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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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最悪の再会





『スヴィシュの洞窟』は、全長5kmあると言われていた。

分かれ道がいくつもあり、道が何本も地中を走っている。

そのほとんどは、行き止まりが大半で、

最奥まで繋がっている道は、1本のみ・・・。


オレたちは、『洞窟』へ入ってから、

分かれ道があるたびに、行き止まりまで行ったり、

また分岐点まで戻ったり。それを繰り返した。


行き止まりは、細くなっている道もあれば、

突然、広い場所になっている道もあった。

天井から水滴が滴り、大きな池が出来ている場所もあった。


どの道にも、数体の骨が転がっていた。

剣や鎧の装備品も転がっていた。

この数年間の間に、討伐に失敗した傭兵の骸骨たち。

それを見るたびに、ニュシェが怯えていた。

自分たちも、こうなるかもしれないという恐怖を感じる。

その骸骨たちも、『洞窟』の2kmを過ぎたころには

見かけなくなった・・・。

それ以上、ほかの傭兵たちは

先へ進めなかったということだろう。


出会った魔獣は、やはり『クマタイプ』と『ゴリラタイプ』。

『クマタイプ』は、だいたい1匹で寝ていることが多かったので

寝こみを襲うのはラクだったが、

問題は、『ゴリラタイプ』だった。

だいたい3匹~5匹ぐらいの集団で寝ていることが多かった。

1匹でも起こしてしまえば、その場にいる魔獣たちが

一斉に起きてしまうだろう・・・。

この数年間、夜襲で討伐しようとした

傭兵たちが失敗したのは、おそらく、

この『ゴリラタイプ』の討伐で、しくじったのだと予想する。

ただでさえ、一撃では倒せない魔獣らしいから。

しくじって戦闘になれば、たちまちその騒音で

ほかの場所にいる魔獣たちも起こしてしまうだろう。


だが、オレは、すべての魔獣を一撃で葬った。


寝こみを襲うから、オレとしては失敗のしようがない。

無抵抗の魔獣を倒すのは、

騎士として、情けない倒し方なのだが、

今は、そうも言っていられない。


この状況では、急所なら、どこを攻撃してもいいわけじゃない。

首をはねても、ジタバタと体が抵抗するかもしれない。

心の臓を貫いても、息絶えるまで声を上げるかもしれない。

とにかく怖いのは、ほかに寝ている魔獣を起こしてしまうこと。

それだけは、絶対に避けねばならなかった。

だから、確実に1匹ずつ、頭に剣を突き刺していく。

脳を破壊された魔獣たちは、ビクンと体を震わせるだけで

ジタバタ動くことなく息絶えた。


その数、ざっと20匹以上・・・。

案外、少なかった。

やはり、隣国へほとんどの魔獣が行ってしまったのだろうか。


乱闘になることがなかったので、店主の出番はなかったが、

それでも、気を張りながら、歩いて、走ってを繰り返していたため

オレと同様に、店主も疲れた表情を見せるようになった。

昼間も働いていただろうし、オレと同じくらいの年齢なら

夜まで起きているのもつらいだろう。

黙ってついてきているだけのニュシェも、

眠気と疲労感に耐えて、

フラフラになりながら、懸命についてきていた。


・・・ニュシェだけでも町へ帰してやりたかったが、

ここまでついてきてしまったら、1人で帰すわけにはいかない。

『洞窟』内のどこかで安全を確保して、そこで休ませる・・・

という案も考えていたが、やはり、この『洞窟』内で

絶対安全と言えるような場所など存在しない。

ランプはひとつしかなく、真っ暗な『洞窟』内に

ニュシェを1人にさせるわけにもいかず。

無理やり、連れまわしている感じだった。


それでも、ニュシェは泣き言も文句も言わず、

黙って、懸命についてきていた。


もしかしたら・・・

オレがこんな無茶な行動に出ている原因が

自分にあるのだと、この子なりに感づいているのかもしれない。

責任を感じているのか・・・。


・・・オレが、うまいウソをつけたなら、

ニュシェにそれを感じさせることもなかったのだろうか。




そして・・・




この『洞窟』に入って何時間経っただろう・・・。

店主が、ランプの明かりで地図を照らしながら言った。


「はぁ・・・俺の自作の地図によれば、

もう、ここは入り口から5kmほど離れている。

自作だから、正確な距離とは違うだろうが、

おそらく・・・。」


オレたちの目の前には、分かれ道が3本あった。

そのうちの2本は、すでに確認済みで、

例によって、それぞれの道の真ん中あたりに

店主が小石を3つずつ並べていた。


残すは右端の1本道のみ。


「こっちの道が、最奥へと続く、

最後の道だと俺は思っている。

まぁ、俺もここまで来たことないから、

