

この国にはいないが、な。」


店主が、そう答えてから


「その『国宝』は、たしか

持ち出し厳禁じゃなかったのか、デーア?

それをひょいっと持ってこられるあたり、

さすが大司教の娘ってところか。」


店主がデーアにそう言った。


「えっ!? 今、なんか、

重要なことを言わなかったか?」


オレは店主の言葉に驚く。

そんなオレの表情を見て、

デーアが、また楽しそうに笑う。


「ふふふっ、たしかにこの鏡は『国宝』だよ。

まぁ、持ち出したのは私の独断なんだけどね。

それにしても・・・

私の個人情報は、今まで国民に明かしたことはなかったが、

清春さん・・・キミは噂通り、なんらかの方法で

この国の裏情報を得ているようだね?」


デーアが店主の言うことを肯定した。

こいつは、驚いた・・・。

大司教っていうのは、この国の王様みたいなものだから、

その娘ってことは、こいつはこの国の姫様か!?


前回の『レッサー王国』のバカ王子と同じく、

この国でも、こうして国の重要人物と

さりげなく会うことになろうとは・・・。


本当に、オレは事件に巻き込まれやすい体質なのだろうか。


その姫様・・・デーアが持っている鏡が

キラリと光った。


「今は、まぁ、清春さんの事情はさておき・・・

さぁ、そこの子供をこの鏡で映させてくれ。

キミたちの言う通りなのか、どうか、

確認しようじゃないか?」


もし、本当に、確認できる便利なものならば、

このままデーアの言う通りにすればいいのだが・・・。


果たして、本当に確認できるのだろうか?


この国の大司教が持ち出し厳禁としていた『魔道具』・・・

その結果は、宗教側の都合のいい結果しか

出ないのではないだろうか?

そう思うと、デーアの持っている鏡が

怪しい『魔道具』にしか見えない。


その怪しい『魔道具』を、デーアは、

ニュシェに向け始めた・・・!


そこに映し出されたのは!?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かなりシリアスな展開になってきましたね。 全く先が読めません。 ドキドキです。 [気になる点] 国の中枢に近い人物との出会い、それはおっさんの持つ運によるものもありそう。ちゃんとご先祖敬…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