はっきりとは分からないけどな。

もしかしたら、この先にも分岐があったりしてな。」


店主の言う通り、すでにオレたちは

店主の地図には描かれていない、未確認の道を進んできた。

だから、まだこの先も、分かれ道がある可能性はある。


しかし・・・


「はぁ、はぁ・・・こっちの道から

強めの風を感じるな・・・。」


ヒュゥゥゥゥ・・・


オレは、右端の道から空気の流れを感じていた。

今まで感じていた空気の流れよりも、強い流れを。


「ふぅ・・・ふぅ・・・。」


オレと店主が息を整えている間に、

ニュシェのやつも息を整えていた。

若くても、さすがに体力の限界が近いと見える。


「はぁ、ニュシェ、大丈夫か?」


「・・・ん。」


心配して声をかけてみたが、

ニュシェは、いつも通り口数少なく、

それでいて、力強くうなづいた。


「もう分岐点はイヤだな。

この道が、最後の一本道であることを祈ろう。

さて、行くか・・・

時間の感覚が分からなくなっているが、

そろそろ夜明けが近い気がするし、な。」


店主が、そう言った。


「そうだな、それじゃ行くか・・・ん!?」


オレがそう答えた時!


「・・・どうした?」


「しっ!」


店主もニュシェも、まだ何も感じないのだろうが、

オレは気配を感じた!


「う、後ろから、こっちへ近づいてくる気配がある!」


オレはなるべく小声で伝えた。


「そ、そんな!」


「後ろから、だと!?

俺たちが何度も往復を繰り返しながら

確認したのに、見逃した魔獣がいるというのか!?

そいつぁ、有り得ないぜ!?」


店主とニュシェの表情がこわばる。


「わ、分からん! とにかく、ゆっくりと

こっちへ向かってきている・・・気配は1匹だ・・・。」


店主の言う通り、見逃したとは考えにくい。

『洞窟』内は、ランプの明かりだけが頼りなので、

視界が良好ではない。ゆえに、目視だけに頼らず、

3人で気配を探りながら、ここまで来たのだ。

動ける魔獣がいるなんて・・・。


「そういえば・・・

結局、あのお嬢ちゃんが『サーチリング』で

感じ取ったっていう人間を見つけられなかったな・・・。

最初の分岐点から100m以内なら、

とっくに見つかっているはずだが・・・。」


店主が、そう言った。

たしかに・・・ここまで来て今さらだが、

木下が魔法で存在を感じ取ったという人間がどこにもいなかった。

相手も木下の魔法を感じ取っただろうに。


あの時に一歩も動かなかった人間が、いなかったということは・・・

あのあと、魔獣たちにやられてしまったのか?

でも、新しい死体ならば、骸骨化してないはずだから

そいつの死体を見つけられそうだが・・・。

それとも・・・今、こっちへ向かってきている

気配の主が、そいつなのか!?


「!! 本当だ、なにか来る!」


「っ!!」


距離的に、あと20mといったところか、

店主もニュシェも、後ろから近づいてくる気配を

感じ取ったらしい。3人で緊張する・・・。


スラァァァ・・・


オレは、2人の前へ立ち、剣を構えた。


「ふぅぅぅぅ・・・。」


気配は、もうすぐそこだ。

もしかして、もう魔獣たちが起きだす時間に

なってしまったのだろうか?

魔獣であれば、オレたちのランプの明かりを見つけて、

一気に走ってくるだろう。


ところが・・・!


「!? 明かりだ・・・!」


気配が近づくにつれて、その道が、

奥のほうから徐々に明るくなってきたのだ!

ランプの明かり!?

間違いない、人間だ!


こいつが、木下の言っていた人間なのだろうか?

いったい、今までどこに・・・!?


カツン カツン カツン・・・


小さい足音も聞こえてきた・・・靴の音だ。


そうして、とうとう後ろから来た人間の姿が見えた!


「・・・は!?」


オレは、ドキっとした!


相手からも、もうオレたちの姿が見えている!

・・・もう逃げられない!


「・・・おいおい、こいつぁ、ヤバイぞ!

もう、この町に来てたのか!」


店主が鋭い表情になって、そうつぶやいた。

そうだ・・・ここでこいつに遭うのは、非常にヤバイ!


ゆっくり近づいてきた、その人物は

最初、驚いた表情だったが、

すぐに、険しい表情になった!

オレたちを見て、何かを察したようだ・・・!


そして、その人物が声をかけてきた!


「おやおや・・・

誰かと思えば・・・たしか、あなたは・・・。」


優雅さを気取っている、その口調・・・。

こちらのランプの明かりに照らし出された人物は、

白銀のロングヘアを揺らしながら、

青い瞳で、観察するようにこっちを見てきた!


「健一さん? でしたよね?

こんな場所で会うなんて、奇遇ですね。」


青白い鎧を装備した聖騎士、デーアが、

オレの名前を呼んだ。




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